(ブルームバーグ):米資産運用会社アライアンス・バーンスタインのストラテジスト、イニゴ・フレーザー・ジェンキンス氏はかつて、パッシブ投資はマルクス主義よりも社会にとって悪いと警鐘を鳴らした。だが今では、その挑発的な表現でさえ認識が甘かった可能性があると述べている。
同氏は5日のリポートで、インデックスファンドに流れ込む数兆ドル規模の資金は、市場の動向を単に追っているのではなく、むしろゆがめているとの見解を示した。
「ビッグテック」と呼ばれる米国の大手テクノロジー企業が持つ支配力は、規模を実質より優先するパッシブ資金の流れによって増幅されているという。
投資家はベンチマークとなる株価指数をすでに支配しているという理由だけでビッグテックにより多くの資本を振り向け、結果的に既成勢力に資金を提供しているとし、同氏はこれを「ディストピア的共生」と呼ぶ。
アップルやマイクロソフト、エヌビディアといったハイテクの「プラットフォーム」大手とインデックスファンドの間にフィードバックループが生じ、パワーが一段と集中し、競争が阻害され、安全性を巡る錯覚が広がっているという。
従来のようにファンダメンタルズやアクティブ投資の確信が市場を動かしていた局面とは異なり、現在は資金フローが自動的で、リスクに無関心な場合も多い。
こうした警鐘を鳴らしているのはジェンキンス氏だけではないが、今回の批判は無視し難くなっている議論を再燃させた。米S&P500種株価指数の上位10社が現在、時価総額の3分の1余りを占め、2025年の上昇分の大半がハイテク主導だ。
同氏は「プラットフォーム企業の存在とアクティブな資本配分の欠如は、競争が低下した、より非効率的な形の資本主義を意味する」と指摘。「市場が集中し、時価総額加重の『パッシブ』指数へのフローが高水準にある局面では、最近のトレンドが反転した場合のリスクがより大きくなる」と警鐘を鳴らしている。
企業間の権力集中
巨大企業の台頭は、テクノロジーのより効率的な活用を反映している可能性がある一方で、反トラスト(独占禁止)政策の不備などの結果である恐れもあるとジェンキンス氏は分析。人工知能(AI)はこれらの問題をさらに深刻化させ、企業間の権力集中を一層進め得るという。
同氏が発表したリポート「ディストピア的共生:パッシブ投資とプラットフォーム資本主義」は、架空の人物3人が議論する対話形式で書かれている。登場人物の1人は、現状を是正して競争を回復するには20世紀初頭の「スタンダード・オイル分割」に匹敵する積極的な政策介入が必要だとまで論じている。
ジェンキンス氏は10年近く前に執筆した「沈黙の農奴制への道:なぜパッシブ投資はマルクス主義より悪いのか」と題する挑発的なリポートで、インデックス連動型投資の台頭は株式相関を高め、「資本の効率的配分」を阻害することにつながると警告していた。
同氏が勤務するアライアンス・バーンスタインは、この有名な調査リポートが公表されて以後も上場投資信託(ETF)の設定を続けているが、その新規設定はアクティブ運用商品に限られている。
アクティブ運用会社の中には同様の見解を示すところもある。アポロ・グローバル・マネジメントのファンドマネジャーは昨年、パッシブ投資という巨大勢力の隠れたコストにはボラティリティーの上昇や流動性の低下が含まれるとの見方を示した。
こうした批判には強い反論もある。ゴールドマン・サックス・グループの調査では、株価のバリュエーションにおいてファンダメンタルズの役割が依然として最も強力なけん引役であることが判明した。
シティグループは、業種に対する個別株の相対パフォーマンスにおいて、パッシブ勢よりもアクティブ運用のファンドマネジャーの方がはるかに大きな影響力を及ぼしていると結論付けた。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のETF担当シニアアナリスト、エリック・バルチュナス氏によると、「ETFは資本主義を損なわず、むしろ体現している」という。
「競争とイノベーションは極めて旺盛だ。これこそ資本主義の最良の姿であり、その恩恵を受けるのは投資家だ」と同氏はコメントしている。

原題:Quant Who Said Passive Era Is ‘Worse Than Marxism’ Doubles Down(抜粋)
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