インフレリスク・財政事情・市場動向を踏まえた慎重な政策運営

会合後に公表した声明文では、足元の経済状況について「バランスの取れた成長軌道からの上振れ度合いは後退している」としつつ「全体的に緩やかな拡大が続いているが、分野ごとの動きにバラつきがある」としたうえで、「内需は家計消費の拡大や財政支出に支えられている」とした。

一方、インフレ動向について「足元で伸びは鈍化しているものの、ここ数ヶ月は物価変動の大きいガソリンや生鮮食料品で物価上昇の動きが強まり、インフレ期待はやや上昇している」としつつ、先行きのインフレ見通しについて「2026年のインフレ率は+4~5%への低下が見込まれ、2027年以降も目標への収束が進む」との見方を示している。

そして、政策運営について「インフレを目標に抑制させるべく、必要な限り引き締め姿勢を続ける」、「長期にわたって引き締め姿勢が続く」としつつ、その決定に当たっては「インフレ鈍化の持続可能性やインフレ期待の動向に応じて行われる」としている。

ただし、インフレを巡って「上振れリスクが下振れリスクより依然優勢」としたうえで、「VAT(付加価値税)や管理価格引き上げの影響、対外収支の悪化、ルーブル相場の動向に加え、地政学リスクも不確実性になる」としつつ、「中期的には財政政策の動向にも留意する必要がある」との認識を示すなど、戦争長期化による財政運営にも留意する考えを示した。

会合後に記者会見に臨んだ中銀のナビウリナ総裁は、今回の決定を巡って「50bpか100bpの利下げ、ないし据え置きを検討した」としたことを明かしている。

その上で、物価上振れ懸念を巡って「来年の一時的な要因によるインフレへの影響は想定以上に大きくなる可能性がある」とし、「インフレ促進リスクを理由に利下げの一時停止が必要となる可能性がある」との考えを示している。

その一方、景気動向について「2026年初旬には過熱感が一服すると見込まれる」としつつ、「輸出価格は想定を下回っている」との認識を示すなど、景気の下振れ懸念を強く意識している様子がうかがえる。

そして、先行きの政策運営について「物価安定が最優先事項」との考えをあらためて示している。

なお、プーチン氏は記者会見において、物価指標が実態と乖離しており、多くの国民が信用していない旨を問われた際「物価指標は平均値を示しているため、一部の食料品価格が上振れする動きが過度に意識されている」との見方を示した。

そのうえで、「VATの引き上げは財政均衡を目指すために実施するもの」との考えを示すなど、国民に理解を求める姿勢をみせている。来月からのVAT引き上げは、このところの財政運営が厳しさを増していることが影響している。

ロシアでは、ウクライナによる石油精製施設への攻撃による供給懸念を理由に石油製品の供給が滞るなかで輸出を停止させざるを得ない展開に直面している。

さらに、戦争長期化による軍事費増大が歳出の膨張を招く一方、石油製品の輸出停止に加え、国際原油価格の低迷も重なり、関連収入が下振れして財政状況の悪化に歯止めが掛からない状況が続いている。

こうしたなか、ロシア政府の要望に沿う形で、石油輸出国の枠組みであるOPECプラスを通じて来年1~3月の増産停止で合意したものの、その後も原油価格は低迷が続いて財政均衡水準(ウラル原油で1バレル=56ドル(当初は69.7ドル))を大きく下回っている。

こうした事情もVAT引き上げを後押しする一方、短期的に物価を押し上げることは避けられず、中銀が慎重姿勢を維持する一因になっていると考えられる。

金融市場においては、ウクライナ戦争の終結に向けてトランプ米大統領が介入の動きを積極化させていることも追い風に、早期に終結に向かうとの期待を反映して通貨ルーブル相場は底堅い動きをみせてきた。

しかし、足元においてはそうした見方がやや後退し、ルーブル相場は頭打ちとなっている。

中銀が今回会合における利下げ幅を10月の前回会合と同じ50bpに留めた背景として、先行きの物価上昇の要因のひとつにルーブル相場を挙げるなど、ルーブル相場が調整に転じることを警戒している可能性がある。

よって、中銀にとっては物価動向や景気動向のみならず、原油価格やルーブル相場の動向といった様々な要因を睨みつつ、政策判断を下す難しい局面が続くと予想される。

※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹