(ブルームバーグ):債券トレーダーらが新たな戦略を模索している。イラン戦争で引き起こされた原油高に伴うインフレショックにより、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを見込む従来の有力な戦略が崩れたためだ。
この戦略は、ここへきて途方もない打撃を受けた。主要中央銀行がインフレへの警戒を強めたことで短期債利回りが急上昇。短期金融市場では年内の米追加利下げ見通しが完全に消えただけでなく、原油価格急騰を背景に、一時はFRBがむしろ10月までに利上げを行う確率を50%織り込んだ。
ナティクシス・ノースアメリカの米金利戦略責任者、ジョン・ブリッグス氏は「この戦争が沈静化でなく激化の局面にある限り、市場は経済成長よりインフレの方を懸念するだろう。これまでの供給ショックの経験を踏まえれば、それは妥当だ」と述べた。
同氏を含むウォール街のストラテジストは、容赦ない債券売りに不意を突かれた。2年債利回りはフェデラルファンド(FF)金利の上限である3.75%を上回って推移している。20日には3.89%と、昨年7月以来の高水準で引けた。
2年債利回りがFRBの政策金利上限をこれほど大きく上回るのは、利上げ局面にあった2023年以来。20日にはまた、5年債利回りが昨年7月以降で初めて4%を超えたほか、10年債利回りが一時、8月以来の高水準である4.39%を付けた。

ブリッグス氏は今月、複数の推奨取引を撤回した。その一つは2年債と10年債の利回り差(スプレッド)が拡大するとの見方に基づく、いわゆる「スティープナー」戦略だった。
原油価格の上昇とともにインフレ期待も高まり、短期金利が長期金利より上昇ペースが大きくなったことで、この取引は裏目に出た。インフレ期待の上昇に賭ける別の取引は利益が出ていたが、利益確定のために解消された。
また、TDセキュリティーズは英国の2年債と10年債のスプレッド拡大を見込んだ取引について、損失が許容限度を超えたとして撤退した。
巻き戻し
FRBが労働市場を支えるために今年利下げを行うとの見方から、市場ではスティープナー取引が人気を集めていた。しかし金融当局者は戦争勃発の前から既に、根強いインフレを背景に追加緩和に慎重姿勢を示しており、この戦略にはほころびが見られていた。
紛争の激化と原油価格上昇が、戦略の巻き戻しを加速させた。パウエルFRB議長が18日、インフレ面での進展がなければ追加利下げはないとし、戦争の影響で見通しが不確実だと述べたことをきっかけに、利下げ観測は翌19日に消えた。
20日にはウォラーFRB理事が、雇用市場の弱さを踏まえれば、年内にも利下げが正当化される可能性があるとする一方、原油高に伴うインフレへの影響を慎重に見極める必要性に言及した。
アモバの欧州・中東・アフリカ地域債券統括責任者スティーブン・ウィリアムズ氏は、パウエル議長の発言は「市場で広がっている見方を反映している」と指摘。
「不確実性が最大限に高まっていることを踏まえ、当社では現在、エクスポージャーを中立にしようとしている。状況がもう少し明確になった段階で行動を起こせるよう、余力を温存している」と述べた。
買いの好機
一方、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、アンドリュー・シチュロウスキ氏は、現在の債券価格下落は買いの好機だと主張。デュレーションへのエクスポージャーを増やしたという。
「最終的に12カ月後、18カ月後のFF金利は、市場が現在織り込んでいる水準より低くなっているだろう」とし、「2回を上回る利下げが実施されるというのが私の見方だ」と述べた。
FRBが利上げに踏み切る可能性は低いとし、米2年債利回りが3.7%を上回る状況について、「事実上の上限に達している」と指摘した。
ケビン・ウォーシュ元理事が次期FRB議長に指名されたことも、シチュロウスキ氏の予想に影響している。トランプ大統領がパウエル議長に繰り返し利下げを求めてきたことから、市場ではウォーシュ氏が利下げに傾くとの見方がある。
シチュロウスキ氏は「インフレ率が3%に上昇する状況下ではFRBは利下げをできないが、戦争が今後数週間から数カ月で終結し、従来のトレンドに戻れば、年内に利下げを再開できるかもしれない」と話した。
「労働市場の状況を踏まえると、インフレ率がこの高水準で続くとは考えにくい」とも述べた。
景気減速リスク
市場関係者が直面しているもう一つのリスクは、エネルギー費用の高止まりで、市場の関心がインフレ懸念から景気減速懸念へと移ることだ。
DWSアメリカズの債券部門責任者、ジョージ・カトランボーン氏は「原油価格と米国債利回りが永遠に同時に上がり続けることはあり得ない」と指摘。
「いずれはどちらかが、景気や企業収益のバリュエーション、リスク資産を下押しする可能性を織り込み始めることになる」と述べた。
原題:Bond Market’s Big 2026 Fed Bet Flipped on Its Head by Oil Surge(抜粋)
--取材協力:Naomi Tajitsu、Greg Ritchie.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.