大掃除で捨てられる10兆円の価値
今回の調査では、年末の大掃除で「捨てる予定」の不要品についても調査しました。その結果、日本全国で推計約10兆円、国民一人あたり平均約8.9万円相当のモノが、捨てられる可能性があることがわかりました。
年末の大掃除は、一年間の区切りとして、家の中を整理する良い機会です。
しかし、「もう使わないから」「場所を取るから」という理由で、価値のあるモノを安易に捨ててしまうのは、もったいないことかもしれません。
ゴミ袋に入れる前に、「このモノには、まだ価値があるのではないか」と一度立ち止まってみることが大切です。
近年、フリマアプリなどのサービスが普及したことで、家庭内の不要品の価値を簡単に確認できるようになりました。
かつては、リサイクルショップに持ち込むか、知人に譲るか、捨てるかという限られた選択肢しかありませんでしたが、今では自分で価格を設定し、全国の誰かに届けることができます。
こうした仕組みは、モノの価値を「見える化」し、適切に次の持ち主へとつなぐ役割を果たしています。
モノを次の必要な人につなぐことは、二つの意味で価値があります。
一つは、家計にとってのプラスです。8.9万円という金額は、ちょっとした家族旅行や、子どもの習い事の費用、あるいは老後のための貯蓄に充てることができる額です。
もう一つは、環境面での貢献です。まだ使えるモノを捨てずに循環させることは、資源の有効活用であり、廃棄物の削減にもつながります。一人ひとりの小さな行動が、持続可能な社会の実現に寄与するのです。
「今後使わなくなるモノ」27万円という潜在資産
今回の調査では、もう一つ興味深い視点を加えました。「現在は使っているけれど、今後5年以内に使わなくなると思うモノ」の価値です。
その結果、国民一人あたり平均約27万円相当のモノが、将来的に不要になる可能性があることがわかりました。
カテゴリー別に見ると、「ファッション用品」が最も多く約10万円、次いで「ホビー・レジャー」が約7万円、「家具・家電・小物」が約6万円となっています。
これらは、いま現在は日常的に使っているものの、ライフステージの変化や趣味の変化によって、近い将来には不要になるモノです。
例えば、子どもの成長に伴って使わなくなる育児用品や子ども服、転職や働き方の変化で必要なくなる通勤用のスーツやバッグ、趣味の変化で手放すことになるスポーツ用品や楽器。こうしたモノは、今は「必要なモノ」として認識されていますが、数年後には「かくれ資産」の一部になる可能性があります。
この「今後使わなくなるモノ」を「潜在的な資産」として認識することは、家計管理の新しい視点と言えます。
モノを購入する際に、「いつまで使うか」「使わなくなったときにどうするか」まで考えることで、より計画的な家計運営が可能になります。
また、将来的に手放すことを前提に、状態良く使い、価値を保つ意識も生まれるでしょう。購入時から「このモノは、いずれ誰かに譲るかもしれない」と考えることは、モノとの新しい付き合い方を示唆しています。
モノの資産運用という新しい視点
私たちは、金融資産については「運用」という言葉をごく自然に使います。預金、株式、投資信託など、お金をどう配分し、どう増やしていくかを考えます。
同じように、モノについても「運用」という発想を持つことができるのではないでしょうか。
モノの資産運用とは、家庭内のモノを定期的に見直し、使っているモノと使っていないモノを仕分け、不要になったモノを適切に次の人へとつなぐことです。
金融資産のポートフォリオを定期的に見直すように、家庭内のモノも棚卸しをする。そして、価値があるうちに、必要としている人の手に渡す。これは、単なる片付けや整理整頓ではなく、「暮らしの資産運用」と呼べる行動です。
近年、商品やサービスの多様化が進み、家庭にあるモノの種類も増えています。家電製品は高機能化し、趣味の道具は専門化し、子ども向けの用品も細分化しています。
モノが多様化する一方で、その価値が従来の販売・譲渡ルートでは埋もれてしまうケースも少なくありません。だからこそ、多様なモノの価値を「見える化」し、適切に循環させる仕組みが、これからの社会には欠かせません。
モノを循環させることは、所有から利用へという価値観の転換でもあります。「持つ」ことよりも、「必要なときに使える」ことを重視する。そして、不要になったら、次に必要とする人につなぐ。
こうした循環の輪が広がることで、一人ひとりの家計にゆとりが生まれるだけでなく、社会全体として資源が有効に活用され、廃棄物も減少します。個人の利益と社会的な価値が同時に実現されるのです。
大掃除から始まる「暮らしの資産」の見直し
年末の大掃除は、まさにこうした「暮らしの資産」を見つめ直す絶好の機会です。普段は意識しないモノの価値も、整理や片づけを通じて、あらためて気づくことがあるでしょう。
クローゼットの奥にしまい込んだ服、本棚に並んだ読み終えた本、子どもが使わなくなったおもちゃ。それぞれに、かつては必要で、大切だった時期があります。そして、それらは今、別の誰かにとって価値あるモノになるかもしれません。
調査で明らかになった91兆円という「かくれ資産」、大掃除で捨てられそうな10兆円、そして今後使わなくなる27万円という潜在資産。これらの数字は、私たちの暮らしの中に、想像以上の価値が眠っていることを教えてくれます。
金融資産と同じように、モノも上手に「運用」すること。それは、家計のゆとりを生み出すだけでなく、モノが循環する持続可能な社会の実現にもつながります。
私たち一人ひとりの意識と行動の変化が、より豊かでサステナブルな暮らしを形づくっていくはずです。
この年末、大掃除の手を少し止めて、家の中にある「かくれ資産」に目を向けてみてはいかがでしょうか。そこから、新しい家計管理、そして新しい暮らし方が始まるかもしれません。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子
※なお、記事内の「図表」と「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。
