企業向けソフトウエア販売は10年以上にわたり、シリコンバレーにおいて予測可能な収益と高い利益率を確保する定番手法だった。このモデルは、業界屈指のテクノロジー企業の成長を支えてきた。

だが人工知能(AI)の登場により、このモデルにほころびが見え始めている。

いわゆる「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)ポカリプス」と呼ばれる現象は、SaaS企業の株式市場での評価を既に大きく押し下げている。AIツールが収益モデルを根底から変える、あるいは企業そのものを置き換えるとの懸念が背景にある。

例えば、アマゾン・ドット・コムのクラウド部門が営業などの業務を自動化するAIエージェントを開発中だと報じられると、ソフトウエア関連の上場投資信託(ETF)は4%超下落し、個別では約9%下げる銘柄もあった。

業界では、ソフトウエア企業が普及させた収益性の高いユーザー単位の課金モデルが終わりに向かうのではないかとの懸念が広がっている。一方、あまり議論されていない別の変化も企業契約の現場で進んでいる。顧客はもはや特定のテクノロジー企業に長期的に縛られることを望まなくなっている。業界の変化があまりに速く、現在導入したツールが短期間で陳腐化する可能性を警戒しているためだ。

アンドリーセン・ホロウィッツの医療分野の投資家、ジュリー・ユー氏によると、病院向けに製品を販売するスタートアップは従来は複数年契約を目指していたが、現在では顧客の柔軟性を高めるため、1年契約や月単位契約に短縮するケースが増えている。かつては医療機関との契約獲得自体が難しかったが、現在では複数のスタートアップと同時に試験導入を行い、AI製品同士を比較する動きも広がっているという。

「最近では誤った選択をするリスクを踏まえ、特定の1社に長期間コミットしたいと考える企業はなくなっている」とユー氏は語った。

経験豊富な創業者らは、顧客企業が可能な限り迅速にAIを導入しようとする動きを目の当たりにしている。創業12年のリーガルテック企業ファイルバインは、ハービーやレゴラといったユニコーン(企業価値10億ドル以上の未公開企業)と競合する中、これまで法律事務所向けにAI機能を備えた基幹システムを提供することで差別化してきた。現在は、既存システムに対して問い合わせができるエージェント型AIの導入を進めている。ライアン・アンダーソン最高経営責任者(CEO)は、このAIにより顧客の導入プロセスを迅速化し、立ち上げまでの時間が短い競合に顧客が奪われるのを防げると説明する。

AIによるこうした変化は、ベンチャーキャピタルの長年の前提に疑問を投げ掛けている。つまり、企業向け販売は個人向けよりもリスクが低いという考え方だ。2020年代初頭には、顧客獲得コストの高さや利益率の低さが懸念され、消費者向けスタートアップは投資家の関心を失っていた。しかし現在では、企業向け取引も解約率の上昇や収益の変動拡大、競争優位性の低下など、消費者向けビジネスに近い様相を呈し始めている。

現在では、多くの企業向けAI契約が個人利用から始まっている。メンロ・ベンチャーズのプリンシパル、デレク・シャオ氏によると、従業員が「Lovable(ラバブル)」やアンソロピックの「Claude(クロード)」といったAIツールでアプリ開発を試し、そのまま職場に持ち込み、最終的に企業として導入する流れが生まれているという。メンロはラバブルとアンソロピックに出資している。こうした中、有力なAI企業では営業サイクルが数カ月から数週間へと短縮している。

こうした新たな技術領域において、企業が求める契約は共通している。それは短期契約だ。

フォレスターのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト、リサ・シンガー氏は「企業には『AI製品の価格を含めた3年契約は避けるべきだ』と助言している」とし、「3年後にAIのコストがどうなっているかは誰にも分からない」と指摘した。

原題:AI Has Already Come for Software Contracts: Tech In Depth(抜粋)

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