(ブルームバーグ):イランにとって存続を懸けた戦いは目新しくない。約8年に及んだ1980年代のイラクとの苛烈な戦争、経済を揺るがす20年に及ぶ制裁、体制に対する度重なる街頭抗議。それでも常に生き延びてきた。だが、過去5日間にわたるイスラエルと米国による壊滅的な空爆に匹敵する事態には直面したことはない。
最高指導者ハメネイ師を含め、これまでに少なくとも1100人が死亡し、首都テヘラン国をはじめとする国内各地で多数の建物が破壊された。準国営タスニム通信によると、攻撃に巻き込まれた女子校では、少なくとも生徒168人が死亡した。
ハメネイ師らの死を受けて再編されたイラン指導部は、同国の体制が今回の苦境を生き延びるためには、米国やイスラエル、湾岸諸国が受け入れられるよりも多くの痛みを自らが耐えなければならないと、認識しているように見受けられる。
その戦略は、ドローンやミサイルでペルシャ湾を圧倒し、最大限の混乱を引き起こすことで、米国とイスラエルの攻勢に対抗するというものだ。地域の防衛能力と政治的意思を消耗させ、世界のエネルギー市場を混乱させることを狙う。イラン側の飛翔(ひしょう)体が尽きる前に、全てを実行する構えだ。
「イランの賭けは、米国とその同盟国が容認できるよりも長く、一層大きな痛みに耐えられるという確信に依拠していると考えられる」と、ワシントンを拠点とする非政府組織(NGO)「国際危機グループ」でイラン・プロジェクトを率いるアリ・バエズ氏は指摘する。
バエズ氏は「米国とイスラエルにとって、持続的な経済的圧力や限られた弾薬備蓄、増え続けると見込まれる犠牲者がもたらす政治的コストが、長期対立への意欲を徐々にそぐと、イラン指導部は計算している可能性が高い」と語った。
それは賭けだ。1979年のイラン革命以来47年続く体制は、先月末の爆撃開始前から既に弱体化し、国内の不満の高まりにも直面していた。生活費高騰に抗議して1月に始まったデモは、瞬く間に体制打倒を求める声へと発展した。
人権団体によると、強硬な弾圧で鎮圧された一連の抗議活動で少なくとも7000人のデモ参加者が死亡した。この数字は実際にはさらに多い可能性が高いと人権団体は指摘する。指導部は深く分断された国民を背負いながら戦争を遂行する状況に置かれている。
ヘグセス米国防長官は4日、「イランの能力は時間とともに急速に失われつつある」と記者団に述べた。爆撃開始当日にイラン国民に蜂起を呼びかけたトランプ大統領は、紛争が4-5週間続く可能性があるとの見方を示している。一部のアナリストはイランについて、60-90日間は体制が持ちこたえられるとみている可能性があると指摘する。
イランの意思決定プロセスで重要な役割を担う最高安全保障委員会(SNSC)のラリジャニ事務局長は2日、「イランは米国とは異なり、長期戦に備えてきた」とXに投稿した。
イランの現体制を強力に支持するテヘラン大学のフアド・イザディ教授は、米国とイスラエルについて、「彼らはイランが2年前より弱くなっているとはいえ、依然として数千発の弾道ミサイルとドローンを保有していることを思い知らされているだろう」と指摘。「イランには抵抗以外の選択肢はなく、いずれ彼らは誤りに気付くだろう」と話した。
交戦の双方が相手の判断に影響を与えるため、能力を誇張している可能性もある。軍事面で見ればイランは防衛上劣勢にあるが、退く構えはみせていない。
駐レバノン米大使や政治担当の国連事務次長を歴任したジェフリー・フェルトマン氏は、「ホワイトハウスやイスラエルが想定しているよりも、イランの体制の控えの層は厚いとの印象を持っている」と指摘する。「国民の大多数にとって体制が正統性を失っているとしても、離反は見られず、内部に亀裂が生じている兆候もない」と述べた。
フェルトマン氏はさらに、「聖職者や司法当局には十分な結束があり、最高指導者や軍司令官が排除されたとしても、直ちに体制崩壊が起きることを意味するわけではない」と解説した。その場合、国家はますますイスラム革命防衛隊(IRGC)に支配される公算が大きい。
故ハメネイ師の後継者が選出されるまで、臨時指導評議会が国政を運営する。ペゼシュキアン大統領らで構成され、継続性を印象付けようとしている。
イランにとって「体制が途切れることなく機能していると示すことは極めて重要だ」と、米サウスフロリダ大学のグローバル・ナショナル安全保障研究所でリサーチフェローを務めるアルマン・マフムーディアン氏は指摘する。
昨年、米国も加わったイスラエルとの12日間の戦争で打撃を受けたイラン指導部は、意思決定を州単位で全国に分散させる計画を策定した。モザイク防衛戦略と呼ばれ、軍司令官に独立した判断権限をさらに与えることが含まれる。
マフムーディアン氏は「この分権化はイランにとって決定的に重要だ」とし、「中央政府との通信が途絶した場合でも、安全保障や政治、行政の各面で国家が機能し続けることを確実にする」と説明した。
ドローン戦争
イランの軍事面の戦略は、影響を最大化する地点に痛みを与えることにある。米国とイスラエルは圧倒的な軍事力を誇るが、ペルシャ湾の守護者を自任するイランは小規模な近隣諸国に相当の打撃を与え、要衝のホルムズ海峡を事実上封鎖することで世界経済を揺さぶっている。
イランは米国の同盟国である湾岸アラブ諸国を攻撃。アラブ首長国連邦(UAE)の空港の全面閉鎖、カタールでの液化天然ガス(LNG)生産停止、サウジアラビア最大の石油精製所の操業停止など、複数の危機を引き起こした。
「近隣諸国にコストを課し、エネルギー市場に影響を与え、イスラエルのインフラへの攻撃を継続することで、イランは米国に緊張緩和を迫ろうとしている」とマフムーディアン氏は述べた。
米中央軍によると、湾岸地域で広く配備されている米国の防空システムは、2万ドル(約314万円)のイラン製ドローン「シャヘド」や弾道ミサイルの迎撃に効果を上げている。ただ、これらを撃ち落とすために必要な米国製防空ミサイル「パトリオット」は1発400万ドルとされ、イランの兵器より高価だ。トランプ政権などにとって、コストは膨らんでいる。
イスラエルとの昨年の紛争後、イランの弾道ミサイル保有は約2000発と推計されていた。シャヘドの保有数はそれを大きく上回る可能性が高い。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の防衛担当、ベッカ・ワッサー氏の分析では、もう一つの主要製造国であるロシアは1日当たり数百機の生産が可能とされる。
米国は、軍事衝突開始以降、イランが2500発超の飛翔体を発射したと推計しているる。その大半はドローンだ。イランにとって直近で一層大きな問題となるのは、保有する飛翔体を発射する能力そのものだと、サウスフロリダ大のマフムーディアン氏は指摘する。
マフムーディアン氏によると、「昨年6月の戦争後、イランは発射能力の拡充に相当な努力を払った。どの程度成功したかは不明だ」という。地下の「ミサイル都市」と呼ばれる施設の出入り口も攻撃に対し脆弱(ぜいじゃく)だ。
「イランの部隊は損傷したゲートの再開通に昼夜を問わず取り組んでいると報じられているが、そうした作業には最終的に枯渇する資源が必要だ。あえて見積もるなら、現在の攻撃ペースを少なくともあと3-4週間は維持できる可能性がある」との分析を示した。
イスラエルは米国との共同作戦により、2日までにイランの約150基のミサイル発射装置を破壊し、数百発のミサイルとドローンの発射を阻止したとしている。
米中央軍のクーパー司令官はビデオ声明で、爆撃開始以降、イラン全土で米国が約2000の目標を攻撃したと明らかにした。イランはこれに対し、500発超の弾道ミサイルと2000機超のドローンで応じたという。クーパー氏は、イランに対して使用された火力の強度と規模は、2003年に米国がイラク侵攻を開始した際と比べてほぼ2倍に達すると指摘した。
一方、イラン国内では現体制に対する国民の怒りや不満が極めて高まっている。
昨年12月終盤から今年1月初めにかけての抗議活動は国内に衝撃を与えた。抗議活動参加者への対応を巡り国際社会や人権団体から非難が相次ぎ、トランプ氏は当初、当局による処刑など強硬な弾圧を受け、イランに対する軍事攻撃を示唆した。だが最近では、今回の攻撃の理由はイランの核開発計画にあったとの認識を示している。
「愛国心と国民的連帯を強調することで、イラン指導部は不安定化を未然に防ぎ、体制転換は起こりそうにないと米側に示そうとしている可能性が高い」と、マフムーディアン氏は述べた。
これまでのところ、反政府デモの兆候はない。人々は自らの安全を優先している可能性が高い。ハメネイ師の死去以降、体制や宗教指導層を支持する動員型の集会が複数開催され、イラン国営テレビで放映された。
指導部の究極の目標は生き残りだ。
国際危機グループのバエズ氏は「イランが報復を慎重に調整し、国内でエリート層の結束を維持できれば、当面の嵐をしのぎ切れる可能性がある」と分析。「戦略目標は勝利ではなく、生存だ」と語った。
原題:Iran Tests Pain Threshold in Survival Fight With US and Israel(抜粋)
--取材協力:Dan Williams、Gerry Doyle.
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