(ブルームバーグ):洞窟の中ででも暮らしていない限り、英国では今年、家計のひっ迫で外食を控える動きが広がっていることは誰でも知っている。ユーガブが10月に発表した外食調査によると、1年前に比べて外食を減らしたとの回答が38%に達した。高所得者層ですら、その割合は29%に上る。
だが、最近ロンドンでレストランの予約をしようとした経験があるなら、その実感は湧かないかもしれない。家計の厳しさを伝えるニュースは続いているが、人気店を中心に年末シーズンのロンドン市内のレストラン予約は昨年よりも増えている。消費者が他の支出を切り詰めて、外食を優先させている傾向が見て取れる。
ロンドンで8店舗、英国の残り地域とアイルランドでさらに4店舗を構える人気ステーキレストラン「Hawksmoor(ホークスムーア)」では、年末シーズンの予約が過去最高を記録する勢い。クリスマスまで5週間の予約人数は6万6000人を超え、ロンドンのセントパンクラスに11月下旬に開店したばかりの新店舗も好調だという。
ホークスムーアの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のウィル・ベケット氏は11月にブルームバーグテレビジョンに対し、「例年よりも忙しい」と述べ、「予約は前年比で15-16%増といったところだ。早くから予約が入り、人数も増えている」と話した。
その後のインタビューでベケット氏は、外食控えの傾向に逆行する形でHawksmoorの予約が好調な理由について自説を披露した。「誰も惨めに暮らしたくないものだ。厳しい1年だっただけに、クリスマスは楽しみたい。がっかりさせられるのも嫌だ。だから、最高の場所をいち早く予約しているのではないか」と語った。
有名シェフのゴードン・ラムゼイ氏による各レストランも、同様に盛況だ。ゴードン・ラムゼイ・レストランツ英国事業のアンディー・ウェンロック氏は「全店舗合計で、クリスマス時期の予約は前年の同時期を4-5%上回ると予測されている。われわれのブランド力と、グループ全体での質の高さのおかげだと思う」と述べた。
ロンドンのノッティングヒルにあるミシュランの星付き現代風欧州レストラン「Caractère(キャラクテール)」では、共同オーナー兼シェフのエミリー・ルー氏が、クリスマスを前にした予約の増加にうれしい悲鳴を上げている。「全体として見ると、今年は厳しい年だというのが一致した見方で、来店客は以前のようにはお金を使いたくない、あるいは使える状況にないというのが実情だ」と話す。
それでも、ルー氏のお店の今年の実績は前年を上回っている。11月は789人の来客があり、1人当たり平均支出は142.17ポンド(約2万9500円)だったという。これに対して2024年11月の来客数は643人、平均支出は123.89ポンド。12月分のデータはまだ入ってきていないという。
こうなると、英国を代表するブランドでも需要が伸びているのは驚きではないだろう。王室御用達の紅茶で有名なフォートナム・アンド・メイソンでは、「各レストランで年末シーズンは極めて好調な滑り出しだった」と、最高顧客責任者(CCO)のサイモン・トンプソン氏は説明。「11月の来客数は特に好調で、ロンドン中心部の旗艦店では8.4%増だった」と述べた。
ブランドを象徴する「ロイヤル・エクスチェンジ」や「ダイヤモンド・ジュビリー・ティーサロン」は一段と盛況で、来客数は前年比で16%を超える伸び。サロンで使えるギフト券は今や人気商品の一つに成長し、包装済みの紅茶やビスケットが定番ギフトとなっている同社にとっても、これは小さくない意味を持つとトンプソン氏は語った。
ミシュランの星付きレストランや有名シェフがいない地方のレストランでも、予約は伸びている。その理由の一部は皮肉にも、厳しい家計にある。
イングランド南西部コーンウォールの風光明媚(めいび)なワイナリーでレストラン「Barnaby’s(バーナビーズ)」を共同で創業したケイティー・トゥーグッドさんは、来店客の支出、予約件数がいずれも30%ほど前年を上回っていると話した。「外国旅行の料金が上がったため、自動車でコーンウォールに来る方がはるかに気軽だからだ」と見方を語った。
原題:Forget Budget Woes. London Restaurants Are Surprisingly Busy(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2025 Bloomberg L.P.