高市政権の総合経済対策をつぶさに読むと、好循環を後押しし、中小企業の賃上げを側面支援するような内容が存在する。

決して石破政権が岸田政権からつないだリレーのバトンを落とした訳ではなく、政府の中ではバトンを引き継ぐ項目は存在する。本稿ではそうした点に注目して内容を紹介するものである。

賃上げ環境の整備は残った

高市政権の経済対策は、何かと財政拡張ばかりが目立つ。筆者は、まるで石破前政権から、政権交代の大転換が起こったような印象も受けている。

石破政権の経済・財政・物価の安定的バランスの追求が崩れたことは残念であるが、発表された総合経済対策の資料に目を通すと、重要な中小企業政策・賃上げ促進は、どうにか生き残っていた。

特に、「中小企業・小規模事業者をはじめとする賃上げ環境の整備」という項目である。今回の総合経済対策には、三本柱の第一の柱として、「生活の安全保障・物価高への対応」という構成がある。そこでは、賃上げ促進がきちんと謳われている。

石破・岸田政権までは、経済の好循環を高め、賃上げ率を高めることが、家計の物価高対策の中核であった。

その推進の課程では、春闘で従業員の3割を占める大企業を中心とした賃上げはできても、7割を占める中小企業の賃上げは不十分だという議論があった。

その課題に応えるまでの間に石破政権は倒れてしまい、高市政権に交代した。当初、高市首相は好循環や賃上げの推進には積極的ではない印象もあったが、とりまとめられた総合経済対策には盛り込まれていて、筆者は胸をなで下ろしている。

具体的な賃上げ環境の整備とは

では、どのような賃上げ促進の具体策が盛り込まれているのかを列挙してみたい。財政出動と関係しているのは、重点支援交付金である。

交付金が支給される対象には、推奨事業メニューというものがある。すでにある賃上げ促進税制を活用しにくい中小企業・農林水産事業者には、この推奨事業の実行を通じて、交付金が支給されることが、間接的に賃上げの実現につながる。

次に、「労働供給制約社会の中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略(仮称)」をつくり、そこで①価格転嫁、②省力化投資、③M&A・事業承継、④売上拡大・投資拡大の促進を考える。

注目したいのは、生産性向上に向けて、売上を意欲的に増やすための「100億宣言企業」のプランである。中小企業庁が旗を振り、売上規模を将来的に100億円超にしたい企業が名乗りをあげて、政府がそれを間接的に支援する枠組みである。

企業にとって、事業拡大をしようとすれば新しい人材を外から採用しなくてはいけなくなる。外からの人材は給与水準が高く、その採用では内部の給与水準との格差を埋める圧力が生じる。

技能労働者は特に不足しており、社外人材の登用は内部労働市場の賃上げ圧力の増大に寄与するというのは、実務的にもよくわかる理屈だ。