米ヘッジファンド運営会社ポイント72アセット・マネジメントの看板トレーダーの1人が独立して自身のヘッジファンドを立ち上げることになり、退社するトレーダーに同社が提供するものとしては過去最大規模の初期出資を行うことにした。

ブルームバーグが確認した内部資料によると、ベテランのポートフォリオマネジャーであるアレックス・シルバースタイン氏は、ヘルスケア分野のトレーディングチームと運用資金を分離し、シレニア・キャピタル・マネジメントを設立する。事情に詳しい関係者によれば、ポイント72はシレニアの立ち上げ時点で最大の顧客となり、数億ドルを投資する見通しだ。

レバレッジを考慮すれば、実際の資金力は数十億ドル規模に達する可能性がある。この投資額は、ゲイブ・プロトキン氏が2015年にメルビン・キャピタル・マネジメントを立ち上げた際に、資産家のスティーブ・コーエン氏から拠出された2億ドル(現行レートで約315億円)を上回る。

ポイント72創業者のコーエン氏はメモで、「われわれはアレックスと提携し、シレニアを立ち上げる。彼のチーム、運用プロセス、投下資本は中断されることなく継続する」とコメントした。

10人規模のトレーディングポッド(ユニット)を率いるシルバースタイン氏は、約13年間在籍した運用資産415億ドルのポイント72で最も成功し、在任期間の長いポートフォリオマネジャーの1人だ。コネティカット州スタンフォードに拠点を置くポイント72の担当者はコメントを控えた。

ポイント72が退社するトレーダーを支援する例はごくわずかだ。プロトキン氏への出資は後に10億ドル超に拡大したほか、コーエン氏の会社は小田智文氏のブルー・スウェル・アセット・マネジメントや、ヘルスケア分野のポートフォリオマネジャーであるライアン・ワイルダー氏の銘柄選択型ファンド、ベスタル・ポイント・キャピタルに投資している。

ただ、人材獲得競争が激化する状況にあって、ポイント72は優秀なトレーダーへのアクセスを失うよりも、独立を目指す一部のポートフォリオマネジャーを支援するアイデアに一段と前向きになっている。

最近では、社内で独自ファンドを立ち上げることさえ認めた。昨年には、エリック・サンチェス氏が、同社の旗艦ファンドとは別枠でファンドを始めた初のポートフォリオマネジャーとなった。ポイント72の人工知能(AI)に特化した株式ファンド、チュリオン(Turion)は現在、運用資産30億ドルに成長している。

「人々が懸命に働き、パフォーマンスを生み出す強固で再現性のあるプロセスを確立した場合、社内であれ、今回のようにわれわれが誇りを持って支援する新たな挑戦であれ、その成長を後押しする」とコーエン氏は指摘した。

この大型出資はシルバースタイン氏にとっても追い風だ。ヘッジファンドに投資する年金基金、大学基金の資金余力やリスク許容度が低減し、厳しい資金調達環境の中でアンカー投資家なしでヘッジファンドを立ち上げるのは特に難しい。

一方で、マルチ戦略ファンドは、膨らむ運用資産を活用する手段として、外部マネジャーに多額の資金を振り向ける動きを強めている。こうした資金は、新興マネジャーがヘッジファンドを立ち上げる際の最も一般的な手段の一つになっている。

この分野で群を抜いて積極的なのがミレニアム・マネジメントだ。ミレニアムは運用資産が過去最高の840億ドルに達し、近年は数多くのスタートアップファンドに投資している。

原題:Point72 Makes Largest-Ever Bet on Its Star Trader’s Launch(抜粋)

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