(ブルームバーグ):米国・イスラエルとイランとの戦争で、重要な局面で表舞台に姿がなかったバンス米副大統領が、中心的な役割に乗り出す。
バンス氏は米代表団を率いて、紛争開始以来初めてイラン当局者との直接協議に臨む。パキスタンの首都イスラマバードで行われる協議の結果は、かろうじて維持されている2週間の停戦が恒久的な和平に発展するのか、崩壊して地域がさらなる衝突に陥るのかを左右する可能性がある。
バンス氏自身にとっても協議の帰結は重大な意味を持つ。トランプ大統領は、今やバンス氏に事態収拾を託している。成功すれば、2028年大統領選出馬の可能性をにらみ、国際舞台での信頼性を高めることにつながる。失敗すれば評価を損ない、責任の一端を負うことになりかねない。
ホワイトハウスに近い関係者2人はバンス氏について、対イラン交渉を主導したいと望んでいたとの見方を示した。ウィトコフ特使とトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が同行する予定だ。3人はいずれも従来型の外交経験を持たない。
バンス氏は記者団に対し「自分が関与すれば違いを生み出せると考え、関わりたいと思った」と発言。また、「日々の交渉を現場で担ってきたのは主にスティーブ(ウィトコフ氏)とジャレッドだ」と指摘した。
11日に予定されている協議で米国とイランが恒久的な合意に達するかは不透明であり、バンス氏の手腕に対する最終的な評価が下されるまでには数週間を要する可能性がある。ホワイトハウス当局者によると、トランプ氏がバンス氏に交渉の主導を直接要請したという。
ホワイトハウスのケリー報道官は、バンス氏がウィトコフ、クシュナー両氏や、ルビオ国務長官とともに「これらの協議に常に関与してきた」と話した。また、トランプ氏は「イラン側が誠実に対応する意思があれば、前向きな交渉結果に期待している」と、同報道官はコメントした。
「デリケートな局面」
トランプ氏が対イラン攻撃を検討していた際、バンス氏は全面戦争に反対する考えを大統領に直接伝えていた。事情に詳しい関係者が明らかにした。トランプ氏が2月28日、フロリダ州の邸宅で米国とイスラエルによる空爆の展開を見守っていた際、バンス氏はホワイトハウスのシチュエーションルーム(作戦司令室)から電話で参加した。また、トランプ氏が停戦合意を発表した時、バンス氏はブダペストに滞在していた。
トランプ政権1期目にイランおよびベネズエラ担当特使を務めたエリオット・エイブラムズ氏は、「バンス氏にとって特にデリケートな局面だ」とし、「交渉が悪い結果に終われば、彼も同様に責任を負うことになる。運に左右される面が大きい」と述べた。
ホワイトハウスに近い関係者によると、閣僚や特使ではなく選挙で選ばれた指導者が交渉を主導することで、イラン側に対する重みが増すとの見方もある。別の関係者によれば、ウィトコフ氏もその地位の重さを理由にバンス氏の起用を提案したという。
バンス氏は、いわゆる終わりのない戦争に反対してきた経緯から、解決を見いだす動機があると、トランプ政権1期目に大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたロバート・オブライエン氏は指摘する。仮に副大統領が合意をまとめられなければ、トランプ氏が「再び事態を動かす」ための政治的余地が広がるとも話した。
もっとも、こうした力学はバンス氏の立場を一層難しくする。大統領への忠誠と、軍事介入への自身の懐疑との間でバランスを取る必要に迫られることになる。
バンス氏はさらに、保守陣営内部の対立の渦中にも置かれている。強硬な対イラン姿勢を取る勢力と、不人気な戦争を巡り政権に裏切られたと感じるトランプ支持層の一部との間で緊張が高まっている。
ワシントンのシンクタンク、ディフェンス・プライオリティーズで中東プログラムを率いるローズマリー・ケラニック氏は、戦争前の交渉が不調に終わったことで、イランはウィトコフ氏やクシュナー氏を信用しておらず、バンス氏の参加は米国の交渉への本気度を示すシグナルになるとの分析を示した。
「イランとの信頼関係が極めて低い状況にあって、新たな顔、そして抑制志向と見なされる人物が加わることで、イラン側が交渉を一層真剣に受け止める可能性がある」とケラニック氏は述べた。
一方、共和党内の介入主義者は交渉を警戒している。グラム上院議員は8日、イランとの「いわゆる」交渉文書の「設計者」としてバンス氏の名を挙げ、「懸念すべき点」が含まれていると批判。その上で、トランプ氏が恒久的な和平をまとめる能力には信頼感を示した。
このほか、イラン側が望む交渉相手を送り込むこと自体が「悪いスタート」を意味すると、エイブラムズ氏は警告した。
原題:Vance Emerges as Trump’s Iran Closer, a Task Fraught With Risk(抜粋)
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