物価変動を反映した実質賃金は2月に2カ月連続のプラスとなった。賃上げが波及する中、パートタイムを除く一般労働者の基本給は過去最高の伸びとなった。日本銀行の金融政策正常化を後押しする材料となり得る。

厚生労働省が8日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、「持ち家の帰属家賃を除く」消費者物価指数で算出した実質賃金は前年同月比1.9%増。市場予想(1.3%増)を上回り、2021年5月(3.1%増)以来の伸びとなった。政府の物価高対策を受けてインフレ率が鈍化したことも、実質賃金の改善につながった。

基本給に相当する所定内給与は全体が3.3%増と1992年6月以来の高い伸び。一般労働者(パートタイム労働者以外)は3.7%増と、比較可能な94年1月以降で最高となった。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は3.3%増だった。

厚労省は1月に調査対象事業所の部分入れ替えを実施し、同月分の確報値から反映された。入れ替えを行う前後の新旧結果を比較した場合、現金給与総額でマイナス0.5%の断層が生じたという。

今回の結果は、賃金と物価が緩やかに上昇するメカニズムは維持されるとみる日銀の見通しに沿った内容だ。日銀は経済・物価が見通し通り推移すれば利上げを継続する方針を維持している。26年春闘が3年連続5%超の賃上げに向け順調に推移する中、物価上昇を上回る賃金上昇の持続性が引き続き焦点となる。

住友商事グローバルリサーチの鈴木将之チーフエコノミストは、物価抑制の影響がやや強いが、名目賃金の3%超えも強みだったと述べ、実質賃金の2カ月連続プラスを評価。金融政策については、「先行きが懸念されるが足元まで見れば利上げしてもおかしくない状況。むしろしておかないといけない可能性がある」と語った。

連合が3日発表した第3回回答集計によれば、平均賃上げ率は5.09%。300人未満の中小組合でも5%と高水準を維持している。UAゼンセンが同日公表した妥結状況によると、組合員の約6割を占めるパート従業員の賃上げ率は平均6.63%と過去最高となった。

6日の日銀支店長会議では、今春闘について、大企業中心に高水準の賃上げが広がる中、地域の中小でも昨年並みの方針を示す企業が多いとの報告が多数寄せられた。一方、中東情勢悪化に伴う原油価格の高騰や物流の停滞で、仕入価格の上昇や原材料の供給制約など影響が出始めており、企業の先行き懸念の強さも浮き彫りとなった。

Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

原油輸入の9割を中東に依存する日本にとって、インフレ加速や経済成長の鈍化で企業収益が悪化すれば、企業が賃上げに慎重になる恐れがある。原油市場では米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は7日に一時1バレル=117ドル台まで上昇した。

日本総合研究所の藤本一輝研究員は、政府対策もあり「3月ぐらいまで実質賃金はプラスの可能性が高い」と予想。4月以降は中東情勢の影響で物価に上振れリスクがあり、実質賃金の下押し圧力になるとみる。その上で、先行きの金融政策は中東情勢がポイントになるが、円安の状況を踏まえた予防的利上げが「4月にある」と予想した。

CPI総合で算出した実質賃金は2月に2.0%増と、3カ月連続のプラスとなった。政府による電気代・都市ガス代補助金の再開などを受けて物価上昇率が鈍化したことが影響した。算出に使用される持ち家の帰属家賃を除くCPIは1月に1.4%上昇、総合が1.3%上昇と、いずれも前月から伸びが縮小した。

他のポイント

  • 特別に支払われた給与は7.1%増-前月8.6%減
  • エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目するサンプル替えの影響を受けにくい共通事業所ベースでは、名目賃金は3.1%増-前月2.3%増
    • 所定内給与は、全体、一般労働者ともに3.1%増-共通事業所ベースでの公表が開始された16年以降で最高

(エコノミストコメントを追加して更新しました)

--取材協力:横山恵利香.

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