トランプ米大統領は中間選挙が実施される2026年を迎えるにあたり、人工知能(AI)推進にあらゆる手段を講じる構えだ。だが、米有権者の間ではAIに対する疑念の声が高まっている。

第2次トランプ政権が始まった2025年はまさにAIの1年だった。AIが米国の成長を牽引しているとエコノミストは指摘。ホワイトハウス関係者は中国との覇権争いに勝つにはAIが不可欠だと主張する。株式市場ではAI関連銘柄が高騰し、バブルの懸念が浮上した。ハイテク関係者の間では、AIが将来どこまで進化するかについて議論が続く。

トランプ氏も自ら、AIブームの旗振り役となっている。2期目の就任早々に各界の有力実業家と並んで大型AIインフラプロジェクト「スターゲート」を発表。11日には州が独自のAI規制を設けることを制限する大統領令に署名し、業界にとって新たな追い風となった。

AIブームの陰で、有権者の声はこれまで十分に届いていなかった。だが、先月行われた州・地方選では、AIへの反発の兆しが浮上。この先、生活費や雇用見通しへの懸念が一段と強まれば、中間選挙を控え、トランプ政権にとっては逆風となる恐れがある。

Photographer: Aaron Schwartz/Sipa/Bloomberg

地方レベルでは、AI進展の基盤となるデータセンターの建設拡大に多くの有権者が反対している。巨大な電力需要が電気代上昇につながっていると考えられているためだ。こうしたアフォーダビリティー(暮らし向き)の問題は政治的な争点となっており、バージニア州とニュージャージー州の知事選などで民主党が大勝する要因となった。

加えて、雇用リスクもある。データセンターは建設段階では多くの雇用を生むものの、いったん稼働すれば雇用はそれほど多くない。さらに、そこで育つ技術が結果的に雇用を奪うのではないかとの懸念も広がっている。

もっとも、AIが米経済の将来にとって重要でないというわけではない。だが、現時点では政治的な最優先課題として有権者に訴えにくいテーマだ。ホワイトハウスはすでに、トランプ氏の経済政策が有効だと有権者に実感してもらうことに苦戦しており、なおさら難しいだろう。

 

過去の自由貿易を巡る論争と重なる面もある。エコノミストや経営者、投資家はいずれも自由貿易の長期的な利点を予測したが、数百万人の米有権者は自分たちが不利な立場に置かれたと受け止め、その不満がトランプ氏を大統領の座につかせる原動力となった。

ポピュリスト的なMAGA運動の考案者の一人であるスティーブ・バノン氏はここにきて、経済的・政治的、さらには宗教的な理由を挙げてAIを抑制すべきだとの主張を展開。事実上、AIに「宣戦布告」した。

バノン氏は11月、自身のポッドキャスト番組でAIの危険性をテーマに取り上げ、「彼らはあらゆる方面からあなたに迫っている。ロボットを手に入れるまであなたの生産性を求め、手に入れたらあなたをゴミのように捨てるだろう」と述べた。

あるホワイトハウス高官は、AI技術は米労働者を支援するものであって、置き換えるものではないと匿名を条件に語った。米国がAI分野で主導権を握れば雇用機会の創出につながるほか、財・サービスのコスト低下を通じて雇用成長をさらに後押しするという。米労働省は、労働者がAIの恩恵を享受できるよう技能訓練への投資を進めるとともに、AIインフラ構築に必要な職種への需要拡大にも対応する方針だ。

それでも草の根レベルでの不安は根強く、この点を考慮すべきなのは政治家にとどまらない。AIインテリジェンス企業10a Labsが運営するData Center Watchによれば、今年は地元の反対でデータセンター計画が阻止・延期される事例が急増している。調査では、4-6月期(第2四半期)に頓挫した投資額は980億ドル(約15兆2600億円)に達し、その規模は2023年以降の全四半期の累計を上回った。

こうした状況が一部プロジェクトに遅延や不確実性、政治リスクをもたらしており、投資家はそれを織り込み始める可能性があると、同社アナリストのミケル・ビラ氏は述べている。

 

原題:Trump and the Markets Love AI, But a Voter Backlash Is Brewing(抜粋)

--取材協力:Laura Curtis、Hadriana Lowenkron.

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