マーケットコメント
4月14日の米国市場は、米国とイランが停戦延長に向けた協議を数日中に行うという見方から、楽観論が継続した。
むろん、短期的にはイラン情勢が再び悪化する可能性を考慮する必要はあるが、大きな流れとして状況が改善方向に向かっているという事実もあり、投資機会を逃すことも避けなければならないという心理が働きやすい環境である。
その結果、業績が安定しているとみられるハイテク関連が選好されやすく、ナスダック指数は10日続伸となっている。また、FRBの利下げ観測が徐々に戻ってきていることも、ハイテク関連株の後押しになっているのだろう。
債券市場では金利が低下した。長期金利は前日差▲4.5bp、2年金利は同▲2.7bpだった。この日は米国とイランの停戦延長期待によって原油価格がまとまった幅で下落した。WTI原油先物価格は91.28ドルと、前日から▲7.80ドルとなった。インフレ懸念が後退し、10年インフレ予想(BEI)は前日差▲1.3bpとなった。
もっとも、この日の金利低下の主因は実質金利の低下である。10年実質金利は同▲3.1bpだった。FF金利先物市場が織り込む年内の利下げ回数の予想が約0.41回となり、前日の約0.36回から小幅に増加した。
なお、10年実質金利は3月27日に2.11%まで上昇した後、急速に低下し、この日は1.86%となった。イラン情勢が大きく悪化する前の1~2月は概ね1.7~1.9%程度のレンジだったことから、このレンジに戻ってきた状態である。
今後を展望すると、①FRBは早期の利上げには慎重であることが明らかとなってきており、②一段の原油高は世界経済にとってネガティブであるという警戒感も強くなっていることから、長期金利は徐々に低下していくだろう。
「有事のドル買い」が弱まる中、各国中銀はハト派方向に傾斜へ
米国とイランの停戦延長の期待が高まる中、ドル安圧力が強くなっている。ドル指数は3月30日のピークから約▲2.4%となった。現在の水準は2月末から約+0.5%となっており、いわゆる「有事のドル買い」の圧力はかなり弱まってきた印象である。FRBの利下げ観測がさらに回復し、米金利に低下圧力がかかれば、一段とドル安圧力が進む可能性があるだろう。
ただし、「有事のドル買い」によるドル高圧力が弱まる中で、他の中央銀行はタカ派スタンスを弱めている。ラガルドECB総裁はユーロ圏経済が「イラン戦争を前提としたECBの基本シナリオからは逸脱しているものの、現時点で利上げに傾くほどではないとの認識を示した」という(Bloomberg)。
ECBはイラン情勢の悪化と原油高に対してタカ派的なスタンスを示していたが、これはおそらくドル高・ユーロ安を防ぐことが目的だったのだろうと、筆者はみている。原油高に加えて通貨安によるインフレ圧力が強くなれば、インフレに対する国内の不満が強まりやすい。
ドル高圧力が弱まってくれば、各国の中央銀行のスタンスはハト派化していくことが予想され、為替市場は徐々に安定化していく公算である(ドル安は緩やかなものにとどまる公算)。
日銀は物価見通し引き上げで、利上げなしでもタカ派イメージ維持を狙う
日銀についても、ドル高・円安が進むリスクが低下したのであれば、利上げを急ぐ必要性は低下する。すでに4月の利上げ観測は大きく後退しており、円OIS市場が織り込む4月利上げの確率は約36.0%しかない。そのため、ドル安が進む一方で円安圧力も生じており、ドル円は158~160円を中心とした狭いレンジ推移が続いている。
「有事のドル買い」の巻き戻しによるドル安圧力と、日銀の利上げ観測の後退という円安圧力が綱引きとなり、動きにくくなっている模様である。
日銀は、①ドル安圧力が強いのであれば、円安回避のための利上げは必要ない(経済状況を見極める時間を確保したい)という面があるが、②利上げをスキップすることによって円安圧力が強くなることも避けたい、という状況にある。ギリギリまでフリーハンドを意識しつつも、決定会合がライブになって注目度が高まることは避けたいだろう。
今後は、おそらくメディアを使ったコミュニケーションを通じて決定会合前には利上げの有無が明らかになってくるパターンだと思われる。
Bloombergは4月14日に「日銀が物価見通しの大幅引き上げ検討へ、中東情勢受け原油高-関係者」と報じた。
複数の関係者への取材によって4月展望レポートでは「中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の高騰を主因に消費者物価の大幅な引き上げを検討する見込みだ」という。
利上げについては、「日銀は重視する基調的な物価上昇率の動向を入念に点検して是非を判断すると関係者は語った」とされ、やはりフリーハンドが意識されている模様である。
もっとも、仮に利上げを実施する方向なのであれば、「利上げによってインフレ率の上振れは避けられる」というロジックから、展望レポートのインフレ見通しは大きく変わらないというコミュニケーションがありそうなものである。
物価見通しが上方修正されるという事前のコミュニケーション(アピール)は、利上げはしないけどタカ派的に見られたい、という日銀の狙いもあると予想され、現時点では利上げスキップに傾いているように思われる。
IMFはインフレ期待が安定していれば静観すべしという基本を確認
IMFは4月14日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表した。すでにゲオルギエワ専務理事が示唆していたように、イラン情勢の悪化を背景に経済見通しは下方修正された。IMFは「エネルギー価格高騰に対する中央銀行の基本的な政策対応は、インフレ期待が十分に安定している限り、静観することである」とした。
エネルギーショックは無視するという考え方はパウエルFRB議長と同じである。通貨安のリスクがある中央銀行はタカ派的なスタンスを示しておくインセンティブがあるものの、各国中銀は様子見が基本となるだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)