(ブルームバーグ):人間の介入を最小限に抑えつつ複雑な業務を実行できる人工知能(AI)エージェントに多額の投資マネーが流れ込んでいる。背景には、AI開発競争の焦点がチャットボットから一段と自律的なシステムへと移行していることがある。
その代表例の一つがマナスだ。2025年初めに中国のスタートアップがマナスを投入すると、その高度な機能が大きな話題を呼んだ。昨年12月には、メタ・プラットフォームズが20億ドル(約3200億円)超で買収することで合意した。
しかし、中国政府がこの買収を阻止する方針を示したことで、マナスの先行きは不透明となった。この決定の背景には、AIの覇権を巡る米中の競争激化がある。すでにマナスとメタの統合作業の多くが完了している中で、この取引をどのように解消できるのかも定かではない。

マナスの何が重要なのか
通常のチャットボットが主に情報提供を行うのに対し、エージェントは必要なパスワードや権限を付与されることで、他のアプリやツールと連携しながら複数段階にわたる作業を実行し、ユーザーに代わって自律的に意思決定を行うことができる。
もっとも、多くのAIエージェントは依然として人間の監督を必要としている。マナスはより高い自律性を志向して設計されており、目標達成に向けて一連のタスクを開始から完了まで自ら遂行できる。
マナスはスタートアップの蝴蝶効応(バタフライ・エフェクト)が開発した。テンセントや真格基金、HSGといった中国の主要投資家のほか、米ベンチャーキャピタル(VC)大手ベンチマークからも資金を調達した。
テック企業がエージェントの導入を急ぐのは、人間が担ってきたより幅広い業務を代替し、より迅速かつ低コストで遂行できる可能性があるためだ。そのため、企業や政府にとって、エージェント型AIの戦略的な重要性が高まっている。
マナスの台頭がとりわけ注目されたのは、高度なAIエージェントの実用化が想定より速いペースで進んでおり、かつ米国の研究機関だけでなく中国からも誕生していることが明らかになったためだ。

マナスはどのような業務を遂行できるのか
マナスは、ジュニアアナリストやフリーランスの開発者、リサーチアシスタントが担うような業務を処理できることを示している。多くの場合、人間が手順を追って指示しなくても、同時並行で実行できる。
ウェブの閲覧やコードの作成・実行、ファイル管理などを自律的に行うことが可能だ。顧客サービス分野では、通話対応やユーザーデータの確認、身元確認の実施、個別に最適化された応答を行うことができる。
マナスは複数の情報源に基づく株式調査や投資サマリーの作成、実在のウェブサイトを使った旅行予約、単一のプロンプトからのウェブサイト構築といった業務の遂行を実演し、耳目を集めた。時間の経過とともにユーザーの嗜好を学習し、単発の補助ツールではなく、継続的な協働相手のように振る舞うことも可能だ。
一方で、テストでは一定の限界も示されている。マナスはプレッシャーが強い状況下で挙動が不安定になることがある。目標に向けた実質的な進展がないまま同じ動作を繰り返すループに陥ったり、複雑なタスクに失敗したりする場合もある。
メタによる買収の背景は
今回の買収は、バタフライ・エフェクトが中国から移転し、シンガポール拠点の企業として再出発した後に合意に至った。マナス買収は、個別化された高度なAIツールの構築を目指すメタ創業者マーク・ザッカーバーグの戦略とも一致する。メタはわずか数日で買収を決めた。先進的なエージェント型技術をフェイスブックやインスタグラム、ワッツアップおよび広告プラットフォームに迅速に組み込むまたとない機会と捉えたためだ。
マナスの急成長も魅力を高めた。立ち上げから数カ月で年率換算売上高は1億ドルを突破し、AIスタートアップで屈指の高成長を記録した。今回の買収により、メタはAI分野でアルファベット傘下のグーグルやOpenAI、アンソロピックへの競争力を向上させた。
メタは、マナスを独立したサービスとして維持する一方、自社の各プラットフォームへの技術統合を進める方針を示している。また、中国資本による持ち分は残らないとし、中国国内でのサービス提供は終了する方針だと説明した。
なぜ中国は阻止に踏み切ったのか
中国の国家発展改革委員会(NDRC)は4月27日、メタとマナスの取引について解消を命じる決定を突如下した。マナスへの外国企業による投資を禁止するとともに、すべての当事者に撤退を求めるよう指示。短い発表文では、決定の詳細な理由は示されなかった。
今回の阻止決定が異例なのは、取引が事実上完了していたことに加え、対象企業がシンガポールへ移転し中国事業を閉鎖していたこと、さらに買い手側が中国資本との関係解消を約束していたためだ。今回の介入は、中国政府が自国発の企業とみなす対象に対し、国境を越えていても統制を強める意思を示したものと言えそうだ。
マナスの創業者らは、AI技術の一部を中国で磨いており、シンガポールへの移転後も中国発の成功事例として広く認識されている。
もっとも、今回の発表は完全な不意打ちではなかった。今年初めには、中国当局が国家安全保障への影響を巡る審査を開始し、共同創業者の肖弘および季逸超の両氏は北京で聞き取り調査を受けた。また調査期間中、両氏は出国を禁止されていた。
買収阻止の決定は、AIを巡る米中の主導権争いを反映している。両国政府は、AI技術に関わるハードウエアや人材、知的財産を戦略資産と位置付けている。米国が中国による先端AI半導体の入手を制限する一方で、中国は重要な技術や専門知識の海外流出を防ぐ姿勢を強めているとみられる。
中国は本当に買収を阻止できるのか
中国政府がメタに対して取引の撤回を強制できるかどうかは不透明だが、今回の決定により買収の行方は、法的および運営上の観点から宙ぶらりんの状態に置かれている。
メタに対する中国の直接的な影響力は限られる。しかし、マナスの創業者や中核メンバーの多くは中国国籍であり、これが中国政府にとって企業側に圧力をかける手段となり得る。
取引の一部はすでに実行されている。メタは人員を自社の運営に組み込み、技術や資金の移転も進めている。ただし、マナスのチームは今回の買収において重要な要素であり、新たな製品やサービスの開発や開発計画の完遂、買収合意にひも付く目標の達成には、マナスの人材による継続的な関与が不可欠だ。
中国政府が何らかの歩み寄りに応じる余地があるかどうかを、メタ経営陣が判断するには時間を要する可能性がある。例えば、ライセンス契約や提携といった形で、マナスの人材を維持できる枠組みなどが妥協案として考えられる。
中国の阻止決定に伴う影響は、メタとマナスの買収案件にとどまらない。本土の新興企業がシンガポールなど本土外に拠点を移し、中国の規制から距離を置きつつ国際資本にアクセスするという戦略には、今回の中国当局の介入で疑問符が付いた。米政府も、今回の動きが中国企業と外国企業によるAIディールを実質的に凍結させるかどうか注視している。
「中国内で構築し、海外に移転し、西側の買い手に売却することを検討する中国発のAI企業は、これで中国政府が取引に介入するとの前提に立たざるを得ない」とブルームバーグ・エコノミクス(BE)のマイケル・デン、アダム・ファーラー両氏はリポートで指摘した。
原題:Why China Wants to Block Meta’s Manus AI Acquisition: Explainer(抜粋)
--取材協力:Newley Purnell.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.