(ブルームバーグ):立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」の動向は、高市早苗首相が仕掛けた解散・総選挙という賭けの鍵を握る。中でも注目されるのが、金一孝・邦子夫妻のような公明党員が持つ「公明票」だ。
先週、秋田市内のコミュニティーセンターで開かれた集会には約250人の有権者が集まり、中道の方針や政策に耳を傾けた。参加者の多くは高齢の公明党支持者だ。
金夫妻は、台湾有事が日本の集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得るとした高市首相の発言に不安を募らせている。首相が日本を過度に右傾化させている懸念があるという。
一孝さん(79)は、「高市政権に対しては『ノー』を突き付けるしかない」と語った。
「公明票」は全国で数百万あるとされる。その1票1票が前回の衆院選で与野党接戦となった46選挙区の勝敗を左右する可能性がある。高市氏が圧勝するのか、辛うじて勝利を収めるのか、あるいは中道が期待していたように、衆議院で主導権を失うのか。国民の審判は、市場にも大きな影響を及ぼすことになる。
首相就任から3カ月余り。高市氏は高い支持率を追い風に、防衛力の強化、消費税減税、積極財政を掲げて勝負に出た。定数465議席の衆院で、連立与党がかろうじて確保していた過半数の233議席を上回る議席を獲得できると見込んでいる。過半数に届かなければ、高市氏は辞任する意向だ。その場合、短命に終わった英国のトラス政権をほうふつとさせる展開となり得る。
世論調査では、高市氏率いる自民党が圧勝するとみられている。だが、選挙協力で重要なパートナーを失ったことに加え、1カ月足らず前に中道が結成されたことで、選挙戦の枠組みが目まぐるしく変わる中、不確実性は残る。
創価学会を支持母体とする公明党は、過去四半世紀にわたり連立パートナーとして自民党と選挙協力をしてきた。選挙区は自民、比例は公明という枠組みで、持ちつ持たれつの体制が長年続いた。
公明の連立離脱後、自民は日本維新の会を新たなパートナーに選んだが、選挙協力は行っていない。
長年の公明党員である金夫妻も小選挙区では自民候補に投票し、比例では公明に投票してきた。自民の「政治とカネ」の問題に批判が高まった2024年の衆院選、さらに昨年の参院選も、夫妻はじくじたる思いを押し殺して自民候補を支持し続けたという。
政治資金問題が一番嫌だったと語った邦子さん(75)は、関わった「議員は辞めてもらいたい。公明党まで同じように見られるのは納得がいかない」と語った。
しかし今回は違う。自公の選挙協力は、公明が昨年10月に連立政権を離脱したことで一変した。中道は、小選挙区では立憲民主の候補へ、比例区では公明の候補への支持を集中させる意向だ。
各社報道によると、「公明票」は全国の各選挙区で多く見積もれば約2万人とされている。前回接戦だった46議席の勝敗を左右し得る規模だ。
金夫妻が投票する秋田1区は、24年の衆院選で自民の冨樫博之氏が872票の僅差で当選した。野党が強いとされる東北地方で、秋田1区を奪取することは、中道にとっては大きな意味を持つ。公明の支持層をてこに勢力を広げ、高市氏の右傾化に対抗するうねりを作り出せた一つの証しになるからだ。
深刻な少子高齢化、人口減少に直面する秋田。農業従事者の高齢化が続く一方、経済をけん引する主要産業に乏しく、東京など大都市への若者の流出に歯止めがかからない。世帯所得は全国で下位に位置し、物価高の痛みは切実だ。
日本海に面する秋田の住民は、北朝鮮から発射されるミサイルによって平穏が脅かされる。昨年は、相次ぐクマ被害も地域の不安を高めた。
集会で演壇に立った秋田1区の中道候補の早川周作氏(49)は地元の出身。羽田孜元首相の私設秘書としての活動や、起業家の経験を生かし、地域経済の再生に取り組む考えだ。
早川氏は、秋田について、「少子高齢化、消滅都市ナンバーワンてつらくないですか。それ止めようじゃないですか」と聴衆に呼び掛けた。政治は強い地域や人のためではなく、「弱い人のために必要なんです」と語った。
中道が秋田で支持拡大を図る一方、高市政権も政策でより積極的な姿勢を打ち出すことで、過去2回の選挙で自民から離れた有権者を呼び戻しつつある。
自民に不信感を抱いてきた支持者の1人が岡本真一さん(55)だ。高市氏が党総裁に就く以前、岡本さんは故・安倍晋三元首相の保守思想から自民が離れつつあると感じていた。22年に都内で営まれた安倍氏の国葬に参列した岡本さんは、そうした思いから前回の選挙では白票を投じた。
国のリーダーは「国民を高揚させることがすごく大事」だと感じているという岡本さん。高市氏が首相に就任して「わくわくすることがすごく多かった」とした上で、多党政治の方がよいと言う人もいるが、「やはり強いリーダーがいてこそじゃないか」と語った。自分も何かしなければという思いから、冨樫氏の集会には風雪にさらされながら足を運んだ。
秋田をはじめ全国での選挙戦を複雑にしているのは、小規模政党の台頭だ。外国人問題への対処や手取りを増やす政策といった有権者の関心事にピンポイントで焦点を当て、明確な政策を掲げ支持を伸ばしてきた。
世論調査では、参政党と国民民主党が一定の結果を出す可能性が高いことが示されており、選挙情勢をさらに読みづらくしている。
秋田1区参政候補の佐藤美和子氏は先週、あられが雪に変わる中、秋田駅近くで街頭演説を行った。
佐藤氏は、少子化による労働力不足を補うために移民が必要だと言われていることに関し、「そんなばかなことはない。安い労働力を使いたいだけだ」と指摘。「このままだと日本は日本でなくなってしまう」と訴えた。
通りがかったドライバーの中には、手を振って応援する人もいた。昨年の参院選では、佐藤氏は秋田で約6万票(得票率13%)を獲得し、自民候補の当選を阻む一因となった。全国的にも、自民の保守層の一部を取り込むことで参政は躍進し、得票数は2番目の多さだった。
凍った歩道に立ち、佐藤氏の演説に耳を傾けていた最上英嗣さんは、「やっぱり『日本人ファースト』。優遇という言い方はおかしいが、日本人にお金を使いましょうというのは賛同できる」と語った。
参政か国民民主かで迷っているという最上さん。「自民党は選択肢にない」と語った。
数分後、同じ場所で国民民主候補の木村佐知子氏が、党代表代行の古川元久氏とともに街頭演説に立った。
39歳の木村氏は秋田生まれの秋田育ち。弁護士であり、東京都台東区議会議員を務めた。2人の子どもを育てる母親でもあり、故郷に恩返しがしたいとして地元に戻ったという。
木村氏は、「国民民主党は、若い世代や子育て世代、女性議員がたくさんいる」と述べた。その上で、国民民主が重点を置く手取りを増やす政策が前進しており、「この秋田でも進めようじゃありませんか」と訴えた。
秋田の伝統的な保守層には、自民は自分たちに背を向けてきたとみる人もいる。例えばコメ問題だ。昨年、当時農林水産相だった小泉進次郎防衛相が高騰するコメ価格の引き下げに動いたことは、地方の農家が直面するコスト急騰を顧みず、都市部の物価高抑制に焦点を当てた対応と映った。
物価高の影響で小規模事業者は厳しい状況が続いており、不満が高まっている。
秋田駅近くの秋田市民市場内で、川村斉さんが父親と営む鮮魚店では、年末年始の休み明け以降、客足が鈍っていた。
「魚は売れないのに、仕入れ値だけはどんどん上がっていく」と話す川村さん。現状が自民党の政権が何十年も続いた結果であることを考えれば、「自民党じゃない方がいいのか」と述べた。
川村さんは、中道が掲げる食料品の消費税を恒久的にゼロにする案に賛成している。中道の候補者は地元の中学の先輩だという。ただ、誕生間もない中道についてはまだよく分からないと語った。
コメ問題を巡っては、小泉氏の対応は自民支持層の間でも物議を醸した。一方、人気があるのも事実だ。先週、自民候補の応援に小泉氏が駆けつけた際には、定員500人程度の秋田市内の会場に約800人が詰めかけた。同氏が登壇すると、一斉にスマートフォンが掲げられた。現職大臣による応援は、公明との連立解消で影響が出そうな選挙区で自民がテコ入れに動いていることを印象付けた。
小泉氏は、「本当に地に足のついた活動をしてきた方が必要なんです」と語った。
前職の冨樫氏が最も強調したのは、直近の世論調査を受けて油断をしないということだった。日本では36年ぶりの冬の選挙で、予想される大雪が投票率と結果に影響を与え得ることもあるからだ。
悪天候は一般的に組織力のある大政党に有利に働くとみられている。ただ、世論調査で自民の勝利が示唆される中、降雪が強まれば与党支持者の間に油断が生じる一方、より熱心な有権者が投票に足を運ぶことで、野党の押し上げにつながる可能性がある。
冨樫氏は支持者に対し、「最後の最後までふたを開けるまで分からない選挙だ」とし、「意識しながら、必死になってお願いをしている」 と訴えた。
原題:Takaichi Needs Votes From a Party That’s Shunned Her to Win Big(抜粋)
--取材協力:Shadab Nazmi、Yasufumi Saito.
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