(ブルームバーグ):これまで男性社員が中心だった海外駐在に派遣される女性が少しずつ増えている。海外で働く機会も多い大手商社5社に聞き取りを実施し合算したところ、2025年4月時点の女性駐在員の比率は約9%と、15年の4%に比べて増えた。会社側も、結婚や出産などと両立できるよう後押しする。
伊藤忠商事の濱本智子氏は入社4年目・27歳の時に、中国・深圳で2年間の駐在を経験した。入社1年目から駐在に行きたいと希望しており、「結婚を目前にして駐在になったらどうしようと思っていたので、早く行けて良かった」と話す。

同社は女性の駐在員が増えていることを受け、駐在員とその配偶者向けに卵子凍結や海外での不妊治療の費用補助を24年度から始めた。「ライフイベントの不安から駐在を踏みとどまる人の背中を後押しできる制度」だと、現在は人事・総務部に所属する濱本氏は説明する。
総合職に占める女性の割合が増えれば、女性駐在員比率も比例して伸びる部分もある。ただ女性の赴任に男性配偶者が同行する事例が少なかった日本では、既婚女性の場合に駐在をためらうケースもあり、企業側のサポートが重要となる。
海外駐在は、キャリア形成の機会の一つとして重要な要素だ。駐在などで米国ベイエリアに滞在する女性のコミュニティーJWIBAの共同創設者で、慶応義塾大学准教授の芦澤美智子氏は、日本企業にとってグローバル化が急務になる中で、「海外駐在の経験なしではトップマネジメントを含め上に上がりづらくなっている」と指摘。女性の海外駐在の機会を増やすことは、意思決定層に女性を増やすことに寄与すると話す。
商社大手5社の女性駐在員比率は1割弱まで向上しているものの、伸びしろはありそうだ。24年時点の新卒採用に占める女性の割合は30-43%まで増えた。一方、管理職比率は9-12%にとどまる。

一方、現地で安心して職務に当たれるよう、丸紅では10月、初めて女性向けの海外危機管理研修を行った。イスラム圏に赴任する際に宗教面で気を付けるべきポイントや、刃物で襲われた時の対応方法、ストーカー対策などを紹介したという。
男性にも適用
企業によっても異なるが、一般的に一通り仕事を覚えてから海外に派遣するケースが多い。入社当時に希望があっても、結婚や子育て期間に差し掛かり尻込みするのは、男性も同じだ。性別に関係なく、制度を利用する動きも広がっている。
住友商事では、配偶者が日本に残り子どものみが同行する場合、ベビーシッター代や保育料、子育てを手伝う家族を呼び寄せる費用を補助する。当初は女性活躍の文脈で導入したが、15年以降は女性が18人、男性も11人が利用しているという。
三菱商事も、性別にかかわらずライフイベントとの両立と多様なキャリア形成を支援する取り組みとして、子どものみを帯同する海外駐在者には、付き添い者の渡航費をはじめ、ベビーシッターなどの費用を補助する。三井物産も同様の費用補助制度を用意する。
ただ、日本全体で見ると課題も多い。人材関連企業のJACリクルートメントが23年に実施した女性海外駐在員に関する調査によると、日系海外子会社221社のうち女性駐在員が1人以上いる会社は19%にとどまった。
調査をまとめた小林美紗氏は、日本企業全体を見渡すと、依然として「男性が行くという前提で作られた駐在制度の見直し」が必要だと強調。男性社員が休職して、配偶者の駐在に同行することを意識した制度がない企業が多いと指摘する。
JWIBAが米国ベイエリアに駐在する女性を対象に実施した調査では、駐在員本人の現地での結婚や出産の可能性を考慮した制度を望む声が上がった。芦澤氏によると、赴任中に妊娠すると帰任になるケースが多いという。
駐在と結婚・妊娠などのライフイベントを両立できるような支援や理解が不足していることが、女性が海外駐在に踏み出す際の足かせになっており、見直しが必要と指摘する。
伊藤忠人事・総務部の能登隆太氏は、共働き世帯が増加する中、配偶者が仕事を中断するリスクから、駐在を迷うケースは多いと話す。「1社では解決できない」と強調。日本企業全体として「より柔軟な働き方の実現を目指していかなければならない」と話す。
(JACの小林氏の名前の漢字を訂正します)
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