(ブルームバーグ):ベンチャーキャピタリストのホセ・マリア・マセド氏は、これまでに約200件の投資案件を手がけてきた。その経験から、課題をただ真面目にこなすことや、評価基準を満たすことだけに過度にとらわれる創業者は避けるべきだと指摘する。優れた創業者は自ら道筋を描き、反骨的で、尖った存在だ――。同氏はインタビューでそう語った。
マセド氏によれば、こうした「シリコンバレー型」は理論上、中国でも通用するはずだ。実際、アリババグループ創業者のジャック・マー氏は大学入試に複数回失敗し、英語教師としてキャリアをスタートさせた。中国のフードデリバリー最大手、美団の王興氏も博士課程を中退して最初の会社を立ち上げている。
しかし、3月に約2週間にわたり中国を訪問し、20-30人の創業者と面会した後、マセド氏は驚きを感じたという。多くは複数の特許や一流学術誌での論文実績を持つなど、華々しい経歴の持ち主だった。一方で反骨的な気質はなかなか見いだせなかったと、X(旧ツイッター)への投稿で指摘した。
同氏が中国で聞いた事業説明は、リスク回避の傾向が強く、まったく新しいものを生み出すというより、既存のものを改良する内容が目立ったという。マセド氏は暗号資産プロジェクトのソラナに出資し、イーロン・マスク氏のニューラリンクにも投資している。
北京の名門大学への進学を目指し必死に勉強した経験を持つ筆者には、マセド氏の指摘にうなずける部分がある。中国の教育制度では標準化された試験が繰り返し行われ、型にとらわれない発想を持つマー氏のような人材は、育てるどころかむしろふるい落とされやすい。
マセド氏のXへの投稿は中国語に翻訳され、微信(ウィーチャット)に掲載された。それが議論を呼び、中国にはゼロからイチを生み出す革新力が欠けているとの見方に同意する声もあった。一方で、シリコンバレー流を中国の創業者に当てはめることの妥当性に疑問を呈する意見も出た。
筆者は、こうした意見についてマセド氏に見解を尋ねた。同氏は「いずれももっともだ」と語り、自身の見方の限界も認めた。言語の壁は双方にあり、同氏のチームは中国語をほとんど話せず、中国の創業者も第2言語で説得力ある説明をするのに苦労していたという。
文化の違いも壁の一つだという。「創業者から本音を引き出す方法を、私たちはまだ十分に分かっていない」と同氏は語った。
中国では、型破りな姿勢は評価されないとの懸念から、文化的規範からの逸脱をあえて隠す創業者がいる可能性がある。同国のベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ市場では、政府や国有企業が最大の出資者で、より低リスクの案件を好む傾向がある。
それでも、こうした見方はマセド氏を中国から遠ざけてはいない。むしろ逆で、すでに現地のファンド1社に出資しており、「今後も投資を増やしていく」と述べている。
同氏の見方では、中国は引き続き、人工知能(AI)スタートアップにとっては米国以外で最も有望な市場だ。今回の訪問を経て、消費者向けハードウエア企業にも強気な見方を強めたという。国内サプライヤーから部品を調達できる点が、欧米企業に対する優位性になるからだ。
マセド氏は、陸上競技の「1マイル4分の壁」の例を挙げる。長年不可能とされていた壁だが、1954年に1人が記録を破ると、その後1年以内に複数の選手が続いたというエピソードだ。
「心理的な壁は、誰か1人が破れば崩れることがある。そうなれば、他の人たちも『自分たちにもできる』と思えるようになる」と同氏は語った。
原題:Chinese Founders Lose Their Rebellious Spark: Tech In Depth(抜粋)
--取材協力:Dana Wollman.
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