ついにここまで来てしまった。11日夜、連邦準備制度理事会(FRB)が大陪審への召喚状を司法省から受け取ったというニュースが飛び込んできた。パウエル議長が本部ビル改修工事に関し、昨年議会で虚偽の証言を行ったとの主張に基づいたもので、刑事訴追の可能性が示唆されている。これは奇妙で、危険なだけでなく、自傷行為的なアプローチであり、米国やその金融システムに害しか及ぼさない。確かにFRBのガバナンスは単純ではなく、現在の形での独立性は民主的説明責任という面で多くの問題がある。だからといって公的な機関であるFRBと、退任が決まっている議長を、司法省や法律を使ってどう喝することは1ミリも正当化されない。

パウエル氏は8年近い在任中にいくつか重大な過ちを犯した。インフレが進行していた2021年を通じてゼロ金利を維持したことは、数十年後も指摘される政策ミスだった。しかし、だからといって政策と無関係な問題で起訴を求めることの正当化にはならない。そしてパウエル氏自身は、何カ月も前から続く圧力に初めて反撃に出た。同氏が11日夜に出した声明は、全文を通じて見る必要がある。本部ビル改修の問題が中心ではないとしている。

それらは口実だ。刑事訴追の脅しは、連邦準備制度が大統領の意向に従うのではなく、公共の利益に資すると判断した最善の評価に基づいて金利を設定していることの結果だ。

これは連邦準備制度が証拠と経済状況に基づいて金利を設定し続けることができるか、それとも金融政策が政治的圧力や威嚇によって左右されることになるのかという問題だ。

パウエル氏の主張は正しい。同氏はもっとうまく金融政策を運営できたかもしれないが、訴追の脅しはより良い結果につながらない。

トランプ米大統領(左)とパウエルFRB議長(右)2025年7月

この件がこれほど奇妙なのは、それが不必要だからだ。繰り返されているのは、クックFRB理事を住宅ローン詐欺の疑い(その根拠はかなり弱い)で解任しようとした戦術であり、トランプ政権の常とう手段だ。クック理事との法廷闘争にトランプ政権が勝利できるかどうかは依然不明で、独立したFRBの理事を解任する権利が大統領にあるかどうかについて、最高裁は来週、口頭弁論を予定している。最高裁の判断次第では、政権がFRBを好き勝手にできるという先例になり得る。

クック理事解任の論拠は少なくとも政治的には無謀だ。トランプ米大統領は自分のアジェンダに賛成する人物をFRBに送り込もうとしているが、クック理事の任期はあと10年ほどある。パウエル氏は5月で議長としての任期が終了する。その後も2年間、理事としてFRBに残る可能性はあるが、議長退任と同時にFRBを去るというのが大方の予想だ。今回の訴追示唆はかえって同氏のFRB留任を促す可能性さえある。地区連銀総裁の任期は近く更新される予定で、トランプ氏がFRBの布陣を一新する機会は当面ない。しかも政治的な体面は悪い。歴史的なワシントンの建造物を過度に改修することが犯罪なら、最近強行されたホワイトハウス東館の取り壊しを検証する先例になりかねない。

政府は先週、FRBを巻き込まずにアフォーダビリティー(暮らし向き)問題に対処する数々の施策を打ち出した。モーゲージ債の買い上げや、カード金利上限などがそれに含まれる。これらが良策かどうかは別にして、信頼性と効果という点では退任前の高齢者をどう喝するよりはるかに優れている。

市場の反応は、これがひどい考えだという点と、成功しそうにないという点の両方を織り込む必要がある。ホワイトハウスが場当たり的なやり方で、これまで以上に強硬に金融政策の設定で圧力をかけようとしている。その見方において、ドルには悪材料だ。米東部時間11日午後10時現在のマーケットは以下の通り。

マーケットは認めず:アジア時間に金は急伸しドルは下落

最後にもう一つ付け加えることがあるとすれば、最新のデータからは金利を押し下げる必要性がほとんど示されていないという点だろう。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Prosecuting Powell Would Be New Low With No Upside: John Authers(抜粋)

--取材協力:Richard Abbey.

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