ゲーム界で最も有名なキャラクター、マリオの新作映画が間もなく公開される。しかし、主役だからといってマリオが安心していられるわけではない。

「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」は今年最大級の興行スタートになる見通しで、封切りから最初の5日間で世界の興行収入は3億5000万ドル(約560億円)に達すると推計されている。

アニメ作品としては異例の水準だが、前作「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2023年)の成功を見れば驚きではない。批評家からは酷評されたものの、その年の世界興収で2位となった。

新作映画への期待はマリオだけの力ではない。任天堂がここにきてフォックス・マクラウドが登場すると発表し、ゲームファンを驚かせた。このキャラクターは同社の長寿シューティングゲーム「スターフォックス」シリーズのエースパイロットで、マリオとは関係のないゲームの主役だ。声優は米映画「トップガン マーヴェリック」(2022年)で知られるグレン・パウエルが務める。

任天堂が豊富な知的財産(IP)を抱えていることは周知の事実だ。映画事業に参入して以降、ファンの間では米マーベルのように幾つものシリーズを横断的に結び付ける展開に踏み出すのではないかとの観測があった。

これは魅力的な戦略だ。いわゆる「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」は、累計興収300億ドル超と史上最大のフランチャイズだ。マリオと並んでフォックスが新作映画に登場するのは、その布石となる可能性がある。

任天堂はすでにゲーム分野で「大乱闘スマッシュブラザーズ」によって同様の枠組みを構築している。ピカチュウ対ルイージ、カービィ対1980年代のゲーム「ダックハント」の犬とカモといった異なる作品のキャラクター同士を戦わせている。

だが、マリオの生みの親、宮本茂氏はスマッシュブラザーズ型の任天堂のスターキャラクターが勢ぞろいするような映画の構想からは距離を置いている。新作映画へのフォックス登場の発案は映画制作のパートナー、米アニメーション制作会社イルミネーションの創業者で任天堂の社外取締役でもあるクリス・メレダンドリ氏によるものだと説明した。

ただし、任天堂は映像事業の拡大方針を隠していない。今後さらにゲームキャラクターの「カメオ出演」が増える可能性を示唆している。

来年には実写版「ゼルダの伝説」が公開予定で、自社IPを活用した映像制作のための会社「ニンテンドーピクチャーズ」も設立済みだ。現時点での成果は、ストラテジーゲーム「ピクミン」を原作とする昨年公開された短編にとどまるが、今後の展開が注目される。

任天堂にとって、映画や映像そのものが目的ではない。世界的ヒットにもかかわらず、前作のマリオ映画が同社の収益に与えた影響は限定的だった。この分野の売上高は前年比でほぼ倍増し927億円となったが、全体の5%強に過ぎない。

むしろ重要なのは、マルチメディア展開によってゲーム外でもキャラクターの認知と人気を高め、新たなユーザーをゲーム機に呼び込む点にある。同社によると、この映画によりその年の旧作マリオタイトルの販売は30%増加した。その数カ月後に発売された「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」はシリーズ最速の売れ行きを記録し、累計販売は1700万本を超えている。

ジェフリーズのアナリスト、アトゥル・ゴヤル氏は、任天堂が同じ手法を再び用い、今夏に看板級の新作マリオゲームを発表し、年内に発売すると見込む一人だ。

層の厚さ

任天堂にとっての課題は、ここ10年動きのなかったスターフォックスのような中堅IPをどこまでアピールできるかにある。この点で最も成功したのはマーベルで、アイアンマンのような知名度の低いキャラクターを国民的存在へと育て上げた。

ただ最近は勢いを失い、キャスト交代を伴うヒーロー作品の失敗が相次いでいる。マーベルの親会社ディズニーは今年の「アベンジャーズ/ドゥームズデイ」で原点回帰を迫られ、クリス・エヴァンス演じるキャプテン・アメリカを再登場させ、アイアンマンを演じたロバート・ダウニー・ジュニアを悪役に起用した。

ディズニーが、2009年に買収したマーベルの収益最大化を急いだのに対し、任天堂はより長期的な戦略を取っている。こうしたやり方はゲーム機「スイッチ」を通じ成果を上げ、かつては脇役だったゲームシリーズが数百万本規模のヒットに成長した。

ただ、映画事業を通じて、それらをさらに大ヒットへ押し上げられるかどうかは未知数だ。現時点では評価は分かれている。

2023年のマリオ映画で重要な役割を担ったドンキーコングの強化策は、昨年発売の「ドンキーコング バナンザ」の販売に大きくは結び付いていない。

ドンキーコングは「スイッチ2」の後継機が発売されるまで販売が続く公算が大きい。俳優のほかコメディアンや歌手としても知られるドナルド・グローヴァーがヨッシーの声を担当し、米大リーグのロサンゼルス・ドジャースの試合で山本由伸投手とコラボする形で始球式を務めたこともあり、その相乗効果が来月発売の「ヨッシーとフカシギの図鑑」に波及する可能性もある。

ただ、任天堂の次の課題は、スターフォックスや「ピクミン」、「F-ZERO」といったタイトルへの関心を高めつつ、マーベルのスーパーヒーロー映画で顕在化したようなファンの飽きを回避することにある。マリオは確かにスターだが、マーベルやドジャースが示す通り、層の厚さも不可欠だ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:A Nintendo Movie Universe Can Learn From Marvel: Gearoid Reidy(抜粋)

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