米ヘッジファンドのエリオット・インベストメント・マネジメントは、アクティビスト(物言う投資家)としての強硬なスタイルを日本に持ち込み、多額の資金を投じてきた。今、そうした賭けが重要な試金石を迎えようとしている。

エリオットは、トヨタグループによる豊田自動織機の株式非公開化を阻止しようとしている。同グループによる株式公開買い付け(TOB)は12日に期限を迎える。

トヨタ自動車の源流企業である豊田織機の時価総額は約6兆4000億円に上る。エリオットは同社株を7%余り取得しており、TOB価格が同社を過小評価しているとして繰り返し反対を表明している。

この攻防は、エリオットをはじめとするアクティビストファンドが、日本の企業文化にどこまで影響力を及ぼせるかを測る試金石となる。日本の企業統治はこの数年で大きく変貌を遂げたが、株主は依然として口を出さないことが期待される風土が残っている。

早稲田大学の大学院経営管理研究科の鈴木一功教授は「エリオットがこのTOBを阻止できれば、大きな前例になる」と指摘。「トヨタのケースは、日本企業の経営陣がガバナンス改善にどこまで本気で取り組んでいるかを問う重要なテストだ」と語った。

日本をターゲットとする外国のアクティビストファンドはエリオットだけではない。香港を拠点とするオアシス・マネジメントや英パリサー・キャピタルも長年にわたり日本企業へのキャンペーンを展開してきた。ただし、日本で活動するアクティビストは、大量の株式を取得しやすく経営陣に圧力をかけやすい中小規模の企業に照準を定める傾向がある。

運用資産800億ドル(約12兆2500億円)のエリオットは、スターバックスやサウスウエスト航空など米大企業に変革を求めてきた実績で知られ、大型案件にもひるまない数少ないファンドの一つだ。

ブルームバーグのデータによると、エリオットが保有する時価総額上位12銘柄のうち4銘柄は日本企業で、計55億ドル余りに上る。豊田織機は現在、エリオットの保有銘柄で第3位で、その価値は約30億ドルに相当する。

日本企業のアクティビスト対策を支援するコンサルタントによると、資産家ポール・シンガー氏が創設したエリオットは、株主名簿に名前が現れた途端に経営陣が危機対応モードに切り替わるほど、突出して手ごわい存在と見なされている。

法律事務所ノートン・ローズ・フルブライトのスペシャル・シチュエーションズ部門共同責任者で、アクティビストファンドへのアドバイスに加え、エリオット対策を含む企業防衛で米国・カナダの会社に助言してきたワリード・ソリマン氏は、「日本は急速にグローバルなアクティビストのホットスポットになり、エリオットはその中心的な役割を果たしてきた」と指摘。エリオットを無視するのは極めて危険だと述べた。

トヨタ自動車の豊田章男会長とトヨタ不動産は持ち株会社を設立し、その傘下の特別目的会社(SPC)を通じて豊田織機を買収する計画。

豊田章男氏

豊田織機の広報部はブルームバーグ・ニュースの取材に対し、「公開買付価格1万8800円は、6月3日の公表以降の当社が保有するトヨタグループ株式の価値上昇や経済環境、市場動向などもふまえた当社の本源的価値を適切に反映した価格であると考えている」とコメントした。

トヨタ不動産は「本公開買付価格が豊田自動織機の本源的価値を反映した最善の価格であると考えている」とし、「豊田自動織機の事業環境の変化や、豊田自動織機が保有する上場株式の価格上昇といった要素も考慮している」と説明した。

エリオットの担当者はコメントを控えた。

「変革の推進者」

エリオットは2021年に香港オフィスを閉鎖し、翌年には東京のオフィスも閉め、この地域の投資チームをロンドンに集約する形でアジア事業を再編した。

同社が日本での活動を本格化させたのは、23年にコーンウォール・キャピタルからアーロン・タイ氏を日本投資の責任者として採用してからだ。タイ氏はサンフランシスコを拠点とし、日本には頻繁に出張。上司はポール・シンガー氏の息子でマネジングディレクターのゴードン・シンガー氏だ。タイ氏は、日本の投資アナリスト2人の採用や調査人員の増強を通じ、チームを構築した。

コーンウォールは映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」で描かれた企業の一つ。タイ氏は同社での10年余りのキャリアで日本投資の経験を積んだ。この実績から同氏のアプローチの一端がうかがえる。

コーンウォール在籍時のタイ氏は、20年に出光興産による東亜石油の完全子会社化に向けたTOBの阻止で一翼を担った。22年には、コーンウォールによるユニデンホールディングス買収をリードした。

ロンドンのCLSAのブローカー、ジョン・シーグリム氏は、エリオットが「日本で非常に特殊な経験を持つ人材が必要だと認識しており、アーロン・タイ氏というユニークな経験を有する人物を見つけた」と述べ、「彼は従来型のヘッジファンドマネジャーではない。変革の推進者だ」と評した。

エリオットは昨年11月に豊田織機の株式保有を開示。トヨタグループによるTOBの価格は低すぎると主張した。同グループは1月、TOB価格を1株1万8800円に引き上げると発表。TOBの期間は2月12日までとした。

しかしエリオットは、TOB価格の引き上げ後も反対姿勢を崩さず、豊田織機の価値は少なくとも1株2万6000円、上場を維持して事業戦略を改善すれば4万円にも達し得ると主張。直近の株価終値は1万9670円で、TOB価格を上回っている。

トヨタグループによるTOB価格の引き上げで、タイ氏は序盤の成果を勝ち取った。ただ、豊田織機への投資はエリオットにとっても大型であり、いつまでも資金を寝かせておくわけにはいかないため、今後は圧力に直面する可能性が高いと、過去にタイ氏が相談したことのある日本企業幹部は指摘する。

日本は長い間、アクティビストにとって有望な投資先と見なされてきた。企業は潤沢な現金を抱え、資産は過小評価されている。上場企業は株式の持ち合い構造によって株主の圧力を長らく回避できた。国内の機関投資家が声を上げることもまれだった。こうした状況は今、少しずつ変わりつつある。

三井住友DSアセットマネジメントの責任投資オフィサー、坂口淳一氏は、なかなか前に進まなかった株主側のアジェンダをアクティビストが後押ししてくれた側面もあると指摘する。

日本での成果

エリオットは日本でこれまでに多くの成果を上げてきた。20年には同社からの圧力がソフトバンクグループによる2兆5000億円の自社株買いの実現につながった。最終的に非公開化された東芝を巡る攻防では、取締役の議席を確保した。直近では、東京ガスがエリオットの株式取得後に増配と不動産資産の売却に踏み切っている。

豊田織機の株式非公開化を巡る動きは、「日本株式会社」の方向性で相反するメッセージを発している。

一方では、トヨタグループの持ち合い解消という長年のプロセスにおける新たな一歩であり、日本の企業統治改革の象徴となっている。しかし、その構造をどう解消するか、そのためにどれだけの対価を支払う用意があるかなどを巡る疑問が、エリオットに入り込む機会を与えた。

早稲田大学の鈴木教授は「トヨタはエリオットに格好の攻撃の機会を与えた」と述べ、エリオットは「そうした機会を探していて、ついに見つけたのだと思う」と分析した。

原題:Elliott’s $5.5 Billion Japan Shift Faces Test on Toyota Deadline(抜粋)

--取材協力:横山桃花、稲島剛史、堤健太郎、小田翔子.

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