(ブルームバーグ):日本国債の急落(金利は急騰)ショックも覚めやらぬ中で来月行われる衆院選。与野党双方が物価高対策として消費税の減税を掲げ、投資家が最も気にするポイントは拡大必至の財政政策の行方だ。
高市早苗首相が飲食料品にかかる8%の軽減税率を2年限定でゼロにする方針を示したことをきっかけに財政悪化リスクが懸念され、新発40年債利回りが初めて4%台に上昇するなど前週の債券相場は大荒れとなった。
外国為替市場の円相場は年初から対ドルで下落傾向が続いてきたものの、前週末以降は通貨当局による円買い介入への警戒が一気に高まっている。市場関係者によると、ニューヨーク連銀が主要銀行に対し参考となる為替レートの提示を求めるレートチェックを実施。日米共同での市場介入するとの臆測が広がり、一時153円台前半と昨年11月以来の円高水準へ急反発した。
現時点で市場関係者の多くは、高市首相が2月8日投開票の衆院選で政権基盤の強化に成功し、経済成長に向けた景気刺激策を推し進めると予想。株高・債券安(金利高)・円安になる「高市トレード」が続くとみている。
SMBC日興証券の丸山凜途金利・為替ストラテジストは、急きょの総選挙後も円の対ドルでの下落余地が残されている半面、日米の協調介入の可能性が示唆されている現状では156-157円台では警戒感が高まると分析。しかし、介入がなければ160円台へのドル急騰も起こり得ると言う。
高市首相は消費税減税の財源について明示していない。財務省の試算では、軽減税率をゼロにすると年間約5兆円の税収に穴が開く。最大野党の中道改革連合も食料品の恒久的な減税を今秋から行う考えで、衆院選の結果にかかわらず財政規律は弱まると警戒されている。
IG証券のマーケットアナリスト、ファビアン・イップ氏は野党が食料品の恒久減税を主張しているだけに、「与党が過半数を失えば、政治的な不安定が株式と債券双方にさらに下押し圧力をかける可能性が高い」と懸念する。
一方、与党が過半数を確保すれば株式市場の追い風になり、三菱重工業に代表される防衛関連株が最大の勝者となりそうだ。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「防衛予算が単純に倍になるため、防衛産業や防衛関連技術の銘柄に資金が入ってくるだろう」と予測。加えて建設や半導体、人工知能(AI)セクターも成長戦略に伴う予算重点化の恩恵を受けるとの見方も示す。
仮に野党が勝った場合でも、飲食料品の軽減税率引き下げが行われれば、食料品株や冷凍食品を扱う水産株、スーパーマーケットなど小売株も上昇する公算が大きい。関西でスーパーマーケットを展開するライフコーポレーションの前週の上昇率は2024年4月以来の大きさだった。
前週の日本株は、財政懸念を背景にした金利の高騰やグリーンランドの領有を巡る米国と欧州の対立懸念などで東証株価指数(TOPIX)は3週ぶりに反落。特に銀行株は、これまで金利高を受けた利ざや拡大期待で上昇してきたが、激しい金利変動でむしろ保有債券の含み損懸念が強まり、下げが目立った。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは「国債利回りの上昇を受けて株式市場がネガティブに反応している最近の動きには注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。株価の下落が続いた場合、「高市政権は選挙後、財政・金融政策の拡張度合いを抑える方向に傾く可能性がある」とみている。
日本銀行は23日の金融政策決定会合で、政策金利を据え置く一方、金融正常化路線の継続を示唆し、経済・物価情勢の展望(展望リポート)では経済成長率と消費者物価(CPI)の見通しを引き上げた。このため、市場の一部では4月にも追加利上げに踏み切るとの見方も出始めたが、金融緩和派として知られる高市首相が影響力を強めれば、日銀の判断や円相場にも影響を及ぼしかねない。
IG証券のイップ氏は「日銀の金融正常化の道筋と円相場の安定は極めて重要な課題だ」と指摘。仮に飲食料品への消費税がゼロになったとしても、「円安が進めば輸入物価が押し上げられ、減税が目指す生活費の負担軽減にはつながらない」と話す。
足元では当局の介入警戒感が高まっているものの、円は今年に入り対ドルで159円45銭と24年7月以来の安値を更新していた。政府・日銀は、円が34年ぶりの安値となる160円台を付けた24年4月29日と5月1日に円買い介入を実施。7月に約38年ぶりの安値を更新した後にも介入している。当局が動いた際の水準は160円17銭、157円99銭、161円76銭、159円45銭だった。
高市首相は25日のフジテレビの報道番組で、金利含む最近の市場変動について「投機的な動きや非常に異常な動きには日本政府として打つべき手はしっかり打っていく」と発言した。
野村証の後藤氏は、介入リスクへの市場の懸念が高まっていると指摘した上で、円安が続くなら「日銀は4月ごろの早期利上げを検討するだろう」と予想。その結果、ドルが160円を上回って上昇する余地は限定的との見方を示す。
投資家にとってもう一つの重要ポイントは、衆院選後の日中関係の行方だ。昨年11月の高市首相による台湾有事を巡る国会答弁を機に両国関係は急速に悪化。中国は対日圧力を強め、今年に入りデュアルユース(軍民両用)が可能な物資の輸出を禁止し、半導体材料への反ダンピング(不当廉売)調査も開始している。
三井住友トラスト・アセットの上野氏は、首相が力を持っていると対外的な交渉力も増すため、「さまざまな意味で推進力が出て、国内経済や株式市場にとって非常にプラスになる」とみている。
オックスフォード・エコノミクスの長井滋人在日代表は、グローバル投資家が本当に求めているのはもう少し確実性のある状況だし、長年にわたる日本市場のメリットは政治の安定だったが、「今それが崩れ去ってしまっている」と語った。
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