運がよければ、今ではロレックスを求めて店舗に入り、そのまま購入して店を出られるかもしれない。

希望していたモデルやスタイルではない可能性はあるが、このブランドの高級腕時計が一部でも比較的入手しやすくなっているという事実は、5年前に大半のモデルで長い順番待ちリストへの登録が必要だった状況からの劇的な転換を示している。

ボーナスを気前よく高級時計に投じることができるようになったのは、新型モデルの低迷を裏付けるものだ。スイスの腕時計輸出は2025年、2年連続で減少した。

 

だが、その状況が変わる可能性がある。ここ数週間で、市場が底を打ったことを示唆する兆候が幾つか見られる。ただし、回復は急反発というより、ゆっくりと勢いを増しつつある段階だ。仮に市場が持ち直したとしても、その恩恵が均等に行き渡ることはないだろう。

スイスの腕時計販売は21-23年に急増した。新型コロナウイルス禍で資金の使い道が限られていた米国や中国の消費者が、高額な腕時計を買い入れた。

スマートウオッチが市場の低価格帯を侵食する一方で、高価格モデルの人気は高まった。しかし24年に入ると、超富裕層が体験型消費へと支出をシフトし、中間層はコスト上昇に直面し、中国の需要も消失したことで、スイスの腕時計輸出は減少に転じた。

反発の初期的兆候は今年1月に表れた。リシュモンが「ジャガー・ルクルト」や「A.ランゲ&ゾーネ」など、これまで逆風にさらされてきたブランドを擁するスペシャリスト時計製造部門で、予想外の増収を計上した。リシュモン最大のブランドである「カルティエ」はZ世代に支持され、すでに好調が続いていた。

その数週間後、「オメガ」や「ロンジン」、「ティソ」のメーカーであるスウォッチ・グループのニック・ハイエック最高経営責任者(CEO)は、25年後半に持ち直しが見られたことを受け、今年は力強い成長を見込むと予測した。

さらに2月に入り、売上高のほぼ半分を米国で稼ぐウオッチズ・オブ・スイス・グループが、今期の売上高見通しを上方修正した。

 

それでも、回復への道のりは一直線には進まない可能性がある。

スイス腕時計の対米輸出は、輸入関税の影響で大きく変動している。トランプ米大統領の関税措置を無効とした米連邦最高裁の判断は、不確実性を一段と高めている。

今後の行方は、米国の高級品需要と相関する傾向がある株式市場の動向に大きく左右されることになる。フォントベル・エクイティー・リサーチによると、関税の影響は次第に和らぐ見通しだが、金価格の上昇分はまだ腕時計の価格に十分転嫁されていない。

 

もっとも、業界復活に向けた最大の原動力となるのは中国の消費者だ。

スイス製腕時計の中国・香港向け輸出が1月に増加した。今年は主要な購買シーズンである春節(旧正月)が昨年より2週間遅い2月中旬からだったことを踏まえると、心強い動きだ。フォントベルによれば、カレンダー要因を調整した基調的な需要は1桁台半ばから後半の伸びとなった。

ただし、この持ち直しは低い水準からの回復であり、春節商戦の結果が重要な試金石となる。今回の回復が本格化すれば、恩恵を受けるのは大手ブランドだろう。

1000万円超のモデル

大手ブランドも低迷の影響を免れてはいない。モルガン・スタンレーと業界アドバイザーのリュクスコンサルトによると、ロレックスの販売本数は昨年2%減の110万本となった。販売数量が2年連続で減少するのはここ20年余りなかったことだという。

ロレックスが供給を需要以下に抑え、より高価格帯へとシフトする戦略を進めているため、それが影響した可能性もある。一方で平均販売価格の上昇により、販売額は4%増加した。

それでも、非上場の大手4ブランドであるロレックスとパテックフィリップ、オーデマピゲ、リシャール・ミルは25年に市場シェアを拡大した。他の高級品分野で上場している大手がシェアを伸ばしているのとは対照的だ。

モルガン・スタンレーとリュクスコンサルトによれば、昨年最も市場シェアを落としたのはスウォッチだった。弱さの一因は、対中依存度の高さにある。昨年の純売上高の23%を中国が占めていた。

このデータはまた、スウォッチ最大の時計ブランドで業界売上高5位のオメガが、ロレックスに押されていることも示している。さらに、スウォッチの高級ブランド「ブレゲ」と「ブランパン」も振るわなかったという。

小売価格が5万スイスフラン(約1000万円)超のモデルへの需要が拡大し、25年のスイス腕時計輸出額の37%を占め、24年の33.5%から上昇した。それにもかかわらず、スウォッチの高級ブランドは伸び悩んでいる。

このデータに異議を唱えているスウォッチは、業界全体よりもハイペースで成長していると主張している。しかし、スウォッチ株は欧州で最も空売りされている銘柄となっており、アクティビスト(物言う株主)の圧力にもさらされている。

結局のところ、スウォッチと業界全体にとって、回復の勢いを保てるかどうかは、中国と米国という2大高級品市場における消費者需要にかかっている。

消費者は欲しいものを欲しいときに買えることを好む。だが、高級腕時計メーカーが歓迎するのは、多くのモデルで再び順番待ちが必要になる状況だろう。

(アンドレア・フェルステッド氏は消費財と小売業界を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前は英紙フィナンシャル・タイムズの記者でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Rolex You Want May Not Be in Stock for Long: Andrea Felsted(抜粋)

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