(ブルームバーグ):トランプ米大統領がイランへの攻撃を決断したことで、世界の石油供給に新たなリスクが生じている。
イランの産油量は日量約330万バレルに達し、世界全体の約3%を占める。石油輸出国機構(OPEC)で4番目の産油国だ。ただ、同国の戦略上の立地条件を考慮すると、その影響力は産油量以上に大きい。
イランは、サウジアラビアやイラクなど主要産油国の原油を含め、世界の原油の約5分の1が通過する海上輸送路、ホルムズ海峡の片側に位置している。
注目ポイントは以下の通りだ。
イランの産油量
イランの産油量は日量約330万バレルで、国際的な制裁下でも2020年の同200万バレル弱から増加した。イランは制裁回避の手法を高度化させ、輸出の約90%を中国向けとしている。
主要な油田はフゼスタン州にあるアフワズ、マルン、西カルン油田群だ。

イランの主要製油所は1912年にアバダンで建設され、日量50万バレル超の精製能力を持つ。バンダルアバス製油所やペルシャ湾スター製油所も重要拠点で、原油とコンデンセート(超軽質原油)を処理している。コンデンセートはイランに豊富に存在する。首都テヘランにも製油所がある。
イランの原油輸出は、ペルシャ湾北部のハールク島ターミナルを主力拠点とする。メヘル通信は、ハールク島で28日に爆発があったと報じたが、詳細は伝えておらず、石油ターミナルについても触れなかった。
ハールク島には多数の積出設備や桟橋、沖合係留施設を擁し、貯蔵能力は数千万バレルに及ぶ。近年の輸出処理能力は日量200万バレルを超える。
米制裁の影響で大半の買い手が二の足を踏む中、中国の民間製油所は大幅な値引きを条件にイラン産原油の購入を続けている。イランは国際輸送において老朽化したタンカー群に依存しており、その多くは追跡を避けるために装置を停止して航行している。

イランは今月に入ってからハールク島からの出荷を急速に増やしていた。施設が攻撃を受けた場合に備え、できるだけ多くの原油を洋上に出し、船舶を危険から遠ざける狙いだった可能性がある。昨年6月のイスラエルおよび米国による攻撃前にも同様の動きを見せていた。
ハールク島が攻撃を受ければイラン経済に壊滅的打撃となる。
イランの主要な天然ガス田はさらに南のペルシャ湾沿岸にある。アサルイエやバンダルアバスの施設では、発電や暖房、石油化学など国内用途向けにガスやコンデンセートの処理・輸送・出荷が行われている。
同地域はコンデンセート輸出の中枢でもある。6月の攻撃ではガスプラントへの攻撃がトレーダーの警戒感を高めたが、輸出施設には影響がなかったため、原油価格の持続的な急上昇にはつながらなかった。
地域リスク
イランの最高指導者ハメネイ師は2月1日、「地域戦争」の可能性を警告した。イラン政府はホルムズ海峡を全面封鎖する能力があると主張している。これまで封鎖が行われたことはないが、実行されれば世界市場にとって悪夢のシナリオとなる。
ホルムズ海峡はペルシャ湾で産出される原油の大半に加え、ディーゼルやジェット燃料など精製燃料の輸出にとっても要衝となっている。世界第3位の液化天然ガス(LNG)輸出国であるカタールも同海峡に依存している。

OPEC加盟国のサウジとアラブ首長国連邦(UAE)はホルムズ海峡を避け、パイプラインによる輸送が一部可能だが、それでも海峡が封鎖されれば輸出は大きく混乱し、原油価格は急上昇する可能性が高い。
2月には、他の湾岸諸国の産油国も出荷を加速させている兆候が見られた。サウジの原油出荷量は、2月の最初の24日間で1日平均約730万バレルに達し、ほぼ3年ぶりの高水準となった。ボルテクサのデータによると、イラクとクウェート、UAEからの合計供給量は、1月の同じ時期と比較して1日当たり約60万バレル増加する見通しだ。

過去にはイランが近隣諸国に報復攻撃を加えたこともある。2019年、サウジはアブカイクの石油処理施設に対するドローン(無人機)攻撃についてイランを非難した。この攻撃で世界の原油供給の約7%に相当する生産が停止した。
多くの専門家は、イランがホルムズ海峡を長期間にわたって封鎖し続ける可能性は低いとみており、船舶への嫌がらせなど、影響が比較的限定的な措置の方が現実的だと指摘する。
昨年のイスラエルおよび米国との軍事衝突では、イラン沿岸付近で1日当たり約1000隻の船舶の衛星利用測位システム(GPS)信号が妨害され、タンカー1隻の衝突事故の一因となった。機雷の敷設も、海上輸送を抑止する手段として以前から示唆されてきた選択肢だ。
イランは、地域のエネルギーインフラへの報復攻撃が中国を動揺させる可能性も考慮する必要がある。中国は湾岸原油の最大の買い手であり、国連の安全保障理事会で拒否権を行使し、西側主導の対イラン制裁や決議から同国を守ってきた。
市場の反応
原油価格は昨年6月の軍事衝突の際、ここ3年余りで最大の上昇を記録。北海ブレント原油はロンドン市場で1バレル=80ドルを上回った。ただ、地域の主要な石油インフラが損傷していないことが明らかになると上げ幅を急速に縮小した。
その後は供給過剰への懸念が世界市場を支配し、ロンドン市場の原油は2025年で約18%下落した。
こうした供給過剰懸念があるにもかかわらず、原油は今年に入り19%上昇している。背景には米国がイランを攻撃するとの懸念があった。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のチーフ新興国市場エコノミスト、ジアド・ダウド氏が過去の事例を分析したところによると、供給が1%減少すると価格は平均で約4%上昇する傾向がある。イランとの衝突が地域全体に波及する最悪のシナリオでは、原油価格が1バレル=100ドルを上回る可能性があるという。
原題:Iran Strikes: What’s at Stake for Oil Markets as Trump Attacks(抜粋)
--取材協力:Julian Lee.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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