(ブルームバーグ):ホワイトカラーの女性社員の現状に関する最新の調査は、多くの女性が最近、肌で感じていることを裏付けている。それは、企業内の昇進ルートが、女性向けには設計されていないという現実だ。
コンサルティング会社マッキンゼーと働く女性を支援する非営利団体LeanIn.orgの年次調査によると、女性の昇進意欲は2024年より高まっているにもかかわらず、男女間の格差は過去11年で最大に広がった。
誤解してはならない。女性の仕事への意欲も責任感も、男性と同じように強いことは確かだ。しかし、組織の階段を上りたいという意欲では後れを取っている。次の職位への昇進を望むと答えた女性の割合は80%で、男性の86%に比べて低い。
無理もない。この1年で、職場環境は女性にとってこれまで以上に厳しいものになっている。もともと特に歓迎されていたとは言い難い。ここ10年で積み上げてきた成果が失われつつある中、多くの女性は、手が届かないように感じるものをなぜ目指すべきなのか、と問い始めている。

女性たちは、最も支援を必要としている時に、雇用主が自分たちの成功を後押しする姿勢を弱めていることに気づき始めている。調査によれば、女性のキャリア向上を「優先事項」と位置付けている企業は約半数にとどまる。
一方で、女性のキャリアアップを「ほとんど優先していない」「全く優先していない」と認めた企業は20%に達し、有色人種の女性に限定するとその比率は約30%に跳ね上がる。この調査には直接比較できる過去データはないが、企業が女性の成功を評価する姿勢がどう変化してきたかは明らかだ。17年には企業の88%が「ジェンダー多様性は優先事項」と答えていたが、24年は78%に低下した。
裏切り
こうした変化は裏切りと言っていい。そしてその裏切りが、昇進意欲の格差をさらに広げている。マッキンゼーとLeanInの調査は、女性が男性と同じだけマネジャーから支援を受けられれば、格差は解消されることを示している。
「米国の企業社会が自分たちの味方ではないと感じれば、女性の意欲が低下し始めるのは理にかなっている」と、リポートの共同執筆者であるマッキンゼーのアレクシス・クリフコビッチ上級パートナーは語る。「彼女たちは日々の経験を通して、それを痛感している」。
昇進意欲の格差は、企業内昇進ルートのはしごの最上段と最下段で最も大きい。昇進を望むと答えた割合の男女差は、エントリーレベルで11ポイント、上級管理職では8ポイントだった。
キャリアの出発点にいる女性たちが、職場での不公平を察知するのに時間はかからない。社内では支援者を得にくく、昇進候補に挙げられる機会も、難易度の高い仕事を任される機会も少ない。フレックス勤務は、最も恩恵を受けてきた女性への影響がほとんど考慮されることなく廃止されつつあり、女性たちはその様子を目の当たりにしている。
米企業社会で、より「男性的なエネルギー」や攻撃性を求める声が最近強まっていることも肌で感じ取っている。男女間賃金格差が2年連続で拡大する中、「DEI(多様性・公平性・包括性)は行き過ぎだった」と語る最高経営責任者(CEO)たちの発言も耳にしてきた。
一方、上級管理職の女性たちは、自らの経験を通じて、社内の階段をはい上がることがいかに困難かを深く理解している。女性は昇進の機会を見送られる可能性が高く、先を見据えた時に「これまで以上に険しい道のりと、魅力に乏しいゴール」が見えてしまうと、同リポート共同執筆者でLeanIn共同創業者兼CEOのレイチェル・トーマス氏は指摘する。
失敗織り込む
女性CEOの退任率が男性より高く、しかも後任の多くが男性に置き換わっている現状に女性たちは落胆している。新たに選任される女性取締役の比率が低下しているほか、米カリフォルニア州を拠点とする人工知能(AI)スタートアップの40%超が取締役会に女性を1人も任命していないことにも、彼女たちは気付いている。
さらに、トップに上り詰めた女性が、より厳しい基準で評価されていることも見逃してはいない。女性CEOはアクティビスト(物言う投資家)に狙われやすく、在任期間も男性より短い傾向にある。多くの場合、女性が得られる唯一のCEO職は「成功がほぼ不可能なポスト」であり、最初から失敗が織り込まれているかのようだ。
最近流れたどのニュースも、職場で女性であることの難しさが増しているという感覚を一向に和らげてはいない。11月にゴールドマン・サックス・グループがマネジングディレクターに昇格させた女性の割合は、18年にデービッド・ソロモン氏がCEOに就任して以降で最低だった。
同月に、トランプ米大統領はブルームバーグの女性記者を「ピギー(豚)」と呼び、12月にはCNNのケイトラン・コリンズ氏を「愚かで意地悪」と罵倒した。英紙フィナンシャル・タイムズによれば、トランプ氏が世界経済フォーラム(ダボス会議)への出席に同意したのは、主催者側が女性の活躍推進など「ウォーク(Woke、社会正義に目覚めた)」に関するテーマを前面に出さないと約束した後だったという。
状況は厳しい
性犯罪で起訴され勾留中に死亡した米実業家ジェフリー・エプスタイン元被告と、ハーバード大学元学長で米財務長官も務めたラリー・サマーズ氏との間でやり取りされ、このほど新たに公開されたメールは、一部のエリート層が女性についてどう思っているかを垣間見せるものだった。米紙ニューヨーク・タイムズは、「女性は職場を壊したのか」と問いかける見出しまで掲げた。
状況はとにかく厳しく、追い詰められているように感じる。もっと前向きな解釈を提示できればよいのだが、現実はそう甘くない。女性の地位向上が長く「停滞したジェンダー革命」と呼ばれてきたのには理由がある。そして今、私たちは停滞のただ中にいる。私たちにできるのは、ハードルが高くなっている現実を認めた上で、それでも女性たちが、せめて幾つかの障害だけでも乗り越えられる道を見いだせるよう願うことだ。
(ベス・コウィット氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米企業を担当しています。以前はフォーチュン誌のシニアライター兼エディター。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
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原題:Why the Ambition Gap Is Growing: Beth Kowitt(抜粋)
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