(ブルームバーグ):中東情勢の緊迫化で、原油や液化天然ガス(LNG)の価格が上昇した。足元の影響は限定的だが、混乱が長期化し燃料費の高騰が続けば電気代の上昇は避けられない。製造コストの増加で自動車など耐久消費財で値上げが起きる可能性もある。
前日に7.3%上昇した北海ブレント原油先物は3日の取引で一時前日比2.5%高の1バレル=79ドル70セントを付けた。石油輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば100ドルを超えるリスクがあるとの指摘も、調査会社のICISからあがっている。アジア向けのLNGのスポット(随時取引)価格も急上昇した。
米国とイスラエルによる攻撃を受け、イランは世界全体の消費量の約20%に相当する原油が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖。さらにイランによる報復攻撃を受け、世界有数のLNG輸出国であるカタールの生産設備が停止するなどエネルギー供給途絶に対する懸念が高まっている。
日本のLNG輸入に占めるカタール産の割合は4%程度と多くなく、供給への直接的な影響は限定的だ。ただ日本が輸入するLNGの約8割は原油価格に連動する長期契約が占めており、価格が高止まりすればLNGの調達コストにも波及する。日本の発電量全体の3割超がLNG火力によるもので、燃料コスト増により電気料金が上昇し、電力を使う幅広い産業に影響が出る恐れがある。
日本総研の栂野裕貴研究員は、電気代が上昇すれば製造業では「鉄鋼・アルミみたいな電力を生産活動において多く使うところが打撃を受ける」と話す。さらに、鉄鋼・アルミのコスト上昇が製品価格に転嫁されれば、自動車を含め幅広い産業に影響が及び、インフレ圧力となるという。
大和証券の南健人シニアエコノミストは、ホルムズ海峡封鎖や軍事衝突が長期化し、原油価格が100ドルまで上昇する最悪シナリオでは、「消費者物価全体で約0.8%の押し上げ圧力になる」と試算する。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストも原油価格が1バレル80ドルになると消費者物価指数(生鮮食品を除く)が1年目に0.22%、100ドルでは0.41%高まると試算している。
過去のケースを見ても、紛争はインフレを連れてくる。新型コロナウイルスによる停滞から経済が動き始めた22年2月、ロシアがウクライナに侵攻。日本がほぼ全量を輸入に頼る原油や天然ガスの価格が跳ね上がり、円安が追い打ちをかけた。エネルギー高は物流や製造を通じて、あらゆるモノの価格に波及した。
望ましくないシナリオは、景気後退と物価上昇が同時に進むスタグフレーションの発生だ。大和証券の南氏は「リスクはかなり高まる」としており、原油価格の上昇というコストプッシュ型のインフレに賃金の伸びが追いつかず、「景気悪化と物価上昇が並立しやすいというような状況になりやすい」と指摘した。
カタールのLNG生産停止の影響を電力各社の広報担当者に問い合わせたところ、東北電力は、足元では一定程度の在庫を確保しているが、安定的な水準を維持するため、追加調達などの必要かどうかを検討しているという。カタールから長期契約に基づき購入しているLNGは年間約18万トンで、同社の調達に占める割合は限定的としている。
関西電力は、カタールエナジーからLNGを調達しており、生産停止やホルムズ海峡の封鎖が長期間に及べば、影響が生じる可能性はあるとした。24年度時点でカタール産の調達割合は13%にとどまるという。
高市早苗首相は3日の衆院予算委員会の答弁で、中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー価格の上昇などで日本経済への影響が長期化した場合、補正予算で対応する可能性もゼロではないとの見解を示した。エネルギー政策を所管する赤沢亮正経済産業相も3日の閣議後会見で、原油価格やLNGの市場価格が上がる中、「国民生活や、経済活動への影響を最小限に抑えるため、必要な対応を機動的に講じていきたい」と話した。
赤沢氏は電気・ガス料金が直ちに上昇することはないとも述べた。日本全体のLNG消費量の約3週間程度分の在庫があるとし、電力会社間での融通の仕組みなどがあり、短期的に供給に支障が生じることはないとしている。
--取材協力:氏兼敬子、吉田昂、村上さくら、小田翔子.
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