マーケットコメント
4月10日の米国市場は、米国とイランの停戦協議を週末に控えた警戒感により、ダウ平均が下落した。もっとも、ナスダック指数は続伸しており、まちまちな展開で、全体としては様子見の状況だった。なお、米国とイランの停戦協議は決裂した。トランプ大統領は交渉終了前に合意は必ずしも必要ではないという考えを示しており、イラン情勢は中途半端な状態が続く可能性が高まった。また、トランプ大統領は12日にイランに対抗して米国がホルムズ海峡を封鎖すると表明した。ホルムズ海峡封鎖をイランが交渉のカードにしていることへの不満があることに加えて、イランが他国に通過の許可を出すことによって、米国抜きで状況が安定化していくことを防ぐ目的があるのだろう。リスクオフによって株価が下落するような状況になれば、トランプ大統領も態度を軟化させることが予想されるが、そういった圧力がかからなければ面子を重視して強硬姿勢が続く可能性がある。
10日は3月のCPIが公表されたが、ヘッドライン(総合指数)は市場予想と一致し、コア指数は市場予想よりやや弱めの結果となった。インフレ懸念や利上げ観測が高まるような結果とはならなかったことは市場の安心感になったが、市場の注目は原油高の影響が反映される今後のインフレ動向であるため、株価の方向感に影響を与えることはなかった。
他には、4月のミシガン大消費者信頼感指数(速報値)が弱い結果となり、現況指数は過去最低となった。イラン情勢悪化の影響がガソリン高などにつながり、消費マインドは悪化している。もっとも、この統計はコロナ後は恒常的に弱めの推移となっており、家計の消費マインドが弱い状況が常態化している。むろん、ガソリン高などによって家計が節約志向を強める可能性はあるが、すでに節約志向は定着しているとみられる。一段と消費を抑制する余地は大きくないとみられ、おそらく貯蓄率を低下させながらも一定の消費水準を保とうとすることになるだろう。したがって、米国の個人消費の鍵を握りそうなのは、これまで米国の個人消費をけん引してきたとみられる高所得者や資産家層になるだろう。今回のミシガン大消費者信頼感指数の結果だけでは分からない部分もあると言え、追加的なデータ(特にハードデータ)を待つ必要がありそうである。
債券市場は小幅に金利が上昇した。長期金利は前日差+4.2bp、2年金利は同+2.9bpだった。イラン情勢悪化への警戒感からインフレ予想が高まり、10年BEIが同+3.4bpとなった。3月CPIは強い結果とはならず、債券市場にとっては安心感となったが、材料としてはやや弱かった。4月のミシガン大調査では、5-10年のインフレ予想が+3.4%と、前月の+3.2%から小幅に上昇したが、市場予想と一致して変化は小幅だったことから、債券市場への影響は限定的だった。FRBは長期のインフレ予想に注目しているが、今のところ市場ベースのインフレ予想(BEI)もアンケート調査ベースの家計のインフレ予想も、かなり安定している。当面は、利上げが議論される可能性は低いだろう。
赤澤経産相の利上げ容認発言は「中長期的」「デフレ脱却」が前提
国内では、12日のNHK「日曜討論」で赤澤経産相が円安圧力を弱めるために日銀が利上げを実施していくということは「一つの選択肢」(発言テキストの引用元は共同通信の記事。以下同)と述べたことに注目が集まるだろう。仮に政府が原油高による家計や政府の負担を軽減するために日銀の利上げを後押しするという
ことになれば、市場では利上げ観測が高まるだろう。10日時点の円OIS市場では、4月の利上げ確率が55.3%織り込まれていたが、これが高まる可能性がある。また、仮に日銀が利上げの根拠を中立金利までの調整ではなく、円安圧力を軽減するために変えるとすると、ターミナルレートは日本経済の実力(自然利子率)から想定されるものより高くなる可能性が高まるため、中長期的な利上げ観測が高まる可能性にも注意が必要である。
もっとも、赤澤氏は自分から日銀の利上げの必要性を主張した訳ではない。他の討論者(第一ライフ資産運用経済研究所首席エコノミストの熊野氏)から円高になると物価抑制が可能ではないかと問われ、赤澤氏は短期的にはガソリン価格引き下げのための補助金を活用すると述べた上で、「中長期的に見たときにどうかという話は当然、別途考えていかなきゃいけないんで、しっかりその辺も考えながらやっていきたいとは思っています」とし、「物価について言うと、やっぱり日銀の物価目標って言うんですかね、かなりもう近くなってますよね。そういった中で、やっぱり実質金利はかなり低いという状態なので、経済に及ぼす影響を見ながら熊野さんがおっしゃったような方向で、ものを考えていくというのは一つの選択肢としてはあり得ると私は思います」と述べたという流れである。
重要なのは、日銀の利上げによる対応は「中長期的」な議論によるものである点である。必ずしも4月決定会合の利上げをイメージしたものではないだろう。足元では経済の下振れリスクを示す経済指標が増えており、日銀は様子見を継続する(利上げを見送る)だろうと、筆者は引き続き予想している。
また、赤澤氏が指摘した利上げの根拠は、あくまでも物価目標の達成に合わせた調整であり、円安回避を優先して利上げが必要になるという趣旨ではない。赤澤氏は、25年8月22日にネットメディアで、拙速な金融引き締めに反対の姿勢を示していた。今回の発言は、デフレ脱却を前提とした利上げの可能性はあるというものであり、それが円安圧力を弱めることになればそれはベターであるといった程度の発言だろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)