年の瀬が迫る中、日本企業が関わるM&A(企業の合併・買収)は総額3500億ドル(約55兆2000億円)に迫り、過去最高を更新した。来年はさらなる活況が見込まれる。

株主還元の改善を狙ったコーポレートガバナンス(企業統治)改革が、日本市場を活発なディール拠点へと変貌させている。時折大型案件が出るだけの「動きの鈍い市場」というかつての評価は、急速に過去のものとなりつつある。

ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのアジア投資銀行部門トップ、クリストファー・ラスコウスキー氏は「日本のディールメーキングは極めて多忙だ。日本の担当者と協議する時間はかつてないほど増えている」と述べる。

現在の日本企業は、複合企業(コングロマリット)が非中核資産を売却する一方、プライベートエクイティー(PE、未公開株)企業は豊富な手元資金の投下先を求めており、ディールの土壌は肥沃(ひよく)だ。

アクティビスト(物言う株主)の存在感も増している。米ヘッジファンド運営会社、エリオット・インベストメント・マネジメントはトヨタ自動車グループによる豊田自動織機の買収提案引き上げを目指しているという。

 

ドイツ銀行のアジア太平洋地域(APAC)の投資銀行統括部責任者、マヨーラン・エラリンガム氏は「日本は長らく見られなかったM&Aの潮流にある」と指摘する。

19日には、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、約3962億インドルピー(約6823億円)を投じてインド2位のノンバンクであるシュリラム・ファイナンスの株式2割を取得すると発表した。

大型案件の増加に伴う手数料収入の拡大を見込み、シティグループやゴールドマン・サックス・グループ、ジェフリーズなどは日本での体制拡充を急いでいる。

今年は富士ソフトを巡る米投資会社KKRと米ベインキャピタルとの争奪戦や、米投資会社カーライル・グループによる医療器具メーカーのホギメディカル買収などが注目を集めた。

JPモルガン・チェースでAPACのM&Aを統括するロヒト・チャタジー氏は「日本では今後、非公開化に関する取引がさらに増えるとみられる」と指摘。対象として「親会社にとって中核と位置づけられる上場子会社や、バリュエーションが本来の価値を十分に反映していない独立系企業」が想定されるという。

今年の大型ディールの一つがNTTによる上場子会社NTTデータグループの完全子会社化で、総額は約2兆3700億円だった。このほか、日本製鉄は米鉄鋼大手USスチールの買収手続きを完了させた。

一方で課題も残る。香港を拠点とする米法律事務所シンプソン・サッチャー・アンド・バートレットのパートナーで、アジア共同代表も務めるイアン・ホー氏は「日本では、深いビジネス関係と現地の人材が鍵を握る。関心や機会は確かに存在するものの、新規参入者が大きな成果を上げるには時間を要する場合もある」とみている。

今年の象徴的な事例の一つが、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスに対する買収提案の撤回だ。クシュタールは、建設的な協議にセブンが応じなかったことが理由だと主張する一方、セブンはクシュタールが協議を一方的に終了したとしている。

総じて2025年は日本関連ディールが飛躍した年となった。数十億ドル規模の案件としては、ソフトバンクグループによる65億ドルでの米半導体設計会社アンペア・コンピューティング買収や、住友商事によるシステム開発会社SCSKの8820億円での完全子会社化などがあった。

案件組成の新たな潮流として、MUFGによるシュリラムへの出資に象徴される日印間の「ディール回廊」の形成が鮮明となっている。みずほフィナンシャルグループ(FG)もインドの投資銀行アベンダス・キャピタルを買収すると発表している。

2026年に向けたM&A案件の積み上がりも続いている。事情に詳しい関係者によると、主要株主との対立で経営が混乱している化学メーカーの太陽ホールディングス(HD)の買収に向け、KKRが最有力候補に浮上しているという。

原題:Record $350 Billion Deals Boom Fuels Upbeat M&A Outlook in Japan(抜粋)

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