(ブルームバーグ):投資家の間ではここ数カ月、人工知能(AI)が経済にどのような変化をもたらすのかを巡り、不安感が強まっていた。そうした懸念が先週、突如として株式市場で表面化した。
発端となったのは、AIスタートアップのアンソロピックだ。同社は、法務やデータサービス、金融リサーチに至るまで、幅広い業界の業務を自動化することを狙った新たなツールを発表した。この発表を受け、技術革新が多くの企業の存続を脅かすとの懸念が広がり、投資家はエクスペディア・グループやセールスフォース、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)など幅広い銘柄の売りに動いた。
上場投資信託(ETF)の「iシェアーズ拡大テック・ソフトウエアETF」は先週、4営業日続落で12%ほど下げた。値下がり局面を好機とみる買いが入って6日には反発したものの、数日にわたる激しい値動きに市場は翻弄された。疲労の色をにじませるウォール街の市場関係者にとってメッセージは明確だ。これが新たな現実なのだ。
フューチュラム・グループのダニエル・ニューマン最高経営責任者(CEO)は「新しいソフトやツールが毎週、いや毎日のように市場に投入されている。AIの影響を受ける可能性のある企業の範囲は、日々拡大していくだろう」と述べた。
トムソン・ロイターのカナダ上場株は先週20%急落し、週間ベースでは過去最大の下げを記録した。ソフトウエア、金融サービス、資産運用分野の164銘柄は、先週1週間で時価総額を6110億ドル(約96兆円)失った計算になる。ブルームバーグ・ニュースの親会社であるブルームバーグLPは、金融データやニュースの提供で、LSEGやトムソン・ロイターと競合する。
破壊的変化
AIがもたらす破壊的な影響力は、2022年後半にOpenAIの「ChatGPT」が登場して以来、たびたび話題となってきた。ただ先週までは、関心の大半は「勝ち組」に向けられていた。計算能力の増強に数千億ドル規模の投資が投じられるなか、投資家は、その恩恵を受けると見なされた企業の株式を積極的に買い進めてきた。対象は、半導体メーカーやネットワーク関連企業から、エネルギー供給会社、素材メーカーにまで及んでいた。
そうした戦略はこれまで、大きな成果を上げてきた。半導体関連株を追跡する指数は、2022年末以降で3倍超に上昇した。これに対し、「iシェアーズ拡大テック・ソフトウエアETF」の上昇率は61%、S&P500種株価指数は81%の上昇にとどまる。
AI関連のインフラや基盤を担う企業への投資は、なお優位に立っているものの、アンソロピックやOpenAI、アルファベット傘下のグーグルが相次いで新たなツールを市場に投入するスピードは速い。その結果、かねて語られてきた破壊的変化が、より差し迫ったものとして意識されつつある。
こうした動きは、先月下旬に相次いだソフトウエア企業の冴えない決算が生んだ不安感に、さらに拍車をかけた。中でも影響が大きかったのがマイクロソフトだ。クラウド事業の売上成長の鈍化が、AI分野への巨額投資に対する懸念を強め、同社は1日で時価総額を3570億ドル失った。
キーバンクのソフトウエア担当アナリスト、ジャクソン・エーダー氏は「期待を裏切ったのは、これまで市場を支えてきた主力企業だった」と指摘。そのうえで「決算内容も業績見通しも十分でなければ、業界全体に対してどれほどの信頼を持てるのか、という話になる」と語った。
先週は新興企業を含む多くの銘柄が下落したが、特に下げがきつかったのは、昨年から売り圧力が続いている従来型のソフトウエア企業だった。チーム向けコラボレーションツール「スラック」を傘下に持つセールスフォースは、2024年12月に付けた過去最高値から48%下落している。人事やIT運用向けソフトウエアを手がけるサービスナウも、2025年1月の高値から57%安となった。
見極め困難
クリアステッド・アドバイザーズのシニアマネジングディレクター、ジム・アワド氏は「AIを取り込み、持続的に成長する企業も出てくるだろうが、事業モデルや将来性が恒久的に損なわれる企業もある」と指摘。「現時点では、どれがどれなのかを見極めるのは非常に難しい」と述べた。
ただ、業績の基調が悪化していることを示す決定的な証拠は乏しい。むしろ、ウォール街のアナリストの間では、利益見通しは改善しつつあるとの見方が広がっている。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)がまとめたデータによると、S&P500種指数に含まれるソフトウエア・サービス企業の利益は、2026年に19%増となる見通しで、数カ月前時点の予想(16%増)から上方修正された。

ボストン・パートナーズでグローバル市場調査を統括するマイケル・ムラニー氏は「業績指標が崩れ落ちると誰もが見ているが、私はそうは思わない。仮に混乱が生じたとしても、利益や利益率は問題ない可能性がある。成長株運用の立場なら、押し目を拾っていくだろう」と述べた。
ソフトウエア株は足元、テクニカル分析を重視する投資家が反発を見込みやすい水準まで下げている。iシェアーズETFの14日間の相対力指数(RSI)は5日に15まで低下し、約15年ぶりの低水準を記録した。その後は24前後まで持ち直したものの、一般にRSIが30を下回ると、売られ過ぎとされる。
一方で、バリュエーションは低下が続いている。ブルームバーグがまとめたデータによると、ゴールドマン・サックスが追跡するソフトウエア株のバスケットは、予想PERで21倍と過去最低水準に沈み、2021年後半に付けた100倍超のピークから大きく低下した。セールスフォースも、今後12カ月の予想PERが14倍と、過去10年間の平均である46倍を大きく下回る水準で取引されている。

原題:AI Fear Grips Wall Street as a New Stock Market Reality Sets In(抜粋)
--取材協力:Natalia Kniazhevich.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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