(ブルームバーグ):ウォール街の一角では、投資の世界がすでに事実上の金本位制へと向かっているとの見方が出ている。
その象徴が外貨準備だ。金価格の執拗(しつよう)な上昇により、現在の価格水準で見ると、世界の中央銀行が保持する金の評価額は、準備資産として保有されている米国債を上回っている。
ロシアが2022年にウクライナ侵攻を開始して以後、金を買い入れてきた中国やインド、ポーランドなどの中銀や政府は、巨額の含み益を抱えた状態にある。

それだけでも、ベッセント米財務長官は背筋が寒くなるはずだ。自らを米国随一の国債セールスマンと称する同氏は再び、投資家への売り込みに取り組まなければならない。
主要国の通貨価値が切り下げられるとの懸念から、投資家が各国国債とそれぞれの通貨建て資産を手放す動きが息を吹き返している。通貨・債務の希薄化を見越したいわゆる「ディベースメント取引」だ。
先週は日本の債券市場が動揺。それに伴い、米国債が売られた余波で、外国為替市場への協調介入観測が浮上した。1990年代後半以来となる異例の展開だ。トランプ政権は昨年4月2日を「解放の日」と称し、大規模な関税措置を発表したが、その後に見られたような市場の対応が再び活発になってきた。
欧州がグリーンランドを巡り米国債の保有を削減するとの思惑から、ドルは再び下落。一方で、銀や銅などの工業用金属も金と歩調を合わせ、高値を更新している。
確かに、「米国を再び偉大に(MAGA=Make America Great Again)」とうたうトランプ政権の時代において、市場は素早く動き、相反するナラティブ(物語)の間を行き来する。ただ、通貨・債務の希薄化を前提とする取引が、長期的な投資哲学として定着しつつあることを示す兆しは増えている。
2026年に向かう中で、ファミリーオフィスや個人投資家はすでに、より創造的に株式保有をヘッジする手法を探っていた。株価下落時に債券が緩衝材となるとされる伝統的な60/40(株式60%債券40%)のポートフォリオは、22年の新型コロナウイルス流行時の値下がり局面で機能しなかった。
世界の株式相場が過去最高水準にある中、突発的なショックから身を守る必要性は一段と高まっている。
慢性的な問題
先週の国債価格急落は、60/40の戦略が崩れたとの見方を強めた。安全資産としての米国債への資金逃避は起きず、米国債相場が上昇しなかったため、株式はショックを和らげる従来の仕組みを失った。
こうした中、ストラテジストは代替的なポートフォリオを提案している。債券を半分売却し、20%を金を中心とする貴金属に振り向ける「60/20/20モデル」だ。これが金価格が1オンス=5500ドルを突破した説明になるだろう。
この見方を受け入れる富裕層が増えれば、米財務省にとっては大きな痛手だ。
25年3月時点で、米国内の投資信託業界だけで米国債を4兆4000億ドル(約674兆円)相当保有していた。これは日本国債の1兆1000億ドルや中国の7650億ドルをはるかに上回る規模だ。
言い換えれば、日本の投資家が資金を本国に還流させたり、中国政府が米国債保有を政治的に利用したりすることの影響は、米国の家計が貴金属へと資金を移す決断をした場合に比べれば取るに足らない。

米国の一般世帯が米国債から距離を置けば、米財務省は、借り入れのより大きな割合を、償還期限が1年以内の米財務省短期証券(Tビル)で賄わざるを得なくなる。
Tビルへの需要は堅調と見込まれる。米連邦準備制度理事会(FRB)が購入を再開し、マネー・マーケット・ファンド(MMF)からの資金流入も続く公算が大きい。60/20/20モデルの支持者は、米国債よりも短期の債券資産を好む傾向があるからだ。
しかし、短期債務が過度に増えれば、借り入れコストの変動性が高まる。このため歴史的に、米財務省は景気拡大期にはTビルの比率を引き下げ、景気下降期に大幅に増やせる余地を残してきた。その柔軟性はいまや失われている。
25年末時点で、Tビルは市場で流通している米国債残高全体の約22%を占め、10年代に見られた水準を大きく上回っている。
ベッセント氏は財務長官に就任する前、前任のジャネット・イエレン氏が短期証券発行を増やしたことを公然と批判していた。だが現在のベッセント氏には、同じ対応を取る以外に選択肢はほとんどなく、米国の借り入れコストを常に気にかけざるを得ない状況にある。
ディベースメント取引はもはや、自然に解消するような一過性の問題ではない。長期にわたる慢性的な問題に変わった。
(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Debasement Trade Is a Real Worry for Scott Bessent: Shuli Ren(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.