ブライアン・カーボー氏はかつて米中央情報局(CIA)職員として、さまざまな偽名を使いこなし、多様な国を渡り歩き、秘密の任務を遂行してきた。現在はバージニア州のデータ分析スタートアップ(新興企業)アンデサイトの最高経営責任者(CEO)として、会議で投資家からの質問に答え、資金調達を進めている。

同氏も最近CIAを退職し、現場で培ったスキルを企業経営に持ち込む、元スパイ経営者の一人だ。

同氏のような起業家には良い風向きとなっている。トランプ米大統領は来年の国防予算を1兆5000億ドル(約239兆4000億円)という巨額に膨らませようとしている。約50%の増額は、人工知能(AI)など新興技術の追い風となる。イランとの戦争や、同国の高度なサイバー・電子戦能力は、一刻も早く新技術を導入する必要性を強めている。

トランプ氏は大手防衛企業の官僚的でスピード感を欠いた開発体制に、不満を隠さない。こうした状況も資金がスタートアップへ流れる余地を広げる。ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、安全保障関連の技術市場は2033年までに3380億ドルに達する見通しだ。カーボー氏のように現場で最先端技術を使ってきた元スパイは、その優位性が際立つ。

CIAの対テロ担当官だったアーロン・ブラウン氏も、企業経営者に転身した元スパイの一人だ。同氏が創業したランブラは、先端AIアーキテクチャーを開発する。アラビア語を話すライアン・ジョイス氏は、かつてCIAで作戦を担当していた。同氏のジェンログズはサプライチェーンの安全保障を目的に物流トラックを追跡する。

ランブラのアーロン・ブラウンCEO

彼らは「卓越した現場経験」を持ちながら、計算されたリスクテーカーであり、問題処理能力のある人材だと、ベンチャーキャピタル会社ラブロック・ベンチャーのジュリアン・ガリーナ氏は評価する。

「非常に困難な技術的な課題に取り組む覚悟ができている」と語るガリーナ氏自身も、昨年12月までCIAデジタル革新部門の幹部を務めていた。

カーボー氏は2001年、対米同時多発テロの翌月にアフガニスタンに派遣され、国際テロ組織アルカイダを追跡する特命チームに参加していた。

「手掛かりは断片的で関連性を欠き、情報源もばらばらだった。われわれは村から村へと、アフガニスタン中を移動し、情報に振り回された」とカーボー氏は振り返る。

アフガニスタン北部でのブライアン・カーボー氏(2001年10月)

断片的な情報を有意義な手掛かりに結びつける技術は、スピードも精度も不十分だったという。同氏が創業したアンデサイトのプラットフォームは「AIが機械の速度で情報の山から針を見つけ出し、その洞察と事実、コンテキストをアナリストに提供できる」と説明した。

ランブラのブラウン氏もCIAのパキスタン・アフガニスタン部門で反テロ作戦に関わり、オサマ・ビンラディンの追跡に長年取り組む中で、似たような課題を抱えた。

「膨大な量のデータの中に、手掛かりが埋もれていると確信していたが、見逃しているという感触が常にあった」とブラウン氏は語る。

ランブラのCEOになるつもりはなかったが「自分で地図を描き、戦略を定め、これを実現する文化を育てる役割を担う必要があった」と述べた。

もっとも、文化の違いがないわけではない。

カーボー氏は3850万ドルを調達したが、ベンチャーキャピタルの中には政府機関出身者だと機動力を欠くのではないかと、懸念する企業もあった。「政府向けにしか通用しない製品を作るのではないか、民間市場には遅すぎるのではないかと心配されていた」と同氏は振り返る。そこで同氏は民間企業との契約獲得を優先する戦略に出た。

バージニア州アーリントンのランブラ社で勤務中のアーロン・ブラウン氏

レッド・セル・パートナーズのグラント・バースタンディグCEOは、カーボー氏とはCIA在籍当時から旧知の仲だ。医療ケアや安全保障関連のハイテク企業に投資するバースタンディグ氏は、カーボー氏を投資家サークルに招き入れた。

バースタンディグ氏は「情報機関の元同僚から解決すべき問題が持ち込まれたのをきっかけに、政府だけでなく商業サイバー市場でもわれわれなら解決策を提供できることが分かった」と、カーボー氏とアンデサイトを共同創業した経緯を説明した。

ベンチャーキャピタルのゼネラル・カタリストは、アンデサイトの初期調達ラウンドで3000万ドルを出資。幹部のポール・クワン氏は「国の安全を守った人々の実地経験と、技術を拡大してきた民間の専門知識を結びつける、新しいタイプの起業家像だ」とアンデサイトについてブルームバーグに語った。

ベンロック・マネジメントでスタートアップ投資を担うモーガン・ヒツィック氏は、起業家の持久力を試すため3時間の面談を行うという。

「思考の分散や組み立て方、長時間の集中力を見る。こうした資質はゼロから会社を作る初期段階で非常に重要で、諜報機関はそれを育てる」と同氏は述べた。同氏はライアン・ジョイス氏のジェンログズに投資した。さらに元CIAの女性創業者2人と投資の可能性を協議しているという。

元スパイが優れている点としては、従来の枠に捕らわれない発想力も挙げられる。

ランブラを資金面でサポートするコンスタノア・ベンチャーズのグレッグ・サンズ氏は「物語を作るのは数字ではない」と語る。

「われわれが目指しているのは、新興技術を重要な用途と結び付け、卓越した人材を見つけることだ。ビジョンを持ち、物事を実現する方法を知り、壁を突き破る粘り強さを持つ人々だ」と同氏は語った。「しかしそれを実現するには、問題に対する深い理解が必要になる」と続けた。

原題:Tech-Savvy Spies Step Out of the Shadows and Into the Boardroom(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.