アルジェント・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネージャー、ジェド・エラーブルック氏はその日、ほとんど眠れなかった。

4月2日の夕方、ホワイトハウスのローズガーデンでは、トランプ米大統領が、世界各国へ上乗せする関税率を記した大きなプラカードを掲げていた。ウォール街は、トランプ氏が米国に不利な世界の貿易体制を本気で破壊するつもりだとすぐに理解した。

家族との夕食中、そして夜通し、アジア市場が急落し、世界中で続く大暴落が始まる中、エラーブルック氏は、次に何が起こるかを予測しようとした。

ホワイトハウスで上乗せ関税を発表するトランプ米大統領(4月2日)

翌朝、同氏とチームはオフィスにこもり、保有株への影響を分析した。その日の売り浴びせにより、最大の保有銘柄だったアマゾン・ドット・コムは10%近く急落した。

S&P500種株価指数は弱気相場入りの瀬戸際まで急落した。ただ、市場心理はほぼ同時に反転し、株価はここ数十年で最も速く回復した。その後、S&P500は再び史上最高値を更新した。全体として得られた教訓は、パニックに陥らず、または、下落局面での買いに踏み切れば、利益を得られるということだ。

2025年の相場には、米国経済の曲折と人工知能(AI)ブームの両方が影響した。その多くが、米トランプ政権に起因するものだ。

BCAリサーチの米国株式戦略責任者アイリーン・タンケル氏は、トランプ政権の市場への影響について「変動性は欠陥ではなく特徴だ。今年は機敏で謙虚、新たな情報を積極的に取り入れる姿勢を持つ人が報われた」と述べた。また、「勇気が必要だった」とも振り返った。

重要な市場局面をどう乗り切ったのか、マネーマネジャーやストラテジストが2025年を振り返った。

1月27日:DeepSeek

中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)が1月26日に発表した、強力で低コストとされるAIモデルにより、最近の米国テックブームの基盤を脅かすとの懸念が一気に広がった。ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン氏は、これを「AIのスプートニク・モーメント」と呼んだ。翌27日、米国市場が開くとエヌビディア株は17%急落し、史上最大の時価約6000億ドル(93兆5900億円)が消し飛んだ。半導体株は2020年3月以来の最悪の日となった。

 

CNBCのテレビインタビューに向かう車中でこのニュースを追ったラファー・テングラー・インベストメンツのナンシー・テングラー社長は、「これはチャンスだ」と感じた。

同氏はDeepSeekを懐疑的に見ており、コスト見積もりが過小評価されていると考えたのだ。テレビ出演ではハイテク株に対して強気な姿勢を示し、ラファー・テングラーはエヌビディアやその他のAI関連銘柄を買いあさった。

この判断は正しかった。DeepSeekは米国式AI開発の終わりを告げるものではなく、大手テック企業の技術開発投資の流れを止めることもなかった。テック関連株の多いナスダック100種指数はその後1カ月以内に過去最高値を回復し、2025年中は21%上昇した。エヌビディアの株価は、年初から40%上昇した。

4月2日:「解放の日」

トランプ氏は、ペンギンが生息する南極近くの無人島にまで上乗せ関税を拡大した。

世界市場は2日間で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で経済が停滞し始めた2020年3月以来、最大の急落となった。さらに、中国の報復措置、景気後退懸念の高まり、米国債の下落が連鎖し、数日間にわたるパニック売りが起きた。

ニューヨーク株式市場の情報を映し出すモニター(4月4日)

シュローダー・インベストメント・マネジメントの債券投資家ニール・サザーランド氏らは、影響追跡プロジェクトを開始した。トランプ氏が次々と新たな関税を発動する中、チームは影響を受ける各国の平均関税率を更新しながら、資産価格への影響をモデル化し、不安を抱える顧客に調査結果を伝えた。だが結局、彼らは諦めた。

サザーランド氏は「正直なところ、状況が5分で変わるため、もはや意味をなさなくなった。これは動く標的だと悟らざるを得なかった」と語った。

4月9日:関税一時停止

ウォール街を襲った恐怖は、数日ですぐに高揚感へと変わった。債券市場の売りが金利上昇を招きワシントンで懸念が高まった直後の午後1時18分、トランプ氏は大半の関税の90日間凍結を発表した。S&P500種株価指数は10分足らずで7%急騰し、9.5%の上昇を記録した。これは2008年10月以来の最大の1日上昇幅である。

BCAの株式ストラテジスト、イレーヌ・タンケル氏は「このニュースに対する市場の反応の大きさは歴史的だ。私たちは永遠にこの瞬間を記憶するだろう」と語った。

この日は、その後数ヶ月にわたって繰り返される、「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも尻込みする)」の頭文字を取った「TACOトレード」の始まりとなった。トレーダーらは、トランプ氏の関税脅威は、単なる交渉戦術に過ぎないとの見方に賭け、割り引いて考えるようになり、売り局面は買いの機会となった。

10月10日:仮想通貨の急落

「一体何が起きているんだ?」

暗号資産(仮想通貨)運用会社アーカのジェフ・ドーマン最高投資責任者(CIO)は、仮想通貨市場が急落する中、首をひねった。トランプ氏が中国への100%の追加関税を課すと述べたことを受け、トレーダーらはリスク資産を売り払っていた。一時は12万5000ドルを突破していたビットコインも、レバレッジをかけた取引が解消されるにつれ下落していった。

 

自宅にいたドーマン氏は、すぐにチームとズーム会議を開いた上で、暴落した資産を買い、ショートポジションをカバーする計画を立てた。

同氏は、暗号資産セクターの一部について、強気の姿勢を保っている。それでも、トランプ氏がこの業界を支持したことで市場の大半を席巻した熱狂は、この瞬間で冷めた。

この動きは、2025年に他分野で成果を上げた「値下がり時の買い」戦略にも逆行している。ビットコインは2022年の暴落以来初となる年間下落に向かい、他の人気仮想通貨も過去2カ月で急落した。これにより、ストラテジーやトランプ一族が関わるアメリカン・ビットコインなどの仮想通貨関連株は打撃を受けている。

11月21日:年末に向けた安堵

この頃は、リスク回避の動きが、広範な株式市場も押し下げるかと思われていた。AI関連株の過熱した評価や、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースへの懸念が、S&P500種指数を圧迫していたからだ。

だが、懸念は長続きしなかった。11月21日、労働市場の減速がFRBの金融緩和継続を促すとの見通しが広がり、株価は反発を始めた。実際、12月10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBは緩和を継続した。

トランプ氏による貿易戦争、連邦政府職員の人員削減、議会での対立を受けた過去最長の政府閉鎖にもかかわらず、米国経済は景気後退の懸念を覆し続けている。バブル説が飛び交う中、AIブームも崩壊には至っていない。また、トランプ氏が来年誰を指名するにせよ、パウエルFRB議長の後任は、さらなる利下げを支持する可能性が高いとみられている。

これにより、2026年に向けては、楽観的な見方が広がっている。今年の株価上昇は、弱気の見通しを固持していた人々を痛烈に打ちのめしたものの、ウォール街のストラテジストらは、S&P500が4年連続で上昇すると予想している。もしこの予想通りなら、過去20年近くで最長の連勝記録となる。

フリーダム・キャピタルのチーフマーケットストラテジスト、ジェイ・ウッズ氏は「市場を襲った巨大な波をいくつも乗り越えたことで、全体的に安心のため息が漏れている」と述べた。

原題:Wall Street Traders Look Back on 2025’s Most-Wild Market Swings(抜粋)

--取材協力:Olga Kharif、Ye Xie、Carter Johnson、Alexandra Semenova、Michael MacKenzie、Yvonne Yue Li.

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