(ブルームバーグ):工作機械大手の牧野フライス製作所に対する買収を巡り、政府が海外ファンドに中止を勧告していたことが明らかになった。地政学リスクの高まりで、防衛などの重要分野では買収に制限がかかりやすくなる可能性がある。識者からは、経済安全保障強化の世界的なトレンドにようやく近づいてきたとの声もあがる。
財務相と経済産業相は22日付で、外為法第27条第5項に基づき、同社株式の取得中止を勧告した。牧野フは軍事転用も可能な製品の一種である工作機械を製造し、防衛装備品のメーカーもその製品を使う。片山さつき財務相は買収が国の安全を損なう事態を生ずる恐れがあり、勧告を決めたと23日午前の参院財政金融委員会で説明した。
牧野フの持つ切削技術は、日本がドイツと並んでシェアが高く、高市早苗政権が打ち出した戦略17分野のうち防衛・航空宇宙産業の重要技術に該当する。ローランド・ベルガー日本法人のシニアパートナー、中川勝彦氏はこう述べ、「同分野では経済的な利益より国家安全保障を優先することを示した」1件だと評した。
2017年の外為法改正以降、中止勧告は初となる。改正前でも、08年の英投資ファンドによる電源開発(Jパワー)株の追加取得計画の1件のみだった。事例が少ないため驚きを持って受け止められたが、海外投資家の日本企業への投資意欲を減退させるほどのインパクトはないと識者は見ている。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、イアン・マー氏は、日本がまったく新たな政策転換を行ったというよりも、戦略的に重要な技術に関わる取引に対して介入する用意があることを示唆していると指摘。
日本は海外資本の呼び込みを続けており「全面的な閉鎖ではなく、選択的な引き締めにとどまる可能性が高い」と述べた。
ブルームバーグNEFの日本担当アナリスト、ウメル・サディク氏も、単なる一事例に過ぎず、他の投資家を萎縮させることはないとする。
日本企業を取り巻く環境は大きく変化している。政策保有株の解消などコーポレートガバナンス(企業統治)改革の結果、対日投資を呼び込めるようになった一方で買収に対するハードルも下がった。ただ、米中対立などを背景に、各国が重要技術を国内に囲い込む姿勢を打ち出しており、日本も例外ではない。
外資による投資に対して「日本は割と緩いところもあった」と、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは述べ、今回の中止勧告は「むしろ世界の動きにわりと近づいてきた」と評価する。
売却先を考慮も
買収に制限がかかりそうな技術分野は見通しが付きやすい一方、買い手側について外部から是非を判断するのは難しそうだ。
牧野フ買収を計画していたアジア系投資ファンドのMBKパートナーズは、韓国に本拠を置き、同国や日本、中国で投資を行う。中川氏は、一般的にファンドは買収した企業を数年後には売り出すことが多く、売却先まで考慮に入れて審査しているのではないかと指摘。
またその時々の地政学リスクを基に判断するとみており、「米国の対米外国投資委員会(CFIUS)は対中国対策という色彩が強いが、日本も同じというわけではない」とした。
外部から線引きが見えづらい面もあるが、M&Aに詳しい早稲田大学常任理事の宮島英昭氏は、政府がその都度の状況のもと、安全保障が確保できない懸念がある場合に、買収計画を阻止するのは「合理的」と指摘する。
国主導の再編も
審査の厳格化により日本の株式市場が再び閉じる方向に進むことはないとしても、企業淘汰(とうた)の流れが後退する可能性はある。藤原氏は制限がかかる業種では、「資本効率の悪い企業が生き残ってしまうというリスクがある」と話す。
ここ数年、取引所や投資家から資本効率の向上を求める圧力が強まる中、経営陣による買収(MBO)や企業の再編には海外ファンドや海外企業が絡むケースも少なくなかった。
国主導の再編の必要性があると、EYストラテジー・アンド・コンサルティングのチーフ・エコノミック・セキュリティ・オフィサー、国分俊史氏は提起する。
利益性が低く、放っておくと経済安保上の懸念にさらされるのであれば、「政府系ファンドで買い取ればいい」、「それか倒産するほかない」と述べた。
--取材協力:梅川崇、古川有希.
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.