(ブルームバーグ):イランが反撃能力のよりどころとするミサイル発射装置や工場を破壊しようと、米軍は長距離巡航ミサイル「トマホーク」を発射した。理由は単純で、空中で迎撃しようとするよりも、地上にあるうちに弾頭を破壊する方がはるかに安上がりで安全、効率的だからだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領が以前から米国にトマホーク供与を求めているのも、全く同じ理由だ。同様にミサイル発射装置や工場を破壊する目的で使いたいと考えているが、同氏の場合、使う相手は毎晩のように自国に攻撃を仕掛けてくるロシアが相手だ。
この攻撃を食い止めるため、ウクライナは供給が減っている米国製パトリオット迎撃ミサイルの在庫をさらに消耗させている。だが、米国がペルシャ湾でトマホークを発射するたびに、ウクライナに供給される可能性は低下する。
最大射程が2500キロに及び、450キログラムの強力な爆薬を搭載できるトマホークは魅力的だが、もともと難しい要求ではあった。技術的な理由があり、在庫にも問題がある。ウクライナには海軍がないため、同国が利用できるとすれば地上発射型だが、この種の発射装置は米国にもわずかしかない。
米国自身も、台湾や南シナ海を巡る中国との争いに備えてトマホークを必要としている。
それでも、ウクライナのトマホークへの希望がしぼんでいくことは、より大きな現実を象徴している。それは、トランプ米大統領がイランとの戦争を決断したことによって、既にロシアが明らかに恩恵を受けているということだ。そして戦争が長引くほど、その恩恵は大きくなる。
トランプ氏が現在述べているように軍事作戦が4-5週間続くなら、攻撃・防御の両面で米国のミサイル備蓄は大きく減少する。一方、ロシアの経済と戦費を支える原油・天然ガスの価格は世界的に押し上げられる。
ホルムズ海峡の封鎖が長期にわたり、湾岸地域の石油・ガス輸出能力が破壊されるなら、制裁で敬遠されてきたロシア産エネルギーへの需要が復活することもあり得る。米国がインドに対してロシア産石油の購入削減を迫って以来、買い手が付かず満載のまま海をさまよっていたタンカーも、取引相手を見つけることができるかもしれない。
米国が2つの空母打撃群から成る高強度の空爆を維持するには、航空偵察からリアルタイムの衛星分析に至るまで膨大な情報収集が必要となる。これらもまたウクライナ防衛に不可欠だが、限られている米国のリソースだ。イラン攻撃が続くなら、ウクライナではない方向に振り向けられてしまう可能性が高い。
これら全てにおいて、トランプ氏の対イラン戦争はロシアにとってこの上ない絶好のタイミングだった。逆に言えば、ウクライナにとっては最悪の時期だったと言える。
一見すると、そうは見えないかもしれない。イランの最高指導者で死亡したハメネイ師と革命防衛隊は、2022年2月24日のウクライナ侵攻当初からロシアのプーチン大統領を支えてきた。ロシアに必要な弾薬を供給し、数万、あるいは数十万機の無人攻撃機(ドローン)を提供し、ロシア国内での生産許可も付与した。
ロシアに有用な支援国はほとんどいないが、イランはそのうちの一つであり続けた。規模や軍需産業のほか、ロシアとコーカサス山脈やカスピ海を隔てて隣り合う地理的な条件もある。中東全域に影響力を持ち、アフガニスタンと国境を接し、ロシアとインドが両国の市場をつなげようと構築を進める国際南北輸送回廊の重要な経路にも当たる。
イランが米国の影響下に入れば、ロシアにとって単なる屈辱では済まされず、長期的な戦略的損失だろう。プーチン氏がウクライナ制圧に必要な支援をイランは施したが、いまや存亡を賭けて戦っているイランに対して、ロシアは支援する能力も意思もほとんどないように見える。
しかし、これらの懸念は、プーチン氏がウクライナで成功するか否か、短期的な財政問題を解決できるのかどうかという問題に比べれば、取るに足らない。イランのハメネイ氏だけでなく、シリアのアサド前大統領もベネズエラのマドゥロ大統領もプーチン氏は守れず、同氏がウクライナ侵攻で回復しようとしている大国としての力がないことを露呈している。
ロシアの戦争遂行能力には最近、深刻な問題が表れていた。戦場での前進は鈍化し、人的な犠牲は増加している。確かに、ロシアはウクライナより多くの兵力を失っても耐えられる。しかし、領土獲得に対する人的損失の比率は持続不可能になりつつある。
さらに、イーロン・マスク氏のスターリンク通信網への非公式なアクセスを失ったことで、前線の部隊は情報を奪われ、わずかな前進すら難しくなっている。ウクライナは一部の戦線で主導権を取り戻すことに成功した。また、戦争継続のため4年にわたる過剰な借り入れにより、ロシアの経済と予算に対する圧迫は強まり、一般国民も痛みを感じ始めている。
そこで原油価格が急騰すれば、ロシアには恵みの雨だろう。米国のミサイルや迎撃システムの供給減少、あるいはイランの後で米国がウクライナ停戦を急ぐとの見方もロシアに有利に働き、プーチン氏が恒久的和平のためにやむなしと感じるような譲歩を促す圧力は消える。
遅かれ早かれ、トランプ氏とその安全保障担当顧問らは、すでに無力化されたイランとの長期戦で何が得られるのかと、はるかにもっと危険なロシアや中国を抑制するために必要な米国の能力の消耗とを、天秤(てんびん)にかける必要がある。トマホークやパトリオットは1発当たり数分でなくなるが、補充には最大2年かかる。
(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Putin Is the Iran War’s One Sure Winner: Marc Champion(抜粋)
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