(ブルームバーグ):イランの原油輸出は、ペルシャ湾に浮かぶ小さな島、カーグ島にほぼ全面的に依存している。
カーグ島はイラン本土から約15マイル(24キロメートル)沖に位置し、同国の原油出荷の約90%の積み出し拠点となっている。米国とイスラエルがイラン攻撃を開始して以降も、輸出はわずかな減少にとどまっている。イランはホルムズ海峡を通じて自国船の航行を続ける一方、他国船については事実上、許可された船舶を除き通航を制限しているためだ。
同島はすでに戦闘の影響を受けているが、3月中旬の米軍による空爆では軍事施設が標的とされ、石油インフラは攻撃を免れた。その後、トランプ米大統領は紛争終結に向けた協議は進展していると主張しながらも、同島の石油輸出拠点の掌握や「壊滅」を示唆しており、いずれの選択肢も紛争の大幅なエスカレーションとなる。特に地上作戦は重大なリスクを伴い、これまでを大きく上回る犠牲者が出る恐れがある。

米軍のカーグ島侵攻で何が達成されるのか
米国が地上侵攻に踏み切るとの見方は、中東への数千人規模の追加派兵や水陸両用部隊の展開を受けて強まっている。
カーグ島の石油施設を掌握すれば、米国はイランの原油輸出の大部分を停止できる。これにより、原油収入への依存度が高く、長年の制裁で既に大きな打撃を受けているイラン経済への圧力は一段と強まる。また、イランにホルムズ海峡での海上交通再開を迫る交渉カードにもなり得る。
イランには他にも原油輸出拠点があるが、1日当たり約150万バレルを扱うカーグ島に匹敵する能力はない。ホルムズ海峡東端に位置するジャースク港は同海峡への依存低減を目的に建設されたが、出荷は低調で、2021年の正式稼働以降、タンカーへの積み込みは5隻にとどまる。
もっとも、イランは過去にも原油輸出が大きく落ち込む局面を乗り切ってきた。トランプ政権1期目には、厳しい制裁による「最大圧力」政策でイランの原油輸出は現在の3分の1未満にまで減少した。

カーグ島侵攻のリスクは何か
既に、イランとの戦争で十数人の米兵が死亡している。カーグ島の掌握を試みれば、米軍はこれまで以上に大きな危険にさらされる。また、同島は主に石油産業の労働者が居住しており、民間人被害拡大のリスクもある。
イラン領内での地上作戦に踏み切れば、戦争の範囲を空爆以外にも広げ、米国内で高まる批判が一段と強まる恐れがある上、米国を長期的な中東紛争に深く引き込むエスカレーションの引き金になりかねない。トランプ氏自身も英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、カーグ島の掌握は「しばらく駐留する必要があることを意味する」と述べている。
同インタビューでトランプ氏は、カーグ島は「非常に容易に」掌握できるとも語ったが、実際に同島へ到達すること自体が困難な可能性もある。カーグ島はペルシャ湾北部に位置しており、兵員や物資を運ぶ艦船はホルムズ海峡を通過する必要があるが、その間、イラン本土からのミサイルやドローン(無人機)、小型攻撃艇、さらには機雷による攻撃を受けるリスクがある。仮に艦船が湾外にとどまり、航空機で兵力を輸送した場合でも、同様の脅威にさらされる。

米中央軍は3月13日の空爆で機雷保管施設やミサイル関連施設などを破壊したとしているが、それでも米地上部隊は島内および本土側からの抵抗に直面する可能性がある。
イランのタスニム通信によると、ガリバフ国会議長はイラン軍が「米兵の地上侵攻を待ち構えている」と述べた。イランはまた、焦土作戦で応戦し、自国の石油インフラやカーグ島の滑走路を破壊して、領土の占領を防ぐ可能性もある。
原油市場への影響は?
カーグ島からの原油輸出が混乱すれば、世界市場に波及する。湾岸産油国の多くがホルムズ海峡を通じた輸出に制約を受ける中、原油価格は既に1バレル=100ドルを上回っている。
イランの原油生産は世界全体の約3%にとどまるが、カーグ島からの輸出量は多くの石油輸出国機構(OPEC)加盟国の生産量を上回る。輸出の大半は中国向けであり、同国は代替調達を迫られる。
イランはカーグ島への攻撃に対し、中東全域のエネルギーインフラへの攻撃を強化する形で報復する可能性が高く、石油・ガス市場の混乱をさらに深める恐れがある。また、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海で船舶攻撃を行う可能性もある。紅海はサウジアラビアがホルムズ海峡の代替ルートとして利用している。
エネルギー価格の上昇は世界経済のインフレ圧力を強める恐れがある。米国ではガソリン価格が上昇しており、今年の中間選挙では生活コストが主要な争点となる見通しだ。
カーグ島の主要な石油施設とは?
イランの油田からの原油は海底パイプラインでカーグ島に輸送され、貯蔵された後、タンカーに積み込まれる。
同島には最大3000万バレルを貯蔵可能なタンク群が点在する。これは米オクラホマ州クッシングの巨大貯蔵拠点の約3分の1の量に相当する。イラン当局によれば、水深が深いため最大8隻のタンカーが接岸可能で、1日当たり600万バレル超、必要に応じて最大1000万バレルの積み込みが可能だ。
原題:Why Trump Is Eyeing Iran’s Kharg Island Oil Hub: Explainer(抜粋)
--取材協力:Julian Lee、Jennifer A Dlouhy、Ben Bartenstein、Gerry Doyle、Iain Marlow、Cedric Sam、高野 遼.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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