(ブルームバーグ):高市早苗首相は、就任からわずか3カ月で衆議院解散・総選挙に踏み切る。高い内閣支持率を追い風に、与党の議席増を通じて政治基盤の強化を図り、長期政権への足場を築こうとしている。
高市氏は19日、衆院を23日に解散すると表明。食料品にかかる消費税の軽減税率を一時的に引き下げることを公約に掲げ、来月8日投開票の総選挙(1月27日公示)に臨む。
高市氏は物価高への対応を最優先に「責任ある積極財政」を掲げ、昨年11月に大型の経済対策を打ち出した。裏付けとなる2025年度補正予算の一般歳出はコロナ禍以降で最大規模。総選挙で勝利すれば首相の政治的求心力が高まる一方、政局入りにより26年度予算の成立が遅れることになる。
高市氏の歯に衣を着せぬ物言いや保守的な路線への転換は、高い支持率につながっている。朝日新聞が17、18両日に実施した世論調査によると、内閣支持率は67%と高水準を維持。一方で、衆院選の比例区投票先で自民は34%と伸び悩んでいる。高市氏の物価高対応は「評価しない」が47%と「評価する」の39%を上回った。
有権者の関心事は?
有権者の最大の関心事は生活費の高騰だ。インフレ率は3年半余りにわたり2%以上の水準が続く一方、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない期間が大半を占め、家計への負担が強まっている。与野党は対策として消費減税を掲げた。
高市氏は19日の会見で、2年間に限り食料品の消費税をゼロにする考えを表明。自民党と日本維新の会との連立政権合意書に盛り込んだ政策でもあり、「私自身の悲願でもあった」と語った。今後設置される国民会議において財源やスケジュールの在り方など実現に向けた検討を加速するとした。
減税の財源について、高市首相は国債には頼らないと強調。具体的には補助金や租税特別措置、税外収入など歳出歳入全般の見直しが考えられるとした。財務省は昨年4月時点で、軽減税率の8%をゼロ%とした場合の税収の減額見込みは5兆円程度との試算を示している。
最大野党の立憲民主党と公明党が結成した「中道改革連合」は同日発表した基本政策の中で、食料品の消費税をゼロ%に恒久的に引き下げることを明記した。物価上昇に対応するため「行き過ぎた円安の是正」も盛り込んでいる。
円安の進行は食品やエネルギーなど輸入価格の上昇を通じてインフレ圧力を強めている。一方、訪日外国人観光客が急増し、オーバーツーリズムが深刻化する中、外国人を巡る制度や対応の問題も浮き彫りになっている。昨年7月の参院選では、新興右派政党の参政党が「外国人問題」への対応を公約に掲げ、票を伸ばした。
市場への影響
日本はその経済規模から国際金融市場で無視できない存在であり、政治情勢の変化は金利や為替相場、投資家のリスク許容度に影響を及ぼし得る。
選挙を巡る不透明感はすでに円安を招き、国債利回りを押し上げている。日本の財政健全性や政策運営に対する投資家の警戒感を反映した動きで、円相場は昨年12月の日本銀行による追加利上げ以降も下落が止まらず、今月14日に対ドルで159円45銭と約1年半ぶりの安値を付けた。
また、債券市場では消費減税論の浮上を受けて売りが加速。20日には10年債利回りが2.35%と約27年ぶりの高水準を更新したほか、20年債利回りが1997年以来の高水準、40年債利回りが過去最高となる4%台を付けた。
みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、選挙中は情勢調査結果に左右されそうだが、いかなる展開でも財政弛緩(しかん)への連想があると指摘。債券市場は長いゾーンの金利上昇が大きくなる金利カーブの傾斜化圧力がかかりやすく、為替レートも財政悪化懸念自体は円安圧力になりやすいと分析した。
解散の理由は?
高市氏は19日の記者会見で、昨年10月の首相就任後、「政権選択選挙の洗礼を受けていないことをずっと気にかけてきた」とし、自身が首相でよいのかどうか、国民に決めてもらうしかないと考えたと説明。「改革をやり切るためには、やはり政治の安定が必要」と述べた。
自民党の鈴木俊一幹事長は14日、維新との政策合意の内容や、責任ある積極財政、安保3文書の見直しなど高市政権の政策について「国民の審判を得る必要がある」と発言。補正予算に盛り込まれた物価高対策の執行を急ぐとともに、26年度予算の成立が4月以降にずれ込む期間も短くし、経済への影響を抑える考えを示した。
勝敗ラインは?
解散・総選挙が行われれば、衆院定数(465)のうち、289議席が小選挙区から選ばれ、176議席が比例代表で選出される。自民と維新の連立与党は現在、無所属議員の自民会派入りにより、衆院で233議席とかろうじて過半数を確保している。
高市氏は勝敗ラインについて、自民と維新の「与党で過半数を目指す」とし、信任を得られれば「その後の政策実現のスピードを加速することができる」と述べた。一方で、「信任をいただけなければ責任を取る」とした。
維新の吉村洋文代表は、選挙区調整はしない考えを示している。今回の総選挙は、自民党にとって長年連立を組み選挙協力を行ってきた公明党抜きで臨む選挙となり、自民党が単独でどこまで議席を確保できるかも、選挙後の政策運営の安定を占う上でポイントとなる。
今回の総選挙で勝利すれば、高市氏の政策に対する明確な信認が得られ、今後の政策運営でより強い主導権を握ることができる。一方、敗北すれば、高市氏の政治的立場は一気に弱まる。石破茂前首相は24年に衆院解散・総選挙に踏み切ったものの、連立与党が過半数を失い、その翌年の参院選でも大敗。わずか1年で辞任に追い込まれた。
最大野党の動き
新党を結成した立民の野田佳彦代表は15日、衆院選での獲得議席目標について「比較第1党になることを目指すことが筋」だと言明。公明の斉藤鉄夫代表は、小選挙区には公明出身の候補者は擁立せず、同党出身者は「比例代表を中心とした戦いになっていく」と語った。
現在の衆院での議席数は、無所属を含む立民会派が148、公明が24で、自民党・無所属会派が199議席。新党結成により公明党票が立憲民主に流れ、自民党が苦戦する可能性がある。創価学会を支持母体とする公明党の票は1選挙区あたり2万票ほどとされる。
ピクテ・ジャパンの市川真一シニア・フェローは15日付のリポートで、24年総選挙の結果から各小選挙区における比例代表区での公明党票を自民党候補から控除し推計すると、無所属を含む自民党系候補の当選者は197人から142人に減少したと分析。公明が立憲と完全連携すると、自民の獲得議席は120程度、立憲は213になるという。
選挙結果が外交に与える影響は?
今回の選挙は外交面でも重要な意味を持つ。高市氏が勝利すれば、中国が軍事的威圧を強める中で日本は防衛費を拡大し、米国の主要な同盟国としての役割を一段と強化する方向に進むとみられる。敗北すれば政局が混乱し、こうした取り組みは鈍化、あるいは複雑化する可能性がある。
高市氏は、防衛費を対国内総生産(GDP)比2%とする目標を2年早い25年度に達成した。一方、台湾有事を巡る発言に中国が反発、日中関係は悪化している。
19日の記者会見では、中国との対話にはオープンで今も各レベルで意思疎通を行っていると発言。意思疎通を続け、国益の観点から冷静に適切に対応するとの考えを改めて示した。
選挙結果は日米関係にも影響する。高市氏は首相就任直後の昨年10月、トランプ大統領との会談を実現。「最強レベルの同盟国」であることを確認した。今年3月には訪米を予定している。
--取材協力:上野英治郎、広川高史.
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