トランプ米大統領は24日夜、上下両院合同会議で施政方針を示す一般教書演説を行い、自身の政権と経済実績を強く弁護した。米国は「かつてないほど大きく、より良く、より豊かで、より強くなって戻ってきた」と宣言した。演説時間は過去最長となる1時間47分に及んだが、新たな政策の発表はほとんどなく、経済で競合する中国に直接言及することもなかった。

大統領はゴールデンタイムでの演説で、困難に直面する国家に向けた激励集会さながらの演出を展開。冬季五輪での勝利や軍の英雄的行為を称賛するとともに、国民により良い将来を約束した。野党民主党に対する攻撃も展開した。

一般教書演説を行ったトランプ大統領(2月24日)

一方、過去20年間の歴代大統領が一般教書演説で触れてきた中国と米国の経済的競争についての発言はなかった。

トランプ氏自身、昨年および1期目には言及していたが、2005年のブッシュ(子)大統領以来初めて、演説の中に中国との競争が含まれなかった。理由は不明だが、トランプ氏は米大統領として2017年以来初となる中国訪問を3月末に控えている。

世論調査では、11月の中間選挙を前に国民が経済に不安を抱き、政権の政策に懐疑的な姿勢を示している。トランプ氏にとっては有権者の意識を反転させることが急務となる。

トランプ氏は「われわれはこれまで誰も見たことがないような変革を成し遂げ、歴史的な大転換を実現した」と発言。さらに「まだ何も見ていないに等しい。われわれはこれからさらに良くなる。今こそ米国の黄金時代だ」と語った。

24日の演説は、政権運営の立て直しを図るとともに、共和党内の支持固めを目指すトランプ氏にとって重要な局面で行われた。

大統領は支持率の低下に直面しているほか、イランに対する軍事行動の可能性など複数の外交上の火種を抱える。さらに、看板政策である関税措置は連邦最高裁が20日に無効の判断を下し、打撃を受けた。

トランプ氏は「今日、われわれの国境は安全で、国民の精神はよみがえった。インフレは急速に鈍化し、所得は速いペースで増えている」と主張。「隆盛する経済はかつてないほど力強く、敵はおびえている。軍と警察は万全で、米国は再びかつてないほど尊敬されている」と語った。

トランプ大統領は上下両院合同会議で行った一般教書演説で「今こそ米国の黄金時代だ」と発言

トランプ氏は幾つかの政策を打ち出し、確定拠出年金401(k)を利用できない労働者に対し、退職貯蓄について最大1000ドル(約15万5500円)を連邦政府が拠出する制度を来年から導入すると表明した。

ホワイトハウス当局者は、大統領の退職貯蓄に関する提案は新たな制度ではなく、セーバーズ・マッチとして知られる既存のプログラムの下で実施されると説明した。バイデン前政権下で制定された法律に基づくプログラムだ。

また、議会議員とその家族による個別の上場株式の購入を禁止する法案の可決を議会に要請したほか、書類不備の移民に商業運転免許証を発給しないよう議員に要請する考えも示した。こうした措置が議会を通過するかは不明だ。トランプ氏は、かつて反対していた議員の株式取引禁止を支持する理由については説明しなかった。

イランへの警告

トランプ氏はまた、イランに対し強硬な警告を発した。同氏は以前、米軍の昨年の攻撃によって主要な核施設が「壊滅」したと主張していたが、演説ではイラン政府が「再び邪悪な核の野望を追求している」と非難した。トランプ政権の代表は26日、ジュネーブでイラン当局者と次回の協議を行う予定だ。

大統領は「私の望みは外交を通じてこの問題を解決することだ。だが一つ確かなのは、世界最大のテロ支援国家である彼らに核兵器を持たせることは決してないということだ」と述べた。さらに「いかなる国も米国の決意を疑うべきではない。われわれは地球上で最も強力な軍隊を持っている」と強調した。

イラン政府への圧力を高めるため、米国は中東地域で軍事力を増強し、攻撃の場合の準備を進めている。ただ、トランプ氏は攻撃が差し迫っているかどうかについては何らの示唆もしなかった。

対外政策ではこのほか、麻薬密売に関与したとされる船舶への一連の軍事攻撃やベネズエラのマドゥロ大統領の拘束を受け、西半球での介入を成果として強調した。トランプ氏はベネズエラの新政権をパートナーとして称賛し、米国が同国から8000万バレルの石油を受け取ったと述べた。

24日の演説は、ロシアによるウクライナ侵攻から4年の節目にも当たった。トランプ氏は自身の政権2期目発足初日にこの戦争を終わらせると述べていたが、紛争終結の意向をあらためて示した。

世論調査

トランプ氏は演説で、米国民の生活苦についてバイデン前大統領に責任を転嫁。「停滞した経済、記録的水準のインフレ、事実上開放された国境、軍や警察の採用難、国内で横行する犯罪、世界各地での戦争と混乱という危機的状況にある国家を引き継いだ」と論じた。その上で、現在の米経済はかつてないほど力強いと語った。

米経済は拡大を続けており、1月の非農業部門雇用者数は過去1年余りで最大の増加となった。ただ、昨年の雇用増加は18万1000人にとどまった。賃金は全体としてインフレを上回る伸びを示しているものの、多くの物品・サービスの価格上昇には追いついていない。

大統領はまた、自身の2期目就任以降に記録的水準を更新してきた株式市場に加え、ガソリン価格や住宅ローン金利の低下を挙げ、自らの政策が機能している証拠だと主張した。

多くの米国民は大統領の国政運営に厳しい見方を示している。22日に公表された米紙ワシントン・ポストとABCニュース、イプソスの世論調査では、トランプ氏の仕事ぶりについて不支持とする割合は約60%に達した。CNNの新たな調査によると、無党派層の支持率は26%と過去最低を記録した。

こうした展開は、11月の中間選挙で共和党が上下両院の支配権を維持できるかどうかを左右しかねない。

トランプ氏は、自身の政治的苦境について繰り返し政敵やエスタブリッシュメント(既成の権力層)に責任を負わせようとし、包括的な関税措置を無効とした最高裁も批判した。それでも方針転換を示唆することはなく、別の法的権限に基づいて広範な輸入関税の復活を進める考えを示した。さらに、米国は巨額の歳入を得ることになり、それが「現代の所得税制度を大幅に置き換える」との見通しも示した。

トランプ氏の発言と民主党側の反論は、中間選挙に向けた論戦の方向性を示すものとなる可能性がある。高止まりする物価や政権の関税政策への不安を背景に、経済運営に対する有権者の評価は低下し、民主党は勢いづいている。

こうした流れを逆転させるため、ホワイトハウスは大統領が雇用拡大に向けた取り組みや、国外および民間からの数兆ドル規模の投資の誘致、処方薬価格などの上昇抑制策を強調するとしている。

トランプ氏はまた、機関投資家による一戸建て住宅の購入を制限する方針を訴え、関連法案の可決を議会に要請したほか、テクノロジー企業に一段と多くのエネルギーコストを負担させる構想も打ち出した。

具体的には「大手テクノロジー企業には自らの電力需要を賄う義務があると伝えている」と指摘。その上で、「自社の工場の一部として独自の発電所を建設できる。そうすれば誰の料金も上がらず、多くの場合、地域の電気料金は下がり、しかも大幅に低下する」と語った。

大統領は最近、与党共和党内の一部勢力や、自身の政治的評価を左右する立場にある人々との対立を強めている。1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする関税措置に6対3で無効の判断を下した最高裁判事のうち、とりわけ自らが指名したゴーサッチ、バレット両氏を名指しで批判した。24日の演説には、ロバーツ長官、ケーガン判事、カバノー判事、バレット判事の4人が出席した。

20日の最高裁判断以降、政権は代替となる関税措置を打ち出す対応に追われており、その混乱ぶりに米国の主要な貿易相手国・地域はいら立ちを強めている。

民主党を挑発

トランプ氏は演説中、議場の民主党議員をたびたび挑発し、テレビ中継向けの対決場面を通じて相手を守勢に立たせようとした。

大統領は議員の株式取引禁止の法案に反対してきたペロシ元下院議長(民主)をやゆしたが、一部の民主党議員は腐敗しているのはトランプ氏だと非難した。トランプ氏はまた、高額な医療費は「あなた方が原因だ」と述べ、民主党議員側の議席を指さした。

トランプ氏はこのほか、ミネソタ州のソマリア系移民による不正事案を批判。同州で移民取り締まりを強化した根拠としているが、執行措置の過程で米国市民2人が射殺されたことを受け、広範な反発を招いている。

トランプ氏が政府の「第一の義務」は米国市民を守ることであり、「不法移民」ではないとの考えに賛同する議員に起立を求めると、ミネソタ州選出のオマル下院議員(民主)は、トランプ氏は「米国人を殺した」と叫んで応じた。

移民政策を巡る対立は一部政府機関の一時閉鎖にもつながり、トランプ氏は民主党が政権の移民政策の改革を迫るために予算を差し止めているとして、国土安全保障省の業務を全面的に再開させるよう要求。民主党は同省への予算措置と引き換えにこれらの政策の改革を求めている。

他方、トランプ氏は「われわれはあまりに勝ち過ぎて、どうしていいか分からないほどだ」とも話し、それを強調するため冬季五輪の米男子ホッケーチームを金メダル姿で下院本会議場に入場させた。また、第2次世界大戦の退役軍人で、今年100歳を迎えるジョージ・「バディ」・タガート氏に敬意を表した。

下院本会議場に入場する冬季五輪の米男子ホッケーチーム

原題:Trump Stages State of the Union Pep Rally as Economic Mood Sours、Trump Skips Direct China Line From Address in First Since 2005(抜粋)

(中国に対する言及がなかったことについて、第1、3-4段落に加えます)

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