高市首相が1月19日に記者会見を行って、与党としても消費税の減税を推進する方針を明らかにした。

与野党がともに消費税減税の方向を向いた格好である。

これでは、主要政策に与野党での大きな差は生じない。

衆院選は実質的に高市政権への信任投票を求められることになる。

本当に必要とされる成長戦略はどこへ行ってしまったのか。必要とされる政策も考えたい。

インフレ加速の弊害

2月8日投票の日程で衆議院選挙が実施される。

当初、株式市場では、解散の観測報道(1月9日にオンライン速報)を好感して大幅に上昇したが、その後は期待感が剥落している。

立憲民主党と公明党が新党を結成し、対決姿勢を鮮明にしていることで、与党が思ったほどは躍進できないのではという思惑を強めているためである。

経済的要因では、消費税減税への潜在的な不安もある。

食料品の消費税率8%をゼロにすれば、たとえそれが2年間の時限的措置だと謳っていても、二度と引き上げができないのではないかと勘ぐられてしまう。

約5兆円の財源の穴は、そう簡単に埋められず、日本の財政は再び基礎的財政収支の悪化を継続することになりかねない。

そうした連想が1月20日の長期金利を一時2.38%まで押し上げた。

同時に、円安進行によるインフレ加速といった副作用も警戒される。

インフレ予想は、長期金利の上昇にもつながる。

株式市場の投資家たちの見方は、当初の衆議院解散→与党勝利→株価上昇という単純明快な連想を修正しにかかっている。

現在は、長期金利上昇、コストプッシュインフレの加速といった副作用を警戒する冷静な反応へと切り替わっているようだ。

大同小異の物価高対策

ところで、なぜ今、解散総選挙なのだろうか。

それは、新たな選挙公約の実現よりも、高市政権が与党の議席数を躍進させようと勝負に出ようとしているからだろう。

要するに、高市首相自身の高い支持率を背景にして、与党への信任をより確かなものにしてほしいからだろう。

政策投票ではなく、信任投票を求めているのだ。

2024年秋の衆議院選挙で、自民党が少数与党に転落した。

その流れを変えたいという気持ちが高市政権にはあるのだろう。

高市首相の人気が高いうちに解散すれば、衆院選に勝利して、自民党は党勢を盛り返せる。

そうした読みがあって勝負を仕掛けたとみる。

しかし、肝心なのは経済政策だ。与野党が揃って、消費税減税を掲げているので、各党の差はほとんど見えにくくなっている。

大同小異の印象を受ける。率直に言って、いずれもバラマキ的で近視眼的に過ぎると感じられる。

各党の政策の違いだけでは、ほとんど有権者からの評価の差は生じないと考えられる。

むしろ、大切なのは経済成長戦略だろう。

前の岸田政権と石破政権のときは、賃上げを軸にして好循環を実現しようという構えであった。

そして、中小企業の賃上げに向け、そのための価格転嫁が十分ではないという課題が浮かび上がった。

そうした経緯は、高市政権下では以前ほど強調されなくなっている。

減税・給付、各種支援によって物価高対策が成り立つという理解で大型財政出動が行われようとしている。

中小企業に目線を合わせた成長戦略はどこに行ったのだろうか。

過去の自民党は、今よりも経済メカニズムを動かすことに熱心だった。規制緩和や貿易連携、インバウンド政策、地方創生などを語ってきた。

今の与野党の議論では、そうした内容はほとんど目立たなくなった。

有権者は、減税・給付によって「自分にいくらくらいの利得があるか?」と考える人ばかりではない。

多くのビジネスマンが望んでいることは「もらえる経済政策」ではなく、「稼げる経済政策」だ。

なぜならば、減税・給付金・社会保険料減免などで家計支援を行っても、効果は一時的だと知っているからだ。

例えば、食料品(除く外食)の消費税率8%が適用される範囲は、消費者物価の品目ウエイトでは21.7%を占める。▲8%×21.7%=▲1.7%となる。

つまり、消費者物価は、食料品の非課税化で▲1.7%ポイント下がる。それが2年間続く。

しかし、2年目の押し下げ効果はゼロになり、3年目に消費税を元の8%に戻すのならば、+1.7%ポイントの押し上げになる。

このように数値で示すと消費税減税の効果が一時的であることはより明らかだろう。

成長戦略とは何か?

近年の国政選挙を見る限り、与野党ともに成長戦略を語ることが苦手分野になっている印象がある。

かつてのように「骨太の政策」、「構造改革」を打ち出せなくなった代わりに、減税・給付金・社会保険料減免のアピール合戦が行われている。

経済環境が正常化しつつあるのに、デフレ時代から続く財政依存の政策メニューから脱却できないのは奇異に感じられる。発想をインフレ防止に切り替えていただきたい。

今の日本経済が成長を目指すためには、人口減少・高齢化を意識して、需要を海外から取り込むことが政策志向として望まれる。

例えば、中小企業はもっと輸出を増やす余地がある。

日銀短観のデータでは、企業の輸出額のうち中小企業はたった15%しか占めていない。

最近はZoomのようなビデオ会議システムを使って、海外との打ち合わせが簡単にできるようになった。

こうしたツールを使って、非製造業でも越境EC取引を通じて外貨を稼げれば、経済的利得も大きくなると期待される。

反面、外国人排斥を唱える感情的論調に近づくことは与党として危険である。

インバウンド・ビジネスは宝の山に見える。

秩序のあるかたちで、外国人政策に臨んだ方がよい。

各国へインバウンド・ビジネスの裾野を広げるマーケティングを政府が推進することは、経済的威圧に対する分散化対策にもなる。

また、最近のテクノロジーの進歩も取り込みたい。

例えば、中小企業の生産性上昇を促すツールに対する支援に政府が旗を振る。

これだけAIが身近になったのに、中小企業ではその威力を活用できていない先も数多くある。

代表的なAIであるChatGPT一つ取っても、まだ十分に活用されていない気がする。

そのためには、中小企業にAI活用を伝導するアドバイザー(仮称:AIマイスター)を数千人単位で育てて、彼らを中小企業に派遣する案はどうだろうか。

中小企業診断士のように、経営改善をアドバイスすることが望まれる。

そうした支援の積み上げとして、従業員数の約7割を占めている中小企業の賃上げが実を結んでいくのであろう。

まとめると、政策の軸は、①海外需要を取り込むこと、②テクノロジーの活用支援、の2つがまず考えられる。

社会保障削減より労働市場改革

最近の国政選挙での政策論争では、人口減少・高齢化に対する構造的な変革が十分に語られていない点にも不満がある。

消費税減税は、高齢社会のための社会保障の充実に反する。従来、「消費税=社会保障財源」という位置づけだった。

もしも、消費税減税を実施すれば、社会保障財源に穴があく。

穴埋めのために歳出カットを行うことを目指せば、どうしても社会保障関係費の削減に進んでいくだろう。

歳出に占める社会保障関係費の大きさを考えると、それを避けては通れないからだ。

また、与野党の中から主張されている社会保険料減免にも同じ問題点がある。

筆者は、社会保障改革は進めるべきだと考えるが、5兆円もの財源を社会保障関係費を含めた歳出カットで賄うのは困難だとみている。

高齢社会には痛みが大きすぎる。

むしろ、今、必要な政策は、「日本の高齢化が進んでも、潜在成長率を継続的に高められる」ことを目指した成長戦略の構想だろう。

経済学の知見を使えば、単なる財政出動では日本経済の潜在成長力は高まらない。

供給能力は、テクノロジーの進歩や労働市場改革によって高まっていく。

視点を「労働力の高齢化」に置けば、企業はシニアの体力や長時間労働に強く依存しない働き方を推進する必要がある。

シニア労働者がデジタル機器を使って生産性を高め、もっと成果主義的に報酬を得られる仕組みづくりである。

現在の労働市場には、年齢によって一律に給与カットする労働慣行が根強くある。60歳以上になれば、雇用形態が非正規化していき、徐々に労働報酬も切り下げられる。

むしろ、シニア労働者は、自由に労働移動できる環境を整備することが望まれる。

その基盤を作っていくために中小企業でも幅広く副業・兼業を認めていく。

複数の企業で同時に働くことができれば、転職もしやすくなるだろう。

そこでは、在職老齢年金制度を廃止すべきだろう。在職老齢年金制度は、シニアが多くの就労収入を得ることを間接的に阻害している。

デジタル化の推進と同時平行して、筆者は、シニア労働者の潜在能力を発揮させることを意識して、労働市場改革を進める発想も重要だと認識している。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野英生)

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