(ブルームバーグ):2025年の漢字に選ばれたのは「熊」だった。日本各地にクマが出没し、記録的な人的被害が報じられたことが背景だ。
しかし、もっとふさわしい選択肢があった。それは「高」だ。高市早苗氏が日本初の女性首相として歴史をつくった。それだけではない。
有権者最大の不満である物価高やトランプ米大統領の高関税、日経平均株価は5万円に達し、史上最高値を更新した。
日本銀行が12月に利上げを再開し、政策金利は30年ぶりの高水準になった。高市首相の台湾有事に関する発言に対する中国の反発を受け、日中間の緊張も確実に高まった。
26年を象徴する漢字を今から予想するのは早過ぎる。ただ、筆者が注目しているテーマは次の5つだ。
総選挙のタイミング
高市氏は首相就任以来、核兵器や移民に対する姿勢から、愛用のハンドバッグ、午前3時の側近との打ち合わせに至るまで、あらゆる話題で見出しをさらってきた。米誌フォーブスは世界で3番目に影響力のある女性に選んだ。
26年の課題は、高市氏がその地位をいかに固めるかだ。前首相の石破茂氏には長期政権の可能性はほとんどなかった。高市氏には、高い支持率をてこにして長期的な権力基盤を確保できる30年に一度とも言える好機がある。
そのためには衆議院解散・総選挙が必要になる。世論調査では、多くの有権者がその必要性を感じていないため、リスクは大きい。
大きな争点と、過密な日程の中での適切なタイミングを見極める必要がある。より重要なのは、インフレに苦しむ消費者が家計の改善を実感できるかどうかだ。ガソリン減税は一定の効果を上げているが、「おこめ券」配布といったばらまき策は批判が多い。
国民の信任を得られれば、他党との交渉力は大きく強まり、より野心的な課題に取り組む余地が生まれる。タイミングが全てだ。
サムライアスリート
日本のアスリートは25年、野球で多くの歴史的瞬間を生み出した。米大リーグのナショナルリーグ優勝決定シリーズ第4戦では、大谷翔平選手の投打両面での大活躍が「史上最高」だと評された。
大谷選手のチームメート、山本由伸投手がロサンゼルス・ドジャースをワールドシリーズ制覇に導いた熱いピッチングも記憶に新しい。
両選手は、26年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で「侍ジャパン」の一員として活躍が期待される。
連覇を狙う日本はこの国際大会を非常に重視しており、3年前の米国代表との決勝戦は、史上最も視聴された野球の試合だったとの指摘もある。Netflixは日本国内での独占配信権を確保し、市場シェア拡大を狙っている。
一方、26年夏に国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ(W杯)が米国とカナダ、メキシコの3カ国にまたがり開催されるが、「サムライブルー」と呼ばれる日本代表の前評判はそれほど高くない。
日本は最初に出場を決め、最近はブラジルから歴史的な初勝利を挙げた。前回のW杯ではスペインとドイツという強豪を撃破した。今回こそ決勝トーナメントを勝ち進み、少なくともベスト8になることが期待されるだろう。
マーケット
日本の金融市場は今、興味深い局面にある。円相場はファンダメンタルズから完全に乖離(かいり)し、利上げが円高を招くという見方は否定された。国債利回りは、ようやく「正常」と呼べる水準に上昇した。
日本が債務危機の瀬戸際にあるというネット上の声は無視してよい。そうした予測は、過去30年間そうであったように、26年も外れるだろう。ただし、金利のある世界では変化が起きる。
住宅ローン金利は国際的には低水準でも、家計への圧迫は強まる。高市氏が未成年向けの非課税貯蓄口座を計画する中で、投資によるインフレ克服という考え方が広まるかもしれない。価格を転嫁できない企業は淘汰(とうた)される。
日銀の対応にもかかわらず円安が続き、為替介入も短期的な効果にとどまる公算が大きいが、高市氏は流れを反転させる新たなストーリーを描けるのか。それとも、そもそも円高を望んでいないのか。
マリオとちいかわ
25年は日本のソフトパワーにとって画期的な年になった。アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来(あかざさいらい)」が世界の興行収入トップ10に入り、マーベルやスーパーマンの映画を上回った。
投資家もこれに注目し、成長するコンテンツ産業への関心を強めている。鬼滅の刃の次回作は公開時期が決まっていないが、新たなソフトパワーのヒットは何になるのか。
26年はマリオが王座を取り戻す時だ。任天堂の「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」は4月に公開され、23年の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が記録した興行収入13億6000万ドル(約2100億円)の再現を狙う。
さらに、家庭用ゲーム機「スイッチ2」の販売を一段と後押しする効果も期待されている。
25年のキャラクターは中国発の「ラブブ」と言えそうだが、今は「ちいかわ」から目が離せない。イラストレーターのナガノ氏が生み出したこのキャラクターは日本国内で社会現象となっており、26年夏には映画公開を控える。
ちいかわは、海外でも人気を博すのだろうか。その前に、実写邦画作品として歴代最高の興収を記録した「国宝」が、歌舞伎というテーマでアカデミー賞を獲得できるかにも注目したい。
丙午
26年は午(うま)年だ。しかも、丙午(ひのえうま)だ。前回の丙午は1966年。丙午生まれの女性は気性が激しく、夫の寿命を縮めるという迷信が信じられ、出生率が目に見えて落ち込んだ。
言うまでもなく、その後、日本社会は大きく変わり、出生率に大きな影響が出るとは見込まれていない。それでも丙午は、少子化の最前線に立つ日本にとって、時宜を得た警鐘であることに変わりはない。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Takaichi, Mario and the Year of the Fire Horse: Gearoid Reidy(抜粋)
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