2021年終盤、マンハッタンの手狭なアパートで、投資銀行勤務の若者3人がスプレッドシートの処理やスライド資料の調整に追われていた。しばしば未明まで働き詰めだった彼らの傍らで、同居人の1人が大きなリスクを取っていた。

当時ラザードを退職したばかりのガブリエル・ステンゲル氏は、プリンストン大学で共にコンピューターサイエンスを学んだジョン・ウィレット氏と手を組み、起業を志した。ウィレット氏はJPモルガン・チェース出身で、2人はステンゲル氏のキッチンテーブルを拠点に、取引業務に伴う煩雑な作業を代替する人工知能(AI)ツールの開発に専念した。

ステンゲル氏はパークアベニューにあるロゴ・テクノロジーズ本社でインタビューに応じ、「分析業務の多くは、40年前のツールを使い、午前2時に21歳の若手が担っている」と語った。同氏は「なぜエクセルを使わなければならないのか。なぜパワーポイントで提示しなければならないのか」といった疑問をキャリア初期から抱いていたという。

同社はステンゲル、ウィレット両氏(ともに27)のほか、コンピューターサイエンティスト、トゥマス・ラカイティス氏(26)とともに創業された。直近の資金調達ラウンドで評価額は20億ドル(約3200億円)に達し、3カ月前の7億5000万ドルを大きく上回った。

クライナー・パーキンスが主導した同ラウンド(シリーズD)では1億6000万ドルを調達。既存投資家のセコイア・キャピタル、スライブ・キャピタル、コスラ・ベンチャーズ、JPモルガン・チェース傘下グロース・エクイティ・パートナーズも出資したと、ロゴが29日に明らかにした。

事情に詳しい関係者によると、同社のユーザー数は3万5000人超に上り、250社以上の顧客にはラザード、JPモルガン、モエリス、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ウェルズ・ファーゴ、シンガポールの政府系ファンドGICなど、世界有数の銀行やプライベート市場の投資家が名を連ねる。

ロゴは業務負担の軽減を目的としたプラットフォームを提供しているが、業界内では若手バンカーの仕事を奪うとの懸念も出ている。

ロゴ共同創業者の3人

ロゴ・テクノロジーズの創業者は、ウォール街の若手の間で不満が高まっていた時期に、有望だった投資銀行のキャリアを離れた。2020年に発生した新型コロナウイルス禍の頃にはディールが急増。若手は需要の急増に対応するため、自宅から昼夜を問わず働き続けざるを得なかった。

2021年初めには、ゴールドマン・サックスの若手バンカーが作成したスライド資料がソーシャルメディアで拡散。相反する業務の流れや週100時間近い労働時間への不満が明らかになった。

ロゴのプラットフォームは、スライド資料の作成や複雑な企業再編の設計に加え、アナリストが手作業で数十時間を要する調査の生成などが可能だ。従業員構成はエンジニアと元金融実務者がほぼ半々。元金融実務者は「フォワード・デプロイド・バンカー」と呼ばれ、その多くが古巣の金融機関に現在助言を行っており、ツールの活用を最大化する支援を担う。

同社のAIエージェント「フェリックス(Felix)」は、1970年代にニューヨーク市の財政危機回避に関与したラザードの著名投資銀行家フェリックス・ロハティンに着想を得ている。

ロゴの機能の一つに、基盤となるAIモデルを切り替えられる仕組みがあり、アンソロピックのクロード、オープンAIのチャットGPT、アルファベットのジェミニなどに対応する。どのモデルが最終的に業界を主導するか不透明な中、顧客が特定のモデルに過度に依存するリスクを避けられるようにしている。

ステンゲル氏は「多くの経営者にとって、今は非常に不安定な局面であり、正しい選択をしたいと考えている」と語った。ステンゲル、ウィレット両氏がロゴを立ち上げていた頃、投資銀行業務で長時間労働を余儀なくされていた元同居人の一人は、現在プライベート・エクイティー(PE、未公開株)投資会社で働き、日常業務でロゴのソフトウエアを利用している。

ウォール街の若手の間では、ロゴやヘビアなど専門特化型AI企業の台頭に伴い、機械がまず研修段階の新人、その後は上位職の仕事を奪うのではないかとの不安が広がっている。

ロゴの創業者らはこうした懸念を認めつつも、雑務から解放されることで若手はより早い段階から意義のある業務に携われるようになり、メリットを得られると話す。

最終的には、こうした技術によって「AIファースト」の投資銀行が誕生し、従業員は洞察の提供や顧客関係の構築といった「より人間らしい」業務に注力できるようになると、ステンゲル氏はみている。

歴史を振り返ると、人間の役割は突然消滅するのではなく、進化してきた。「人間にとってやるべきことはむしろ増え、判断力をさらに発揮し、野心を生かす余地も広がる」と同氏は述べた。

ロゴは1月にロンドン拠点を開設し、シンガポール、日本、オーストラリアで採用を進めている。創業者らは自社のソフトウエアが金融企業のさらなる市場参入を後押しすると見込む。また、高度な金融業務の民主化が進み、人員を絞った組織や財源が限られた政府でも、高額な手数料を支払うことなく複雑な業務を遂行できるようになるとも予測している。

マンハッタンのパークアベニューにあるロゴの本社

原題:Junior Bankers Sick of Grunt Work Build an AI Tool to Do the Job(抜粋)

トロント 塩原るみ rshiohara@bloomberg.net記事についての記者への問い合わせ先:New York Todd Gillespie tgillespie30@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:Katherine Chiglinsky kchiglinsky@bloomberg.net;David Scheer dscheer@bloomberg.net;Peter Eichenbaum peichenbaum@bloomberg.net

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