イラン戦争の影響で、オーストラリア各地でガソリンなどの石油製品不足が各地で深刻化している。産油国であるにもかかわらず、原油のほぼ全量を輸入に頼る日本と比べても深刻な状況だ。国内で原油をガソリンなどに精製する能力の多寡が、明暗を分けている。

オーストラリアでは中国勢などとの競争激化を背景に製油所が相次ぎ閉鎖され、現在は2カ所のみ。国内の石油製品需要の8割を韓国、シンガポールなどのアジア諸国からの輸入に頼ってきたが、中東緊迫化に伴い各国が自国への供給を優先し始めたことで、調達が滞っている。

パニック買いなども起きる中、西オーストラリア州では緊急権限を発動。燃料供給業者に対してサプライチェーンの詳細な情報を提供するよう要請した。1日にはアルバニージー首相は、異例の国民向け演説を行い、公共交通機関への乗り換えによる燃料節約を呼びかけた。

ガソリンなどに関して「今すぐこのように節約をしてくださいと申し上げる用意はございません」と、高市早苗首相が述べている日本とは対照的だ。日本は、原油こそ99.7%を輸入に頼るが、石油製品は必要量の大部分を国内の製油所で賄っており、オーストラリアなどに余剰分を輸出している。

米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)のアナリスト、ケビン・モリソン氏は、石油製品輸入への依存を減らさなければエネルギー安全保障上の危機に直面するとの警告は繰り返し発せられてきたと振り返る。「現在の状況を回避するために歴代のオーストラリア政府はもっと多くの対策を講じるべきだった」という。

米国やサウジアラビアに比べると少ないが、オーストラリアも原油やコンデンセートなどの石油系液体燃料を日量約40万バレル生産しており、日本も輸入している。

米国とイランは8日、2週間の停戦で合意した。ホルムズ海峡の安全な安全な航行も可能になるとされているが、長期合意につながるかは現時点では不透明だ。

処理能力は縮小傾向

エネルギー調査会社ウッドマッケンジーのリサーチ・ディレクター、スシャント·グプタ氏は、「日本は国内精製能力が大きく、備蓄体制も厚いため、ショックへの対応手段が多く構造的にオーストラリアよりもレジリエンスが高い」と評価する。

だが日本の石油産業も抱える課題は多く、手をこまねいていればオーストラリアと同様の事態に直面する恐れもある。少子高齢化や省エネに伴う需要減少が続いており、日本の原油処理能力はピーク時に比べ半減、49カ所にあった製油所は19カ所まで縮小している。

製油所は原油処理能力が大きいほど規模の経済が働く。日本はこれまで比較的小規模な製油所の閉鎖を進めてきたが、エネルギー経済研究所(IEEJ)の昨年3月の報告書によると製油所1カ所あたりの平均原油処理能力はアジア5カ国の中で最も低く、トップの韓国の3分の1以下の水準となっている。

また、同報告書によると日本の石油元売り大手ENEOSホールディングスと出光興産の製油所の稼働率はアジアの他の企業と比べ見劣りする。石油精製は固定費負担が重い装置産業であるため製油所の稼働率が収益力に直結する。稼働率低迷の背景には老朽化に伴うトラブルの増加やタンクや桟橋といったインフラが十分にないことによる製品輸出の低迷があるという。

国内の製油所を維持していくには、輸出能力を引き上げ、海外の大型製油所との競争に打ち勝つ必要があるが、簡単ではない。海外や再生可能エネルギー事業などへの成長投資に加え、老朽化した製油所の維持・管理だけでも巨額の費用がかかるためだ。

ENEOSの3カ年中期経営計画によれば、石油製品を中心とした「事業維持投資」は8200億円と、再エネや液化天然ガス(LNG)などへの成長投資(7400億円)を上回る規模だ。出光でも「操業維持」への投資が、全体の約4割を占める。

ノルウェーの調査会社ライスタッド・エナジーのアナリスト、ニティン・プラカシュ氏は、今回の混乱は「原油調達や操業の柔軟性向上、さらにはショックに対応するための貯蔵や物流体制の強化が必要であることを改めて示している」と指摘する。新たな精製能力への大規模投資を正当化するのは難しいことから、既存設備の柔軟性向上などに投資の重点は変化しているという。

その点においては日本の石油業界も重い腰を上げつつある。石油元売りが加盟する石油連盟の木藤俊一会長(出光会長)は3月の会見で、今回の危機を機に原油調達先の多様化を図っていくべきとの考えを示した。

日本の製油所は中東産原油に適した装置構成になっており、経済合理性の観点からこれまでは他地域の原油を使いにくかった。2025年はわずか輸入量全体の3.8%だった米国産原油などの活用に向けて、今後設備投資や装置構成の見直しが行われる可能性もある。

豪ディーキン大学法科大学院のサマンサ・ヘプバーン教授は、供給途絶時のレジリエンスよりもコスト効率を優先する選択をしたオーストラリアから「日本のような国々は学ぶことで、経済合理性に乏しく見える精製能力であっても戦略的には維持する合理性があり得ることを認識できる」と述べた。

「いったん能力が失われれば、再構築には時間もコストもかかる」と警鐘を鳴らす。

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.