(ブルームバーグ):貿易が武器となる時代だ。米国が同盟国にも敵対国にも関税を課す構えを見せても、もはや大きな驚きはない。
中国が近隣諸国に経済的威圧を加えることもほぼ常態化している。放置すれば、国際ルールに基づく貿易は、力次第で動かせるということになりかねない。
中国共産党の習近平指導部が用いる強硬な手法にトランプ米政権が本気で対抗するのであれば、米国とアジアとの関係を緊張させるのではなく、強化すべきだ。足並みをそろえて行動すれば、各国が思う以上の影響力を持てる。
中国による最近の行動は、政治的メッセージを発したいときにいかに容易に貿易規制に訴えるかを改めて示している。
中国政府は2月24日、三菱重工業やIHIなど20の日本企業・団体を対象としたデュアルユース(軍民両用)品目の輸出を禁止したと発表。さらに20企業・団体への監視を強化した。「これらの措置の目的は、日本の『再軍事化』や核への野心を抑制することにある」と中国側は主張している。
高市早苗首相は昨年、台湾有事の可能性を巡り米国の介入を想定し、自衛隊が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると国会で答弁。台湾を自国の一部と見なす中国は、これに反発し続けている。
アジアの米同盟国にとって、トランプ政権の予測不能さが状況を一段と複雑にしている。ワシントンから出てくる通商政策が不安定なままでは、中国からの圧力に対抗するための協調戦線を主導できない。
米連邦最高裁は2月、トランプ大統領が非常事態権限法を根拠に包括的な関税を導入したのは権限逸脱に当たるとして、これを無効と判断した。しかしトランプ氏はすぐに別の法律を用いて世界一律の10%関税を発動した。
米ジョージタウン大学のビクター・チャ教授は、中国が世界のサプライチェーンを広範に牛耳っていることに触れ、脅威が一段と差し迫っているとみている。
新著「China’s Weaponization of Trade(中国の貿易武器化)」を共同執筆したチャ氏とエレン・キム氏、アンディー・リム氏は、過去30年で600件を超える中国の経済的威圧例を記録しており、対象はアジアと欧州、北米の政府や企業、個人に及ぶ。
チャ氏は「数十年にわたり、中国政府は自国の思い通りにするために貿易関係を繰り返し利用してきた。各国が協力しなければ、中国に一国ずつ切り崩されるだろう」と筆者に語った。
対中戦略で先行
欧米の政治家や当局者は長年、中国が豊かになれば自由化が進み、その変化がやがて中国の政治体制を変えていくと想定してきた。だが実際には、中国は世界経済に深く組み込まれ、その結び付きを国益に資するよう使っている。
日本企業に対する最新の輸出規制から、オーストラリアが新型コロナウイルスの起源調査を求めた後に豪州産品に対して数年にわたり科された懲罰的な貿易障壁まで、中国は巨大な自国市場へのアクセスを政治目的の「てこ」として繰り返し用いてきた。
豪州への圧力は豪中関係の改善に伴い緩和されたが、これは中国が自らのレッドライン(越えてはならない一線)を徹底するためにどこまで踏み込むかを示す一例だ。
中国に対抗するには、「統一戦線」が必要になる。チャ氏らは、中国から標的にされた多くの国が、中国が高度に、場合によっては全面的に依存している製品を輸出しているとも指摘する。
例えば、豪州はリチウムの重要な原料である「スポジュメン(リシア輝石)」を輸出し、日本は精密機械や電子部品、ロボットといった先端製造品を供給している。同氏らが提唱する処方箋は集団的強靱(きょうじん)さであり、北大西洋条約機構(NATO)の根幹である北大西洋条約第5条の経済版に相当する枠組みだ。
すなわち、加盟国の1国への攻撃は全体への攻撃と見なすという考え方だ。中国がある米同盟・友好国に圧力をかければ、他の国々が連携して対応し、中国が大きく依存する戦略的に重要な輸出品を標的にする。地域の連帯は南シナ海や台湾海峡で押し返す力を示してきた。
次の段階は、経済措置を通じて同様の抵抗を示し、威圧のコストを引き上げて、中国に再考を促すことだ。
もっとも、不都合な留保もある。米国が他国に対する関税賦課を続ければ、協力を訴える論拠は弱まる。経済的いじめに対抗する信頼に足る戦線は、ダブルスタンダードの上には築けない。
賢明なのは、対中戦略で先行する日本政府の対応に倣うことだ。日本は中国の禁輸措置や軍民両用の輸出管理について、主要7カ国(G7)やその他の国際会議で懸念を表明してきた。
しかし、日本の経済規模や豪州、韓国といったパートナーの存在をもってしても、アジアだけで対処することはできない。この取り組みには米国のリーダーシップが不可欠だが、現状ではそれが不足している。
もう一つの選択肢は、米中による貿易上の威圧が常態化し、分断されたグローバル経済の後始末をその他の国々が担わされる世界だ。その結果、われわれは皆いっそう貧しくなる。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Tariffing Friends Won’t Help US Counter China: Karishma Vaswani(抜粋)
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