(ブルームバーグ):カリフォルニアから簡潔なメールが最近届いた。「ベトナムからの教訓は2つある。1)勝つ意思がないなら戦争をするな 2)どれほど武装で優位に立っていようと、敵の粘り強さや機転を決して侮るな」という内容だった。
差出人はマイク・アイランド氏だ。耳にしたことがない人も多いだろう。フランク・スコットン氏やフランク・スネップ氏も、広く知られているとは言い難い。
しかし彼らはいずれもベトナム戦争当時、米情報機関の伝説的存在だった。現地に長年駐在し、権力に真実を伝えようと努め、ベトナム人と協働し、無用な殺りくを避けようとした人たちだ。
私は戦争に関する著書を執筆していた時に彼らと出会った。彼らの古くからの仲間たちのグループは今でもメールのやり取りに私を加えてくれている。
予想していた通り、彼らはトランプ大統領が中東で進めていることを、結果を顧みずに大統領職を続けてきた人物として割り引いて考えてもなお、無謀で無責任だと見なしている。
対イラン攻撃は、米フォーク歌手ピート・シーガーの古い曲を思い起こさせる。「俺たちは大きな泥沼に腰まで漬かっているのに、大ばか者は前へ進めと言う」と歌うプロテストソングだ。
トランプ氏がイランで始めた戦争について私が恐れているのは、大統領本人もルビオ国務長官もヘグセス国防長官も、中東やそこに住む人々について、イスラエルのネタニヤフ首相が伝えること以外ほとんど何も知らないという点だ。
ホワイトハウスや国家安全保障会議(NSC)、国務省からは、この地域を数十年にわたり研究してきた専門家が組織的に排除されてきた。
今回の戦争は、ベトナムやイラク、アフガニスタン、あるいは他の米国が敗れた戦いと同じではない。各地の条件はそれぞれ異なっている。ただし重要な共通点が1つある。米国は国益のためにこうした泥沼に踏み込み、救いたいと言っていた人々への関心は見せかけに過ぎなかったということだ。
私が執筆したベトナム戦争に関する本には、20年にわたって開かれていた戦略や段階的拡大を巡るホワイトハウスの会議の出席者は常に米国人だけだったと記した。テーブルにベトナム人はいなかった。
最終的にハノイのかなり苛烈な指導者たちが勝利したのは、彼らがベトナム人だったからだと私は論じた。サイゴンでサングラスをかけていた米国の操り人形たちは、少なくとも同胞が認識できる意味でのベトナム人ではなかった。
ブッシュ(子)大統領は主としてサダム・フセインに対する家族の遺恨を晴らすために、米国と一部の同盟国をイラクに導いた。イラクの大量破壊兵器保有や2001年9月11日同時多発テロへの関与疑惑を当時のブレア英首相と共に誇張した。
最近の米歴史家350人を対象とした世論調査では、2003年のイラク侵攻は米国史上最も重大な外交政策上の失策とされ、トランプ氏の幾つかの愚行をわずかに上回った。
一部のMAGA(米国を再び偉大に)派は、トランプ氏は過去の大統領たちと同じことをしているだけだと主張するだろう。確かに彼らも軽率な軍事行動で有権者の不意を突いた。今日、ホワイトハウスが繰り返しているのと同様だ。しかし世界は、トランプ政権が意図的に無視している教訓を学ぶために代償を払ってきた。
トランプ氏のやり方
トランプ氏はイランでの目的について、日々異なる説明をしている。体制転換を約束する一方で、ホワイトハウスの報道官はそれは選択肢ではないと述べる。昨年6月の空爆で達成したと主張したイランの核施設破壊を、いま再び実行すると言う。米軍地上部隊を投入せずにイランを武装解除すると提案しながら、やはり部隊を派遣するかもしれないとも語る。
前述のベトナムから帰還したグループの一員であるスネップ氏は、元中央情報局(CIA)職員で、米国によるベトナム人への裏切りを厳しく告発した著書「CIAの戦争: ベトナム大敗走の軌跡」を執筆した。
彼も最近メールを寄せた。「憲法で定められた戦争宣言における議会の役割を、トランプ氏が露骨に無視していることを正当化しようとするのは卑劣だ」と指摘。「ベトナムが何かを教えたとすれば、憲法の規定通り、行政府と立法府の両方が関与しなければならないということだ。さもなければ、資金も支持も足りない惨事に行き着く」と警鐘を鳴らした。
過去1年2カ月で明らかになったトランプ氏のやり方は、戦争であれ平和であれ、明確な目標を決して示さないということだ。達成できなかったと非難されないためだ。代わりに物語を毎朝書き換え、勝利を宣言して立ち去る好機を自ら選ぶ。その結果が相手の国に何をもたらすかは顧みない。
トランプ氏は就任演説の日にウクライナでの平和を約束したが、それを実現する唯一の方法はウクライナのゼレンスキー大統領を屈服させ、ロシアのプーチン大統領に譲歩させることだと気付いた。トランプ氏の愚かな対イラン作戦により、米国の弾薬が中東で浪費され、ウクライナ国民は重い代償を払うことになる。
他方、トランプ氏はベネズエラのマドゥロ大統領を排除し、勝利をうたう見出しを手にした。そして今や、ベネズエラ国民をマドゥロ氏同様に残忍な同氏側近らの慈悲に委ねても構わないかのように見える。
今回の作戦による帰結として最も可能性が低いのは、平和で安定したイランだ。最も現実味があるのは混乱であり、イラン国民にさらなる苦難がもたらされることだ。
真実を放棄
多くの殺りくを主導したイラン最高指導者ハメネイ師の死を悼むのは、イスラム過激派以外にいない。しかしトランプ氏がポーカーに興じるかのような軽率さで、大規模な戦争に乗り出し、カードの出方を見てから決めればいいと肩をすくめる姿勢は、いかなる大統領にもふさわしくない。
ベトナム戦争を巡り当時のジョンソン米大統領は誤った決断を下したが、真摯(しんし)な人物であり、幾つかの立派な業績を残したことを疑う者はいない。トランプ氏は軽薄で、自己顕示欲に突き動かされ、その行為の犠牲者への思いやりが入り込む余地はない。
トランプ氏の戦争で望むものを全て手にしているのはネタニヤフ氏だけだ。イラン打倒の戦争に米国を参戦させることは、同氏の長年の野望だった。今後数週間、数カ月に何が起ころうと、ネタニヤフ氏は次の総選挙で勝利する公算が大きい。
それにより同氏は長年の汚職容疑から身を守り、もう1つの執念であるヨルダン川西岸の併合と大イスラエルの形成を推し進める力を得るだろう。これはすでに段階的に進行しているが、西側ではほとんど注目されていないようだ。
ネタニヤフ政権のイスラエルで政治的・市民的権利を決して与えられないパレスチナ人がどうなるのか、見通しは立たない。
世界の大半は、トランプ氏とその側近たちの無知に衝撃を受けている。彼らは予防接種プログラムを打ち切り、飢餓に苦しむ人々への食料支援を撤回し、気候変動を否定し、国際秩序の柱を破壊し、真実を放棄する。
今や彼らは戦争ごっこをしている。戦争の現実について、ベトナムや他の戦場で実際に経験した人々よりもはるかに理解が浅い。世界全体、とりわけイラン国民は、その無謀さの犠牲となる。
(マックス・ヘイスティングス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。著書には「ヴェトナム:壮大な悲劇 1945-1975」などがあります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:America Is Ignoring Lessons From Vietnam to Iraq: Max Hastings(抜粋)
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