人工知能(AI)が広範な失業を引き起こすという、シトリニ・リサーチが発表したディストピア(暗黒郷)シナリオに対し、投資家や経済学者から世界的な反発が起きている。

シタデル・セキュリティーズ、ドイツ銀行、フィデリティ・インターナショナル、ライオントラスト・アセット・マネジメントなどの専門家が、シトリニの仮説は荒唐無稽の域を出ないと指摘した。米ホワイトハウスのトップエコノミストは「SF小説のようだ」とまで評した。

シトリニも、リポートをそのまま受け止めるべきではないと警告している。同社が22日に自社のサブスタックに投稿した、7000語に及ぶこのリポートは、冒頭で「以下は予測ではなくシナリオである」と前置きしている。

だが、思考実験としてさえ、このシナリオは今週のウォール街を席巻し、ソフトウエア株や金融株のさらなる下落を引き起こした。投資家が既にAIツールの威力に神経を尖らせている中、同リポートは「AIがホワイトカラーの大規模な解雇を引き起こし、株式市場を崩壊させ、失業率を10%以上に押し上げる世界」というビジョンを示し、火に油を注いだ。

シトリニが引き起こした市場の不安の一部は既に和らいでいる。ナスダック先物は24日の1.1%高に続き、25日も米国市場開場時には0.4%上昇している。アンソロピックがパートナーシップ構築を計画しているとコメントし、自社のチャットボット「クロード」が既存事業を置き換えるのではなく統合することを示唆したことが、世界的な株価の反発を後押しした。

ライオントラスト・グローバル・イノベーションチームの共同責任者クレア・プレイドルブーヴィエ氏は、AI技術は一部の仕事を消滅させるが、同時に新たな仕事も生み出すとの考えを語った

知能置換スパイラル

特に批判が集まっているのは、企業がAIへの投資を増やす一方で労働者を減らす、負のフィードバックループをAIが引き起こすという主張だ。シトリニはこれを「人間の知能置換スパイラル」と呼んでいる。解雇された労働者の消費が減退するため、利益率が圧迫された企業はさらにAIを導入し、このサイクルが繰り返されるというのだ。

シタデルは、セントルイス連銀の調査や労働市場指標を引用し、現在のデータには、AIによる広範な労働混乱の兆候はほとんど見られないとしている。シタデルのマクロストラテジスト、フランク・フライト氏はリポートで、自動化の影響を受けやすい分野とされるソフトウエアエンジニアの求人件数はここ数カ月で急増しており、AI関連データセンタープロジェクトの急増に支えられ、建設業の雇用も回復傾向にあると指摘した。

フライト氏は、過去の技術革命と同様に、AIは人間の労働者を置き換えるのではなく、「労働力の補完となる可能性が高い」と述べた。

ライオントラスト・グローバル・イノベーションチームの共同責任者クレア・プレイドルブーヴィエ氏も、新しい技術は一部の仕事を消滅させるが、同時に新たな仕事も生み出すとして、同様の見解を示した。

プレイドルブーヴィエ氏は「現在のシリコンバレーには、プロンプトエンジニアや干渉最適化専門家といった、2年前には存在しなかった新たな職種がある。このため、私たちはこの分野にも良い側面があると考える」と述べた。

エバーコアの中央銀行戦略責任者クリシュナ・グハ氏は、シトリニの予測が現実化した場合、多くの職種で人間同士の交流が不可欠となり、非AI企業が競争優位性を持つ可能性があると指摘する。また、エネルギー制約を考慮すると、AIの拡大速度には限界があるという。

グハ氏は「仮に技術とミクロ経済がこのシナリオに沿って進化したとしても、マクロ経済が同様に進む可能性は極めて低い。そのためには、極端で起こり得ないさまざまな条件が揃う必要があるからだ」としている。

原題:Citrini’s Dystopian AI Vision Draws Global Investor Criticism(抜粋)

--取材協力:Kerim Karakaya.

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