日本銀行が19日まで開いた金融政策決定会合で、政策金利を0.5%から0.75%に引き上げることを決めた。利上げの決定は1月以来、約1年ぶりだ。

0.75%は実に約30年ぶりの高水準。その間、日本の社会・経済環境は大きく変化した。金利上昇は家計にプラスとマイナスの両面がある。私たちの懐事情にはどのような影響が及ぶのだろうか。

1.5万円のプラス

みずほリサーチ&テクノロジーズの服部直樹チーフ日本経済エコノミストは、家計を日本全体で合計した場合、プラスの影響が大きいと試算している。

利上げにより、銀行は預金金利を引き上げる。普通預金や定期預金に付与される利子額が上がることで、年間で計1兆円のプラス効果があるとした。特に定期預金の増加が大きいという。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行は19日午後、普通預金金利を来年2月2日以降、0.2%から0.3%に引き上げると発表した。三菱UFJ銀と三井住友銀は約33年ぶりの高水準となる。同時に変動型住宅ローン金利の基準となる短期プライムレートは同1.875%から2.125%にそれぞれ引き上げる。

国債利子収入が増える一方、借金の利払いも増える。服部氏は、住宅ローンの利払い費負担増は同0.5兆円のマイナスになると試算した。

これらを合わせると、家計全体への影響は同0.8兆円のプラスとなった。1世帯当たりに換算すると1.5万円のプラスになる。

世代間格差

ただ、世代ごとにみると明暗が分かれてくる。

世帯主の年齢が50代以上ではプラスになる一方、40代までの世帯はマイナスとなった。高齢世帯は住宅ローンなどの借金返済が進んでおり、金利上昇の恩恵を受けやすい。

若い世帯は住宅ローンなどの残債が多く残っているだけでなく、貯金もまだ少ないため、負担が大きくのしかかる構図だ。

例えば、70歳以上の世帯は1世帯当たり年4.1万円のプラスになる。対照的に、30代の世帯は年2.7万円のマイナスになる。

5年ルール

さらに、負債を保有する世帯に限定して試算し直すと、よりマイナス幅が膨らむ実態が浮かび上がった。

29歳以下では年5万円のマイナス、30代で年4.5万円のマイナス、40代で年2.8万円のマイナスだった。最近は多くの人が住宅ローンを変動金利型で借り入れているため、利上げによる負担増が目立つ。

変動金利型の住宅ローンの多くは、元利返済額の見直しを5年ごとに行う「5年ルール」と呼ばれる仕組みが適用されている。この仕組みがあれば、金利が上昇しても月の返済額が直ちに跳ね上がることはない。

目指せ給料アップ

Photographer: Bloomberg

これらの試算はあくまで、利上げ影響のみに焦点を当てたものだ。広く社会を見渡せば、家計にプラスとなるチャンスも多い。物価高のマイナスもあるものの、「若いからお先真っ暗」と悲観するのは早計だ。

1つが給料だ。日銀は金利引き上げの政策判断において賃上げ動向を重視している。連合が集計した2025年春季労使交渉(春闘)の結果では、賃上げ率の平均は5.25%と34年ぶりの高水準となった。また、近年は初任給も大幅に上がっており、若年世代には追い風要因だ。

働き方を巡る社会環境も、この30年で大きく変化した。例えば、1つの会社で長く勤めるという価値観はもはや過去のものとなり、日本でも転職しやすい環境が広まった。

新たな知識や技術を身に付ける「リスキリング」も政府が後押ししている。服部氏は転職やリスキリングを選択肢に入れながら「若い世代がいかに労働所得を増やすかが大切だ」と指摘した。

投資も選択肢に

物価高に負けない資産を作るため、「貯蓄から投資へ」の流れに乗ることも重要だ。日銀が17日に発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産残高のうち、現金・預金(1122兆円)が占める比率は49.1%と18年ぶりに50%を割り込んだ。一方、株式と投資信託を中心に金融資産の残高が増えた。

インフレ時代に入った今の日本では、現金をそのまま保有していると価値が目減りしていく。日本政府も資産運用の活性化を制度の面から後押ししている。税制面のメリットが大きい少額投資非課税制度(新NISA)などを活用するのも手だ。

家計の現金が株などに回れば、企業に多くのお金が行き渡り、結果、経済全体の底上げにもつながる可能性がある。高齢世帯も、投資や資産運用は「若い人がやること」と距離を置かず向き合うことが重要だ。

日銀総裁はどう見ているか

日銀の植田和男総裁は19日、決定会合後に行った記者会見で、家計などの影響について、長期や超長期金利が上昇していることから、期間の長い借り入れには一定の影響が出る可能性があるとの認識を示した。たとえば、長期間、固定金利型で借りている住宅ローンなどだ。

ただ、植田氏は「企業収益が好調であるとか、賃金が伸びているとか、そういう事との相対で判断すべきだと思う」と指摘した。住宅ローンの金利が多少上がっても、ほかの部分でプラス要因があるとの認識を示した形だ。

金利環境が転換期を迎えている今こそ、一人ひとりがリスクに向き合いながらも環境変化を味方につけ、家計の未来を切り開く力が問われている。

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