(ブルームバーグ):今年のゲーム業界で寵児(ちょうじ)となっているのは「JRPG」、つまり、ジャパニーズロールプレーイングゲーム(RPG)というジャンルのタイトルだ。ただし、問題がある。それは日本の作品ではない。
「クレールオブスキュール:エクスペディション33」は、フランスの小規模スタジオ、サンドフォール・インタラクティブがわずか1000万ドル(約15億7000万円)の低予算で開発した。
ロサンゼルスで最近開かれた「ゲームアワード2025」で、業界におけるアカデミー賞作品賞に相当する賞を獲得した同作のディレクター、ギヨーム・ブロッシュ氏は、自身がゲーム開発者になるきっかけを与えた人物として、スクウェア・エニックス・ホールディングスが開発・販売している「ファイナルファンタジー(FF)」の生みの親である坂口博信氏の名を挙げた。
弟子が師を超えたのかもしれない。スクウェアのチームは今、苦しんでいる。クレールオブスキュールはわずか数カ月で23年に発売された「FF16」より多く売れた。
スクウェアでは人員削減やプロジェクト中止が相次ぎ、11月には年間純利益予想をほぼ半分に引き下げた。この苦境はアクティビスト(物言う株主)である3Dインベストメント・パートナーズの目にも留まった。同社は持ち株比率を15%超まで積み上げ、今ではスクウェア2位の株主となっている。
3Dは9月に経営陣へ提出し、最近公表された約100ページの文書で、スクウェア経営陣が「増収と収益性の双方で顕著な停滞」を放置していると非難し、さらに「このままでいいのか?スクエニさん!」「あの熱狂を。もういちど。」と挑発した。
最近の日本で、機会主義的なアクティビストの活動に対して私は懐疑的だ。短期的な株価つり上げを狙う動きが目立ち、長期的に悪影響を及ぼすケースも出ている。
スクウェアの株価が数カ月前に上場来高値を付けていたことを踏まえると、若干の違和感もある。
それでも3Dは正しいのかもしれない。スクウェアは新型コロナ禍以後のゲーム需要拡大の恩恵に乗り遅れた数少ない企業の1つで、株価上昇は国内のライバル企業に後れを取っている。
クレールオブスキュールのような作品がJRPGを生み出したスクウェアのタイトルを上回る人気を得た理由は、同社経営陣の関心が的外れな方向に向いてきたためだという見方が、ゲーマーの間では広がっている。それは、3Dが着目した点でもある。
巻き返せるか
スクウェア幹部らはここ数年、ブロックチェーンゲームや非代替性トークン(NFT)、メタバースといった流行性の高い概念を支持する発言で話題を集めてきた。利益を追い求める投資家には聞こえが良くても、魅力的なゲームにはつながらないアイデアだ。
現在の経営陣もその流れを引き継いでいる。中期経営計画の最新アップデートでは、27年末までに品質保証(QA)テストの70%を自動化するという構想を強調した。
バグや欠陥を取り除く作業が開発で最も単調な工程の1つであることを踏まえると理にかなった内容だが、プレゼンテーションの冒頭に掲げられていたことで、経営陣が肝心のゲームそのものへの注力を欠いているのではないかとの懸念が強まっている。
加えて、桐生隆司社長が業界出身ではなく広告大手の電通グループでキャリアを積んできたことも、スクウェアが重要なポイントを見失っていると考える向きには不安材料となっている。言い換えれば、クレールオブスキュールのクリエーターからNFTや人工知能(AI)の話題が聞こえてくることはない。
看板タイトルの販売不振に加え、スクウェア経営陣は高コストの新作失敗作も抱えてきた。中途半端に終わった「アベンジャーズ」や、脚本が痛々しいと酷評されたアクションRPG「フォースポークン」などだ。
さらに、一度も発売に至らず開発段階で終わったタイトルも多く、スクウェアが他社に比べて未発売タイトルの減損に大きな費用を投じている点を3Dは指摘している。
ロサンゼルスのゲームアワードでのもう一つの出来事は、スクウェアがどこでつまずいたのかを象徴している。
米アマゾン・ドット・コムはこのイベントで「トゥームレイダー」の最新作を発表した。同時にトゥームレイダーを基にした新しいテレビシリーズで稼ごうと狙っている。
スクウェアは09年にトゥームレイダーの権利を取得したが、3年前に「ヒットマン」や「デウスエクス」といった他のゲームフランチャイズと共に、まるで投げ売りのような価格で売却していた。ちょうどゲーム関連の知的財産(IP)市場が活況を見せ始めていた時期だった。
任天堂やソニーグループは今、ゲームフランチャイズを映画やテレビ向けに展開することで収益化に成功している。スクウェアがこの潮流に乗り遅れているのは、なんとも皮肉だ。同社は1990年代後半から2000年代前半にかけ、こうした戦略を最初に明確に打ち出した企業の1社だったからだ。
使いこなせない資産を手放したことで身軽になった面もあるのかもしれないが、スクウェアが現在抱えるタイトル群はRPGに大きく偏っており、新興勢力が牙をむく中で脆弱(ぜいじゃく)さを露呈している。
経営陣は投資家に対し、同社は今「さらなる成長に向けた再起動の3年間」にあるとし、その完了後には軌道に戻ると説明している。3Dは控えめに言っても、そうした主張に対して懐疑的だ。
クレールオブスキュールはJRPGに魔法がまだ宿っていることを世界に示した。スクウェアにとっての問いは、その魔法を再び呼び起こせるかどうかだ。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Legendary Gamemaker Seems Stuck in Final Fantasy: Gearoid Reidy(抜粋)
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