(ブルームバーグ):リーダーシップとは、記事の見出しで分かるほど単純なものではない-。それが長年ビジネス報道に携わり、さまざまな最高経営責任者(CEO)や意思決定者をインタビューしてきた筆者が気づいたことだ。
新しいポッドキャスト番組「Leaders with Francine Lacqua」では、リーダーたちが公の場ではめったに語らない苦渋の決断や手探りを余儀なくされた場面、キャリアを左右する選択に関するインタビューをお届けする。第1弾のエピソードは慈善家としても知られるメリンダ・フレンチ・ゲイツ氏だ。
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リーダーシップが最も発揮されるのは、安定した時期ではなく、移行期であることがよくある。
メリンダ氏のキャリアで次のステージが非常に興味深い理由の一つも、そこにある。
ビル・ゲイツ氏との離婚が成立してから3年後の2024年、メリンダ氏は20年以上にわたって共に築き上げてきた財団から退いた。自身の社会貢献事業「ピボタル・ベンチャーズ」と、女性の活躍や経済的機会を巡る幅広い取り組みに注力するためだった。
メリンダ氏は2025年に出版された著書「The Next Day」の中で、あらゆる移行期において最も困難なのは、思い切った決断ではなく、自ら下した決定の重みを受け止め、今後待ち受ける新たな挑戦へと実際に足を踏み入れることだと指摘した。
過去を振り返るメリンダ氏の発言は興味深い。リーダーとしてはまだ初期のころに周囲に与えた影響、部下へのフィードバックを48時間以内に行うというルールを設けた理由、そしてマイクロソフトが現在の世界的な巨大企業ではなく、まだスタートアップに近かったころに、同社を辞めそうになったエピソードなども紹介してくれた。
コンピューターサイエンスとビジネスを学んだメリンダ氏は、卒業後すぐにマイクロソフトに入社し、9年間勤務した。当時のマイクロソフト従業員はわずか2000人程度で、女性はごくわずかだったとメリンダ氏は振り返り、そうした環境を「男子のディベート社会」と呼んだ。社内の競争に合わせて自分のリーダーシップスタイルを調整し、適応しようと最善を尽くしたという。
「でも、入社して2年ほど経過したころ、当時25歳くらいだったが、私はそんな自分が好きではないことに気付いた」と話す。「職場以外での人との接し方が嫌だった。なぜなら、職場でやらざるを得なかったゲームと同じような接し方を、外の世界の人たちにもしてしまっていたからだ」と回想する。
メリンダ氏は良心の呵責(かしゃく)にさいなまれた。「いや、これは私には合っていないと思った。それで、本気で辞めようかと考えた」と語る。しかし、その思い切った行動に出る前に、アプローチを変えてみたらどうなるか試してみることにした。毅然(きぜん)とした態度は保ちつつ、人を育てるスタイルに変更したのだ。
「驚いたことに、私は社内で昇進し、私の部門にはその種のリーダーシップを求めて、私の下で働きたいという人たちが集まってきた」という。
48時間ルール
筆者は、メリンダ氏から過去に聞いた発言を確認した。つまり、男性中心の社会に見られるようなリーダーシップは望まない一方、衝突することは一種のスーパーパワーなので、気にならないという内容だ。
メリンダ氏は衝突がより重要な目的のためになるのであればとの条件付きで、今もその考えに変わりはないと認めた。
「明確であるということは、親切なことだと私はよく言っている」と語り、こう説明した。
「『あなたには5つの目標があったが、3つは達成した。でも、4つ目はあまり良くなく、5つ目はかなり悪い結果だった。理由はこうだ。そして、こうすれば改善できると私は考えている』などと伝えるのは相手にとって親切なことだ。なぜなら、彼らが実際に成長し、より良くなるためのフィードバックを与えているからだ。私は対立を恐れないが、重要なのはそのやり方であり、言い方なのだと思う」と語った。
メリンダ氏が直属の部下に設けたルールの一つに、彼らの仕事の進め方で不満な点があれば、48時間以内に自身が直接伝えるというものがある。こうした猶予期間を設けることで、メリンダ氏が自ら冷静になったり、返答する前によく考えたりする余裕ができると同時に、人事評価の時期になって突然フィードバックを受けて部下が驚くような事態を防ぐことができる。
このルールを徹底することで、従業員は「48時間を経過すれば、自分の仕事は評価されたと確信できる」とメリンダ氏は指摘する。
引き際を知る
メリンダ氏の昨年の著書が「人生の転機を迎えたその後」に軸足を置いていたこともあり、筆者は権力の座に長くとどまるリーダーたちについて尋ねずにはいられなかった。本来なら身を引くべきなのに、彼らはなぜそうしないのか。
「自らのエゴがその職位に結び付き、長くとどまる人もいれば、転機を迎えることを恐れてとどまる人もいると思う」とメリンダ氏は回答した。「本人は自分が恐れていることにすら気付いていないかもしれない。移行には勇気が必要なのだ」と話す。
そして、未知のものを受け入れるように助言する。「私は『ご覧なさい。反対側には何か美しいものがある。次に何が来るかは分からないかもしれない。怖いかもしれない。でも、あなたが新たな一歩を踏み出す決断をすれば、自分自身の新たな可能性を開くだけでなく、後に続く人たちに道を譲ることにもつながるのだ』と伝えるようにしている」と述べた。
リーダーには、こうした言葉を耳にする機会があまりないともメリンダ氏は指摘する。「権力の座に就くと、周囲は常に『よくやっていますね』『素晴らしいですね』『最高じゃないですか』としか言わなくなる。だからこそ、自分の周りに真実を語ってくれる人を置き、彼らの言葉に耳を傾ける姿勢を持たなければならない」。そうすることで、引き際を知ることができる。
真実を語ってほしいと明確に要求を
筆者が取材してきたリーダーの多くは、少なくとも初期のころは高い地位にある自分に、現場の声が届かなくなってしまうことを心配しているように見えた。
この点をメリンダ氏に伝えると、「私自身もそれを気にしている」と答え、「財団にいた時も、誰が真実を話していないのかと心配していたし、実際に語っていない人がたくさんいることも知っていた。それでも、私のリーダーシップや、組織で何か間違っていると思うことについて、真実を語ってくれる人を2、3人は見つけることができた。だから私は、彼らが安心してそれを言える環境を整える必要があった」と振り返る。
これには、リーダーから真実を語ってほしいと明確に要求する必要があるという。メリンダ氏が提案するスクリプトはこうだ。
「私はこうしたフィードバックを歓迎しており、あなたから率直な意見を期待していることを知ってほしい」。そして、もし何も出てこなければ、こちらからフォローアップする。
「例えば、あなたがどこかで講演をして、広報担当者に建設的なフィードバックが欲しいと伝えておいたのに、その後何も言ってこなかったとする。そうした場合、フィードバックを送るよう相手に求めるのがあなたの仕事だ」とメリンダ氏は語る。
ジェンダーの問題
メリンダ氏は企業での経験、そしてその後の慈善活動を通じて、意思決定の場において他の女性たちが対等に意見を交わし、等しく敬意を払われる環境を整える上で、女性リーダーとして自分が果たすべき役割があることに気付いた。だが、同氏や他の女性トップも感じているこうした責任は、女性だけの問題であってはならないとも指摘する。
「多くの企業は男性によって運営されているため、男性自身が『これまでとは違う文化をつくる。男性だけでなく、女性もリーダーになれる環境を整備する』と宣言する必要がある」との見方を示す。
その結果として、男性が疎外感を抱く可能性をメリンダ氏は心配しているのだろうか。
「あるグループだけが引き上げられ、別のグループが取り残されるという状況はあり得ない」とのコメントが返ってきた。「それは社会にとって決して良いことではない。米国の統計を見ると、多くの若い男性が『自分には同じ機会がない。権利も奪われている。社会の中で良い居場所やロールモデルがあるとは思えない』と訴えている。私たちはこうした問題にも確実に対処する必要がある。社会にこのような格差が生じれば、決して良い結果にはならないからだ」と話す。
生涯の教訓
メリンダ氏は、アポロ計画にも携わった航空宇宙エンジニアだった父親のおかげで、科学技術分野で活躍する女性と早くから接点を持つことができたと考えている。そして、現在も同氏の指針となっているリーダーシップの教訓を与えてくれたのも両親だった。
「自分の意見は言うべきだと両親から学んだ」と振り返り、「カトリックの家庭で育ち、カトリックの学校にも通った。しかし、教会が信徒に語る中で納得できないことがあれば、両親は平気で反論し、地元の教区の神父に『私たちはそれを信じません』と意思表明することもあった。そこから、一人の声でも他の人たちと合わせれば、組織に対して異議を唱えることができることを学んだ」と語る。
それは後に、メリンダ氏のゲイツ財団での役割において不可欠な要素になった。
「途上国では、女性に影響を与えているさまざまな事象を目の当たりにした」としつつ、「誰もこうした問題で声を上げていないことに気付き、私のリーダーシップが必要だと感じた。財団の資金をその分野に振り向けるだけでなく、各国政府や他の資金提供者にも同じように行動するよう促すため、私自身が声を上げなければならないと認識した」という。
信念に基づいて行動を
では、それこそが現代のリーダーが進むべき唯一の道なのか。自ら声を上げ、建設的な衝突もいとわず、メリンダ氏が築き上げてきた数々のルールを忠実に守っていくしかないのか。必ずしもそうではないと同氏は答える。
「良いリーダーになるための道はたくさんあると思う。でも私にとってリーダーシップとは、自分の価値観に忠実に生き、どこにいても一貫して誠実であり続けることを意味する」と説明した。
メリンダ氏は「ビジネス界のリーダーの中には、部下に『あの陣地を攻め落とせ』と命じ、攻め落とし終わった途端に『次はあの陣地だ』と言う人がいる。3つ目の陣地に差し掛かるころには、部下は『ちょっと待てよ。またこれをやるのか。自分は本当にやりたいのか』と感じてしまう。しかし、リーダーが信念に基づいて行動すれば、長期にわたって人々を導くことができると私は考えている」と述べた。
原題:Melinda French Gates’s 48-Hour Feedback Rule: Management & Work(抜粋)
--取材協力:Andrew D'Ercole.
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