トランプ米大統領がイランの電力インフラ破壊の脅しを撤回したのは、米国の同盟国や湾岸諸国が、その実行の危険性について水面下で警告していた中で下された判断だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

トランプ氏は23日、イランのエネルギー関連インフラおよび発電所への攻撃計画を5日間延期すると述べた。戦争の終結に向け、イランと行っている協議の結果を待つと主張している。

しかし、今回のトランプ氏の決定は、一部の同盟国が戦争が急速に破局へ向かいつつあると警告した後に下された。関係者によると、中東地域のパートナー国は米国に対し、イランのインフラに恒久的な損害を与えれば、戦闘終結後に国家として機能不全に陥る公算が極めて大きいと伝えたという。非公開の協議であることを理由に関係者は匿名を条件に語った。

突然の方向転換は、トランプ氏のもう一つの狙いにも合致した。この決定は米国市場の取引開始直前に発表されたが、関係者によると、市場の懸念への対応も一因だった。トランプ氏の強硬姿勢後退が伝わると、原油先物相場は急落。S&P500種株価指数は上昇し、米国債利回りは低下した。

Photographer:Roberto Schmidt/Getty Images

米国防総省元高官のダナ・ストロール氏は「トランプ氏は、事態のさらなるエスカレートを招くのが確実な脅しから引き下がる必要があった。今回は民間のエネルギーインフラを標的とすることで新たな一線を越え、戦争犯罪に該当する可能性が高かった」と指摘。「5日間の猶予と協議の発表が、23日の米市場取引開始直前に行われたのも、偶然ではあるまい」と語った。

エジプト、トルコ、パキスタンが仲介か

現時点で浮かび上がるのは、イランの周辺国が今回の外交的動きをひとまず5日間の猶予と受け止めているという構図だ。ある外交官は、エジプト、トルコ、パキスタンが米国とイランの間でメッセージを仲介していると述べた。両国の橋渡し役は存在するものの、交渉がどの程度直接的に行われているかは明らかでない。

トランプ氏は23日に記者団に対し、イラン側の代表が戦闘終結への合意を強く望み、協議開始に向けて接触してきたと述べた。

同氏によると、協議はウィトコフ特使と娘婿のジャレッド・クシュナー氏がイラン当局者と22日に行い、イラン側は国内の核物質を引き渡し、核開発を再開しないことで合意した。協議は23日も電話で継続される見通しだという。こうした合意の下でホルムズ海峡の管理を誰が担うのかと問われると、「私とイランの最高指導者かもしれない」とトランプ氏は語った。

さらに「うまくいくか様子を見る。順調に進めば、この問題は解決に向かうだろう」とし、「そうでなければ、徹底的に爆撃を続けるだけだ」と続けた。

他の国々も、トランプ氏がイランに脅しを発した後に協議が行われていたことを認めた。

スターマー英首相は、米国とイランの協議を把握していたと発言。「米国とイランの協議が報じられていることを歓迎する。議会委員会には明確にしておきたいが、英国としてもその動きは把握していた」と語った。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、パキスタンのアシム・ムニール陸軍参謀長は22日にトランプ氏と話し合いを行った。それを受けて同国のシャリフ首相が23日、イランのペゼシュキアン大統領と協議を行ったという。

疑問視する声

一方で、イラン外務省は同国ミザン通信に対し、こうした協議の存在を否定。さらにイラン議会のガリバフ議長はトランプ氏の主張について「金融市場や石油市場を操作するためのフェイクニュースだ」と批判した。

進行中の外交協議に詳しい関係者らは、トランプ氏がエネルギー施設への攻撃計画を停止した決定について、原油価格を抑制する狙いがあったとみている。実際、トランプ氏も関連性を認めた。

同氏は「合意が成立すれば、原油価格は急落するだろう。実際、きょうすでに下がっているようだ。合意に至る可能性は非常に高い」と述べた。

こうした動機の混在が、ワシントンやウォール街で和平の実現性を巡る疑念を強めている。トランプ氏が過去に強硬な脅しを撤回してきたことや、イラン側が核協議を引き延ばしてきた経緯に加え、米国が今回の軍事行動に先立ちイランと協議していた最近の例もあり、外交関係者やトレーダーの間では、交渉が実質的な合意につながるのか疑問視する見方が広がっている。

クリアビュー・エナジー・パートナーズはリポートで「トランプ氏はこれまでも意図的にミスリードする傾向があった。今回の48時間の期限も、現地の状況を一変させるような近い将来の出来事の隠れみのとなる可能性は否定できない」と指摘した。

イランは協議を否定

また、イランが協議の存在を即座に否定したことも懸念材料となっている。

「イランが西アジアのすべての発電所を標的にすると伝えたことで、彼(トランプ氏)は引き下がった」と、イランの準国営ファルス通信は匿名の関係者の話として報じた。この報道を受け、原油相場は当初の下げ幅の約半分を埋め、一部のトレーダーはトランプ氏の発言の信頼性に懐疑的な見方を示した。

トランプ氏は直接的な対話の存在を強調しているものの、多くの同盟国は慎重な姿勢を崩していない。戦争開始からの3週間で、トランプ氏が方針を二転三転させてきたことから、今回の動きについても様子見の姿勢を取り、懐疑的な見方を維持している。

トランプ氏は、最高指導者に就任したモジタバ師とは協議していないことを認めた。モジタバ師は、一連の攻撃で死亡したハメネイ師の次男にあたる。トランプ氏は、モジタバ師から直接の連絡はなく、生死も不明だと説明。情報機関に基づき、ウィトコフ氏とクシュナー氏がイランの権力中枢と交渉しているとの見方を示した。

トランプ大統領は、ホルムズ海峡が「ごく近く」再開され、共同管理される可能性があると述べた

今回の猶予が、結果的にイランの戦略を正当化するリスクもある。特に協議が不調に終わった場合だ。

「地域のエネルギーインフラへの脅しを強めれば、米国を後退させられるという認識をイランに与えかねない」と、米情報機関で中東地域担当の副責任者を務めたジョナサン・パニコフ氏は指摘した。「イランの認識では、こうした行動が抑止力を高めることになる」という。

イスラエルは攻撃継続

トランプ氏は5日間の猶予期間中に軍事施設への攻撃も控えるかどうかは明言していない。イスラエルは戦争の早期終結を見込んでおらず、エネルギー施設への攻撃を避けつつ作戦を継続する方針だと、イスラエル当局者が匿名で述べた。

イスラエル側は、トランプ氏のSNS投稿を事前に知らされていたと2人の当局者が明らかにした。一方で、投稿から1時間以内に、イスラエル軍はテヘラン中心部への攻撃を実施した。今回の決定が戦争終結プロセスの始まりとなるかどうかは不透明だ。イスラエル軍報道官は戦争は停止しておらず、戦闘は継続中だと述べた。

一方、トランプ氏はイスラエル側と協議したことを認めた上で、最終的な合意にはイスラエルも同意するとの見通しを示した。「イスラエルは我々の成果に非常に満足すると思う。先ほどイスラエルと話をした。彼らは非常に満足するはずだ。これが実現すればイスラエルにとっての平和、長期的で保証された平和になる」と述べた。

トルコ、サウジアラビア、オマーンなど中東諸国は過去2週間、イランとの非公式の協議に関与してきた。戦争を沈静化させ、最終的には米イスラエルとの停戦合意を目指してきた。

「サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、バーレーンなど、他の中東諸国にとっても非常に良いことだ」とトランプ氏は述べた。

現地の外交官によると、トルコとオマーンが主導するルートが水面下で最も活発に動いていたという。また、別の関係者によれば、サウジ、インド、エジプトを経由してもメッセージがやり取りされていた。ただ、これらの動きがトランプ氏の決定にどの程度影響したかは不明だ。

原題:Trump Began Iran Talks as Allies Warned War Risked Disaster (2)(抜粋)

(地図を加えて更新します)

--取材協力:Jasmina Kuzmanovic、Donato Paolo Mancini、Selcan Hacaoglu、Arne Delfs、Peter Martin、Ethan Bronner.

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