(ブルームバーグ):21世紀の公海が宇宙の人工衛星軌道だとすれば、中国は大艦隊の準備を進めているようだ。
中国政府は昨年末に国連の国際電気通信連合(ITU)に提出した計画で、2030年代半ばまでに人工衛星20万3000基を配備する構想を掲げた。これは宇宙開発企業スペースXのイーロン・マスク氏やアマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏の野心をはるかに上回る規模だ。
スペースXは衛星通信ネットワーク「スターリンク」向けにこれまでに衛星約1万基を打ち上げている。アマゾンの通信衛星サービス、レオ(Leo)は最終的に3232基にとどまる見通しだ。
中国の計画は、宇宙の支配を狙う衝撃的な取り組みに思える。だが、地上600キロ上空で陣取り合戦が進んでいるのは間違いないものの、現時点で優位に立っているのはマスク氏だ。
中国の構想は真の拡張計画というよりも、先を行くライバルに足かせをはめるのが狙いと捉えるのが妥当だろう。
地球を周回する物体の数は急増している。スペースXの「ファルコン9」のような再利用型ロケットと、小型衛星の製造を可能にする耐久性が高い軽量部品の開発という2つのイノベーションが打ち上げコストを大幅に引き下げたためだ。
20年以降、軌道上の衛星数は4倍に増え、1万6000基を超えた。スペースXだけで年2000基余りを追加している。その結果、宇宙の過密化はSFではなく、現実の話になりつつある。軌道上に過度に多くの物体を投入すれば、さまざまな問題が生じ得る。
最悪のシナリオは「ケスラーシンドローム」で、これは13年公開の映画「ゼロ・グラビティ」で主演のサンドラ・ブロックが宇宙空間に取り残される原因となった連鎖的衝突だ。
1基の衛星が崩壊して生じた破片の一群が他の機体に次々と衝突し、最終的には地球の周囲が危険な宇宙ごみの小惑星帯のような状態に包まれる。
より現実的で差し迫った問題は、通信衛星の過密が電波干渉を引き起こしかねない点だ。スペースXやレオが構築している「メガコンステレーション」(大規模な人工衛星群)は地球低軌道(LEO)に位置し、より数の少ない中軌道や静止軌道の衛星利用測位システム(GPS)、気象・通信衛星よりも地球に近い。
その位置関係から、より遠方の衛星からの信号を遮るリスクがある。その限界点はどれほど近いのか。思いのほか近い。
欧州宇宙機関(ESA)は昨年10月、メガコンステレーションに最適な高度帯では、稼働中の衛星の密度が宇宙ごみの密度とほぼ同水準にあると指摘した。
昨年のある研究によれば、これらの高度に収容可能な物体は最大でも14万8000基程度にとどまりそうだ。仮に4つの宇宙プログラムが、年間2000基超という現在のスペースXの打ち上げペースに達すれば、30年代後半までにその水準に到達しかねない。
真の力と可能性
中国の20万3000基計画について、宇宙関連サイト「SatNews」に寄稿しているエヴァン・グレイ氏は、多くが規制上の障害をマスク氏や他のメガコンステレーション事業者に強いるための「ペーパー衛星」だと先月論じた。
中国はこれらの衛星を30年代初めまで軌道に投入する必要はなく、仮に打ち上げなくても、予約したスロットを失うだけだ。しかし、ITUはこれらを実在の衛星として扱うため、競合各社が電波干渉を回避する方法に影響を及ぼす。
グレイ氏によると、「欧米のエンジニアは、中国のペーパー衛星が生み出すゴーストノイズを避けるようにハードウエアを設計せざるを得ない。結果として、米国のネットワークは打ち上げ前から出力や性能を事実上抑え込まれる」という。
こうした動きは中国に限らない。23年のある研究では、各国政府が過去数年で合計100万基の衛星打ち上げを提案していたことが示された。
そのうち約45万4000基は連続起業家のグレッグ・ワイラー氏1人に関連していた。ワイラー氏はかつてマスク氏や性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン元被告と関係があり、元被告はワイラー氏に英通信衛星ベンチャー、ワンウェブの創設についてアドバイスしていた。
ソフトバンクグループなどが出資したワンウェブは20年に破綻。ワイラー氏はその後、同社を去ったが、ワンウェブは現在、約600基を軌道上に有し、9646基を展開するスターリンクに対抗し得る最有力の企業だ。
ただ、この衛星数の大きな開きは、マスク氏がいかに競合を引き離しているかを物語っている。スペースXのファルコン9に匹敵する低コストかつ高頻度の打ち上げを可能にする再利用型ロケットを開発できない限り、ライバルが21世紀の宇宙競争で行使できる武器は、ITUでの時間稼ぎに限られる。
中国には民間・国有を含め、再利用型ロケットの開発を急ぐ企業が数社ある。だが、スペースXは時間の経過とともに、実績を積み重ねている。
ペーパー衛星20万3000基によるメガコンステレーションは世界支配の企てに見えるかもしれないが、中国が独自のファルコン9を実際に生み出すまで、真の力と可能性はマスク氏の手中にある。
今年見込まれるスペースX上場で取り沙汰される1兆5000億ドル(約230兆円)という評価額は過大に映るかもしれない。
しかし、マスク、ベゾス、ワイラーの3氏はいずれも、インターネットと通信の未来は、過度の負荷がかかっている地上システムではなく、低軌道のメガコンステレーションにあると賭けている。中国も同じ判断を下したようだ。
この判断が正しければ、宇宙で圧倒的に先行しているスターリンクの価値が成層圏並みに高い水準にあることも正当化される可能性がある。
(デービッド・フィックリング氏は気候変動とエネルギーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ・ニュースやウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズでの記者経験があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Musk Is Beating China’s 203,000 Paper Satellites: David Fickling(抜粋)
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