(ブルームバーグ):中国共産党の習近平総書記(国家主席)が抱く野心の中核は台湾との「祖国統一」だが、攻撃を仕掛け失敗すれば、中国側が負う代償も甚大だ。
死傷者や経済への打撃、人民解放軍の信頼性低下、国内の不安定化など、いずれもその悪影響は計り知れない。それでも、こうしたリスクが、習氏の行動を確実に抑止する保証はない。
台湾を自国領土の一部だと主張する中国は、平和的統一を望んでいるとしているが、武力行使の可能性を否定したことはない。ワシントンのシンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団(GMF)は新たなリポートで、中国にとっての最悪のシナリオを示した。
学術的なウォーゲーム(戦争を想定したシミュレーション)の多くはこれまで、台湾や米国のリスクに焦点を絞ってきたが、中国・台湾問題の専門家が執筆し、GMFインド太平洋担当マネジングディレクターのボニー・グレイザー氏が編集したこのリポートは、中国の弱点分析で注目される。
リポートによれば、人民解放軍は台湾の制圧に失敗した場合、約10万人の兵力を失う可能性がある。こうした軍事衝突は輸出依存の中国経済を壊滅させ、軍は数年にわたり弱体化したままとなる。そうした高コストにもかかわらず、習氏が攻撃に踏み切らざるを得なくなる恐れがあるという。
中国指導部がいつ、どのように台湾の掌握を試みるのかという問いは、長年にわたり関係国の政策当局を悩ませてきたが、米国による台湾への安全保障上の関与に対する懸念が高まる中で、緊急性が増している。
トランプ米大統領は最近のインタビューで、習氏が台湾を中国の一部と考えているとし、「それは彼次第だ」と述べて不安に拍車をかけた。
台湾政府は、トランプ政権と貿易協定で合意した。米国は台湾からの輸入品に対する関税を15%に引き下げるほか、台湾の半導体企業による米事業向けの資金調達規模を5000億ドル(約79兆円)拡大する。
トランプ政権が発するこうした相反するシグナルは、台湾の頼清徳総統にとって厄介な時期に発せられている。台湾政府は軍の強靱(きょうじん)性を高める特別国防予算の成立に手こずっている。野党が一貫して阻止を試みているためだ。
その傍らで、米政府がイランやベネズエラなどを巡る幾つもの外交課題に気を取られるリスクがある。これにより、北京で危険な認識が強まりかねない。つまり、すでに用いている強圧的手段を超えるさらなる軍事的圧力こそが最善の道かもしれないとの考えだ。
極端なケース
GMFのリポート「If China Attacks Taiwan(もし中国が台湾を攻撃すれば)」は、2026年から30年にかけての限定的な衝突から全面戦争までのシナリオをモデル化している。
最も極端なケースでは、戦闘は陸海空軍による台湾上陸作戦と、台湾と在日米軍、グアムに駐留する米軍へのミサイル攻撃で始まる。
人民解放軍部隊は台湾の海岸に到達するが、台湾軍と米軍による継続的な攻撃で、中国の兵たんと補給線は壊滅的な打撃を受ける。数カ月に及ぶ戦闘の末、中国は甚大な損失を被り、撤退を余儀なくされると、リポートは想定している。
台湾も無傷では済まない。推計で軍の死者は5万人、民間人の犠牲も同程度に上る。米国は軍人約5000人と民間人1000人を失う可能性があり、日本も自衛隊員約1000人、民間人500人が死亡する恐れがある。
たとえ中国が統一に失敗しても、台湾の離島、金門と馬祖を占領するとリポートは指摘。敗北は中国にとって国家的屈辱と受け止められ、再度の攻撃につながる可能性があるという。

経済的な余波も同様に深刻で、限定的な衝突であっても損失は数兆ドル規模に達する。数万人規模の犠牲者は、人口減少と成長鈍化に直面する中国の社会的安定を圧迫する。
数十年にわたり、中国共産党への服従と引き換えに生活水準の継続的な向上を国民に約束してきた後だけに、その影響は一段と大きい。
政治的リスク
紛争が差し迫っているとの予測はしばしば、人民解放軍創設100年に当たる27年と結び付けられてきた。それでも、中国を抑止できないとすれば、それは、中国が自ら被るコストを認識していないからではない。
習氏は単にそうしたコストを無視する決断を下すか、行動しないことの政治的リスクが戦争の代償より大きいと結論付ける可能性がある。とりわけ、台湾の頼政権が米国の後押しを受け、独立志向へ傾いていると見なされる場合はなおさらだ。
中国による台湾攻撃を抑止するには、代償の大きさを突き付けるだけでは不十分だ。勝利する公算が小さく、エスカレートすればコントロールが困難になることを、習氏に理解させる必要がある。
台湾と米国、日本の連携した政策が不可欠で、中国の作戦を食い止める能力と、その意思の双方を示さなければならない。
具体的には、人民解放軍の上陸能力を阻止する防衛力の構築に加え、軍民双方の強靱さを高めることが含まれる。米国と日本は、危機時に即応できる部隊と兵たんも整えておく必要がある。
米国の役割は極めて重要だ。台湾に対する関与が交渉次第だと習氏が考えるなら、コストが高くつくという説得だけでは同氏を縛れず、より包括的な米中通商合意に台湾を含めることもできない。そうなれば、台湾は脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれ、まさに中国が望む状況になる。
台湾を巡る戦争は中国にとって破滅的だ。危険なのは、それ故に起こり得ないと決め付けてしまうことだ。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Cost of a Taiwan Conflict Won’t Stop Xi: Karishma Vaswani(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.