マーケットコメント
4月21日の米国市場は、米国とイランによる戦闘終結の可能性が低下したとの見方から悲観的な見方が広がった。
停戦期限が迫る中でバンス副大統領を中心とした交渉団がパキスタンに向かっていないと報じられ、先行きの不透明感が強くなった。
むろん、交渉において楽観論が裏切られることはこれまでもあったことから、それほど不安視すべき動きとは言えない(後述するように、トランプ大統領は停戦延長を宣言した)。
とはいえ、株式市場では楽観的な動きが続いてきたことから、この日は3指数揃って株価が下落した。すでにVIX指数はイラン情勢が悪化する前の2月の水準まで低下しており、いわゆるリリーフラリーは一巡している。
逆に言えば、多少株価が下落しても、それは行き過ぎた楽観論の反動という面もあるため、過度に悲観すべきではない。イラン情勢については、3歩進んで2歩下がるペースで改善に向かい、徐々に市場のテーマから外れていくだろう。
なお、引け後にトランプ大統領はイラン政府が分裂状態にあることで交渉に時間がかかるとして、協議が終了するまでの停戦を無期限で延長することを表明した。米国は状況悪化を望んでいないとみられ、楽観的な見方は続くだろう。
この日は3月の小売売上高が公表された。イラン情勢の悪化によって消費者のセンチメントが悪化しているという懸念があったが、市場予想を上回る結果となった。
市場では「ここ数週間で通常より多額の税還付が家計の銀行口座に流入したことを反映している可能性が高い」(Bloomberg)とされた。
足元では株価が上昇しており、今後もイラン情勢悪化の影響は限定的だと思われる。とはいえ、税還付の影響も一時的なものである公算であり、米経済に対して楽観的な見方が強まることもないだろう。
アトランタ地区連銀は3月の小売売上高の結果を反映してGDPNowによる1-3月期の実質GDP成長率の推計値を更新したが、前期比年率+1.2%という推計値はそれほど強いものではない。米経済の成長率は緩やかに減速していく可能性が高いと、筆者は予想している。
4月21日の債券市場は、原油高が進んだことで、金利が上昇した。長期金利は前日差+4.1bp、2年金利は同+4.9bpだった。インフレ懸念が意識されて金利が上昇した模様だが、金利上昇リスクはそれほど高くないだろう。
この日は、4月以降にほぼ一貫して低下してきたMOVE指数が上昇したが、イラン情勢が改善方向に向かっているという見方が変わらなければ、再びMOVE指数が大きく上昇していく可能性は低い。
なお、注目されたウォーシュ次期FRB議長候補の指名公聴会では、市場がFRBの政策見通し変更に迫られるような直接的な議論はなく、金利に与える影響は限定的だった。
ウォーシュ氏の公聴会は「独立性」強調で無風だが、論点は多かった
ウォーシュ氏は公聴会でFRBの独立性を強調し、基本的には事前の想定通りの公聴会となった。ウォーシュ氏は「大統領に指名されたことを光栄に思う。FRB議長に承認されれば、独立した立場で行動する」(Bloomberg)と、市場の懸念を払しょくするよう務めた。
もっとも、大統領の「操り人形」になるのかと問われ、「断じてない」(同)と答えたことについては、これ以外の回答は現実的にはあり得ないだろう。ウォーシュ氏は独立性を強調しながらも、トランプ政権の意向を十分に考慮していく可能性は否定できない。
金融政策の運営については、いくつかの持論を述べており、今後注目されることになるだろう。
例えば、コロナ後にインフレ高進を招いたことについて、FRBが金利の方向性について情報を多く出すことの問題点を指摘した。
SEPやドットチャートにおけるFRBメンバーの見通しの開示を制限するといった議論につながりやすい。もっとも、この議論はすでに行われており、新しい指摘ではない。
そもそも将来の金融政策の不確実性を低下させ、リスクプレミアムを削減することを目的としたドットチャートは金融緩和が必要とされる局面において効果が発揮されやすい。
高インフレが懸念される局面では不要論が生じやすく、開示が制限されることに違和感はない。そうなった場合でも、再び金融緩和が必要となったときに復活して時間軸効果のツールになることが予想される。
他には、ウォーシュ氏はこれまで主張してきたバランスシートの縮小についても、必要性を訴えた。
具体的な時期や方法論については議論がなかったが、バランスシートを縮小すれば、政策金利を下げることが可能であると訴えた。
過剰流動性が金融市場を強化し、利上げの効果を抑制しているという立場は変わっていないようである。
ローガン・ダラス連銀総裁は銀行の規制を緩和するなどの方法により、短期市場の資金需要を抑制することで、FRBのバランスシートの規模を縮小することを提案している。
コロナ後の大幅利上げが景気をほとんど抑制しなかったという事実は、現FRBメンバーも意外なこととして感じている可能性が高い。
その理由の1つとしてウォーシュ氏が主張するバランスシート政策に焦点を当てることは自然なことであり、金融市場にストレスをかけないようにしてバランスシートの規模を縮小していく方法を探っていく流れになりそうである。
もっとも、金融規制の緩和は金融機関をより有利にすると言え、ウォーシュ氏が納得するかどうかは不明である。今後の議論の展開を追っていく必要がある。
他には、物価安定の定義は、物価について誰も話題にしないような状態であるといった発言もあった。
物価目標について、マクロ的なインフレ率の数字にこだわるのではなく、家計の主観的なインフレ実感などに焦点を当てるような発言のように思われるが、こちらも興味深い発言である。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)